万年筆のお医者さん
さて、前回は自己紹介をさせていただきました。そこで万年筆というキーワードがひとつ出ましたので、ついでにちょっとマニアックなお話をしてみましょう。
万年筆には、お医者さんがいます。その名も「ペンドクター」といいます。だいたいはメーカーに勤めている方です。ドクターの名の通り、白衣を着ています。もっとも、白衣の方ばかりではないようですけれど。
ペンドクターのお仕事は、ペン先の修理や調整です。万年筆は個体差があり、さらに個体差がある中を使う個々人の筆記スタイルというかけ算が生じるのです。そこを取り持ってくれるのがペンドクターですね。
自分のペンの書き味が、どうもなじまない。たとえば、インクがかすれる、特定の方向にうまく書けない、もっとインクの出方を少なくしてほしい。そういった基本的な調整もありますし、ドクターによっては「書き味をなめらかにする」などといった直接的な機能とは関係のない、使用者の満足感を高める調整をしていただけることもあります。
おっとそうでした、ペンドクターとどこで会えるか。それは多くは文具店のフェアなど、イベントにいらっしゃることが多いです。それ以外は工場にいらっしゃるのだと思います。こういったイベント(ペンクリニック、と言います)では修理ではなく調整のみということもありますので、案内をよく見てから行ってみてください。文具店も積極的に情報を発信していますし、万年筆メーカーホームページでも開催場所などが確認できるはずです。
万年筆は壊れてしまってもかなり修理がきく道具です。机から落としてペン先が曲がってしまっても、販売店を通じてメーカー修理などに出すことによって直すことができることもあります。愛着のあるペン先を捨てずに済むんです。ただし、こういう修理は少し時間がかかりますので、フェアなどでのペンクリニックでは時間が足らないこともあります。こういった理由から、フェアでは「調整のみ」となっていることもありますのでご注意を。
ペンドクターってなんだ? つまるところ、日本語でいえば職人さんです。わたしがお会いした皆さんは、とても気さくで万年筆が大好きな方々でした。ちょっと敷居が高いと感じられるかもしれませんが、行ってみれば周りには同じ万年筆好きがおり、話に花も咲きます。
ひとつアドバイスを書くとすると、ペンクリニックへ行くときに、普段書いている紙(ノートや手帳)を持って行きましょう。そうすると、調整がスムーズです。ペンドクターが調整したものを普段の紙で確認し、さらに「もう少しこうしてほしい」といった要望が出せるからです。調整場所に置いてある紙と普段使っている紙に性質の違いがあることはよくあるんです。だから、普段の紙を持っていくと「ペンドクターのところではよかったけど、自宅で書いてみたらあまりよくなかった」という事態が防げます。
かなりマニアックな話になりました。最後に、ペンクリニックは昔は無料が多かったのですが、最近では有料の場合もあるようです。そのあたりも確かめてみてください。行ってみれば、自分のペンが別物のように生まれ変わりますよ。