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PEN-EEが変えたもの

OLYMPUS PEN-EEについて語ります。
かなりの長文なので興味がなければ作例だけでも見ていって下さい。


PEN-EE後期型

1.PEN-EEが変えたもの

PEN-EEが発売したのは1961年

時代は高度成長期の真っ只中。
テレビのカラー放送は始まっているものの、カラーテレビは手に入らず、最新の機器は庶民にとって未だ遠いものでした。

カメラ業界はというとレンジファインダー機が主流でしたが、1959年にはNikonFが発売し、一眼レフの原型が定まりつつあるような時代になります。

そんな最中に1961年1月にCanonから歴史的な大ヒットとなるキャノネットが発売されます。

キャノネット 写真は1964年の後期型

このカメラは最新技術であるセレン光電池を備えたシャッター速度優先AE搭載機になります。
最新鋭の機種でありながら、当時のキャノン社員が自分達が買えるカメラを目指して開発され、月給程度(18800円)の値段で販売されます。
この価格破壊によって、これまで高級品だったカメラが一気に大衆化され、生産が追いつかない程に売れ、3年間で100万台売れました。
このカメラの登場による技術革新及び各部品のユニット化による大量生産による価格破壊によって、戦前から続く数多のカメラメーカーが廃業や撤退に追い込まれます。

今回の主役PEN-EEの原型となる初代PENが発売したのが1959年。

当時の販売価格は月給の半額である6000円という価格を目指して開発され、6800円という価格で登場しました。
万年筆(PEN)のようにいつでも持ち出せるコンパクトさと価格を目指し、徹底的なコストカットを行っていますが、写りに関わる範囲は手を抜かず、高級機と同等のテナー型レンズを搭載したことで、プロのサブ機としても認められ、大ヒットしました。

その後継機であるPEN-EEは1961年10月に10000円という値段で販売されます。

前述したようにライバル関係にあるキャノネットは18800円ですから、かなり迷うところです。現代の貨幣価値でいうと約10万円ほどの差になります。

現代におけるOMシステムのマイクロフォーサーズかCanonRシリーズのフルサイズかという選択肢に似ており、その構図は今にも引き継がれています。

結果はキャノネットとPEN-EEはどちらも歴史的大ヒットとなり、一部の上流階級にのみ扱えるカメラが、一気に大衆に普及した瞬間となりました。

同様に、大衆車として名高いスバル360も1959年に登場し、価格は425000円。
自家用車も夢ではなくなりました。

1961年という年はソ連のユーリ・ガガーリン
が人類初の宇宙飛行に成功した年でもあります。

翌年の1962年にはアメリカ大統領ジョンFケネディがWe chose to go to the moonで有名なアポロ計画の演説をしています。

いわゆる高度経済成長期にあって、かつて三種の神器といわれたテレビ、冷蔵庫、洗濯機は既に手の内にあり、新たに自家用車、クーラー、カラーテレビが新たな三種の神器と呼ばれた時代であり、カメラも憧れの存在では無い時代を迎えたのでした。

その後、キャノネットとPEN-EEは数十年に渡り大衆に愛されるカメラとなりました。

2.PENのような傾向性

前述した通り万年筆のように日々持ち出せるカメラを目指して開発されました(ネーミングについては販売直前に決められたようですが)

ジーンズのポケットに入れようと思えば入ってしまうサイズであり、現代のコンデジとそう違いがありません。

サイズは、108W x 66H x 42D mm

FUJIFILMの写ルンですのサイズは、
108W×54H×34Dmm

後述する巻き取り方式にしても、写ルンですの設計においてはかなりPENを意識されており、その幅が同じことを見ても、お手軽なカメラというジャンルにおける先駆的な存在でありながら既に完成されていたと言えます。

とはいえ、ほぼ金属製のPEN-EEは350gと結構重たいです。
1981年に発売するPEN-EEの最終形態であるPEN-EFではプラスチックボディとなっていますが、それでも280gと70gしか変わりません。
この70g削るために20年かかる程、軽量化が突き詰められていることに驚かされます。

さっと取り出して撮れる

3.PEN-EEのシャッター速度

中身は極めて単純ですが、廉価機にありがちなシャッター羽と絞りバネを兼用するような廉価機ではなく、初代PENの後期型より専用設計図のコパル製シャッターを搭載しています。

また、PEN-EEには赤ベロと呼ばれる露出不足時のロック機能が搭載されています。割としっかりと反応してくれるため、撮りたいにとき撮れない!と少しイラつくことがある位ですが、後に現像した後に露出不足による失敗はまずありません。

ファインダーに出てくる赤ベロ

PEN-EEの最初期は1/60シャッタースピード固定でしたが、後期型から1/30と1/250の2速に変更されました。

ISO100フィルムであれば晴れた日の露出はF8 1/250となります。

晴れたらセンパチ(1/1000F8)

PEN-EEは焦点距離が固定なので、被写界深度広げるために極力絞りたいわけです。

前期型は1/60固定で晴れた日であればF16まで絞れました。
PEN-EEはマニュアル時F22まで絞れますが、深度を稼ぐには十分な値であり、最大限レンズ性能を発揮できる設定でした。

しかし、その後に変更があったのは、技術的な進歩により変則シャッターが可能になったことと、おそらく1/60では手ブレの問題があったのと、部屋内での1/60F3.5は暗く、室内ではほぼ撮影不可能であったために、バランスを取ったのだと推測出来ます。
代償として遠景が少し前ピンにボケてしまいます。

無限側は晴れててもボケてしまう

さらに、EE-2の後期、EE-3は1/40と1/200に変更されたのは、低速側においては、やはり手ブレの問題だった気がします。EE-2からはISO400にも対応したため、少しはシャッター速度を稼げるようになったのも理由の一つかもしれません。
ISO400での晴れた日の露出は1/250F16ですので、再び被写界深度を稼げる設定になったわけです。

4.搭載されたレンズ

PEN-EEに搭載されたレンズはD.zuiko 28mmF3.5です。
Dとはレンズの枚数を表しており、アルファベットの4番目で4枚構成という意味になります。カールツァイスの生み出した傑作レンズであるテッサー型と同じ4枚2群構成のレンズになります。
レンズ口径が小さいためF3.5と暗いレンズですが、シャッター速度の項で述べた様に焦点距離が固定(2.5mmあたり)ですので開放で撮ることはまずあり得ません。

元々ライカのサブ機を目指していたという事もあり、描写力は高級機に引けを取りません。

5.ハーフサイズカメラという利点

PEN-EEにおいて語るべきなのは、ハーフサイズというジャンルを確かなものにした事になります。
PENより以前にも35mmフィルムの縦巻きで撮るカメラはありましたが、PENほど本気で作られたカメラはありませんでした。
後にRICOHのオートハーフやCanonのDemiなどが追随し、60年代から70年代にかけてのハーフサイズブームの火付け役となりました。

そもそも35mmフィルムは映画用の規格であり、フィルムの向きは縦に使うものでした。
それを横巻きにしたのが、ライカで有名なバナック氏であり、現在のフィルムカメラの原型としました。

縦型が本来の向き

つまりハーフサイズはフィルム本来のコマ割りになるわけです。
普通の発想であれば、通常の35mmと同じ構図で撮るためにフィルムは縦巻きにして横構図にするはずです。
そうとはせずPENはフィルムを横巻きのまま縦構図での撮影を基本とする設計にしています。

PEN登場から70年後の現在に撮られる写真の殆どがスマホによる縦構図であるということを考えれば、写真として横構図こだわる必要はなく、先見性があったと言えるかもしれません。
実際に当時それは受け入れられました。
そして、縦構図であることが、現代においてもハーフサイズカメラが人気である要因の一つになっています。

しかし、ハーフサイズカメラは80年代にもなると新機種とほとんどなくなり、最後に1981年にPEN-EFが出た以降は、一部の奇抜なカメラとして登場する程度に衰退しました。

その理由はフィルムが安価で売られる様になった事と、70年代になってカラーが主流になると
カラープリントのコストの方が高くなり、画質の良いフルサイズで2本のフィルムを使った方が良いと考える人が増えたためでした。

現在ハーフサイズカメラが注目されている理由には、フィルムの高騰化が挙げられます。
デジタルスキャン代やプリント代が2倍かかったとしても、フルサイズで撮るより安くなり、再び価値が上がってきました。

簡単に計算して見ようかと思ったのですが、長くなったので割愛します。
現在においては、良いお店に出会えれば、フィルム代はかなり安く済みます。

6.PEN-EEを使うリスク

ハーフサイズは現像を頼まれる側からすると結構面倒です。
データ化する際には通常のコマサイズでは合わないため、下手したら手作業でトリミングする必要が生じます。
現像代は同じですが、失敗すれば2倍の枚数失うリスクもあります。

ラボも基本的には35mm版を基準にしているため、結構面倒なので断られるお店も多いようです。

また、フィルム代が安いモノクロで撮影するとカメラのキタムラなどでは使用する薬液が違うので自社でモノクロ現像していません。私は実店舗で納期2週間と言われた気がします。

ハーフ+モノクロで撮影したけど現像とプリントが出来ない!なんてこともありえるので注意が必要です。

ハーフサイズは35mmフルサイズより面積が1.4倍小さいです。ISO感度が高いフィルムほど撮影した像の粒状感がマシでザラつきます。
それを更にL版でプリントすると更にそれを引き伸ばすことになりますので、荒れた画像になってしまいます。
ISO400以上のフィルムはあまり使用に適していません。

前述した通り、PEN-EEのレンズはF3.5、シャッター速度は1/30です。
1/30F3.5はISO400フィルムでも室内の食卓、外食の席、日の出ていない明るい時間帯などはほぼ赤ベロが出て撮影出来ません。

EE2よりホットシューが追加されますので、市販のストロボを取り付けることで撮影できる様になりますが、ストロボは中々嵩張ります。

自分の用途も考えた上で使用することを検討した方が良いです。

7.PEN-EEを買うなら

70年前のカメラですので、壊れているものが殆どです。使われていればまだ元気ですが、大抵は押入れに終われたまま埃やカビまみれになっています。

それでもPEN-EEは作りがしっかりしているので、露出計も含めて稼働するものも多いです。
乾電池を必要としないことも長生きしている要因になっています。
購入の際には以下の点くらいは確認して下さい。

レンズ基部にあるASAと書かれた環を1番大きな数字に合わせます。EEなら200です。
室内なら照明にカメラを向け、ファインダーを覗いたままシャッターを押します。その時に赤ベロが出てくれば露出計が動作している事になります。
また、その際にレンズの周りにあるセレンを塞がないように気をつけて下さい。

レンズの周りにある凸凹がセレン
凹凸を作ることで平均的な光を取り入れるわけです。



購入先について

リサイクルショップやフリマアプリでの購入はあまりお勧めしません。売ってる側も素人で何が壊れているかすら把握していないケースが大半です。
倍の値段がしても、しっかりした中古カメラ屋さんで買った方が結果的にお得です。
中にはいい加減なところもあるみたいですが。。。

PENは組み立てやすさもコストカットにおいて徹底されているため、割と整備すれば簡単に治ることが多いですが、慣れてても数時間はかかります。整備のための道具も揃える必要があるため結構面倒です。

カメラは非常にデリケートな精密機械です。
動きが悪い部分にKURE556を吹き掛ける人が居るみたいですが絶対にやめた方がいいです。その時は動いても直ぐに動かなくなり、再起不能になる場合があります。そういう事をして販売している人もいるのが怖いところです。

8.作例

最後に作例を並べて終わります。
長々とここまで読む人は多分いないと思いますが、このカメラに興味を持ち、100年を目指して使われていって欲しいと願っています。
カメラ史に残る名機です。

晴れた日は被写界深度深め
タイルの目地も歪まない
空は白飛びしがちき
基本、ボケない

DATA FOMA 100
ミクロファイン現像
自宅スキャン
Lightroom取り込みですが無加工です。

OLYMPUS PEN-EE
skylightフィルターを使用しているため少しマゼンタ寄りです。


最後までお読みいただきありがとうございました。

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