【MIL】Burnesへの違和感を本気で探ったら予想外の結末に
ブルワーズ担当のあなんです。
タイトルからいかにも釣り記事の匂いがしますが、いたってまじめな記事です。
5月ごろからなんとなくあったBurnesへの違和感について探っていったところ、実に興味深い結果が出たため急いでまとめました。
本調子ではないBurnes
6/17現在、Burnesは13試合に登板して4勝4敗、防御率2.52。勝ち星こそ恵まれていませんが、投球イニング78.2はNL4位。奪三振数100はNL1位とエースらしい数字を残しています。
その一方で、被HR数が急増。昨シーズンは7本でしたが、今年は前半戦で既に10本打たれています。また、HardHit率も30.5%から38.1%に上昇しており、打球管理の面で大幅に悪化しています。
baseball savantによると、
他にも
・カーブの縦変化量が3.3インチ減少
・カットのPutAway%:31.8%→23.2%
など、細かい数字をちまちま眺めていれば悪化している指標がわんさか出てくるわけですが、、、
先述の通り今回は私がふわっと抱いた違和感を検証する記事です。Burnesの悪いところを列挙する記事ではないのでここらへんでおしまい。次からが本題です。
Burnesへの違和感
Burnesの投球を観てて感じたことがあります。
““追い込んでから、長くね???””
2ストライクを取った後、なかなか決めきれない印象を受けました。Burnesには、「無駄な球を投げず、カットボールでばっさばっさ三振に切る」イメージが強くありました。そのため、今シーズンのテンポの悪さが違和感でしかないのです。
もっと抽象的に言うと、「圧倒さに欠ける」。欲張りかもしれませんが、昨年と比較していわゆるdominate感がありません。もちろん被HR数の増加はこの要因のひとつでしょうが、表に出ない面で何か物足りなさを感じました。
というわけで、まずはこの違和感を検証します。
これ以降出てくる数字は、記載がない限りRとstatcastデータを用いて独自に計算したものになります。なお、4勝目を挙げた6/16の試合データは含まれていません。
「追い込んでからが長い」はホント?
まず、打席あたりの投球数の変化を調べました。
微増していますが、大きな変化ではありません。
次に、投手有利のカウント(0-2、1-2)時の投球結果割合を調べました。
追い込んだ直後の投球でボールになる割合が8.1ポイントも増えています。私が抱いた「追い込んでからが長い」という違和感に一致しています。
続いて投球ゾーンの変化について。
投球ゾーンはこのように定義します。
この4つのゾーンに加えて、
Shadow内 かつ 緑点線内:Shadow_in
Shadow内 かつ 緑点線外:Shadow_outとして、
「投球通過ゾーン(plate_x, playe_z)」のデータと下の画像をもとに各投球を分類しました。
投球ゾーンの分布にもこのような変化が。
昨年はストライクゾーン(heart+shadow_in)に投げられた割合が33.9%でしたが、今年は24.5%と大きく減少しています。一方で、chaseゾーンに投げられた割合が7ポイント上昇しています。
結論
「追い込んでからが長い」という違和感は本当でした。ボールゾーンに投じられる割合が増え、ボールカウントが増える。「サクッと打者を打ち取ってくれない」という印象に誤りはなかったみたいです(ホッとした)。
しかし、同時に湧いた疑問がひとつ。
““なぜボールの投球割合が増えたのだろうか?””
この原因を考えた時、まず思いついたのは、Burnesが過度に三振を意識してコントロールを乱しているという可能性。実際、ボールゾーンに投じる割合が大幅に増えています。
しかし、意図して投げている可能性も捨てきれません。かつてNPBで盛んだったいわゆる「一球外し」はボールカウントを増やすだけの愚策と指摘されています。そんな愚策をMLBが採用しているはずがないのですが、もしかするともしかするわけです。
投手有利のカウントでボールゾーンに投げる割合が増えたのは、意図したものなのか、あるいは意図せずボールゾーンに投げてしまっている、つまり制球難がゆえなのか。
この疑問を検証しました。
捕手別で検証
投手有利のカウントに持ってった後、"あえて"ボールゾーンに投じているとすると、考えられる仮説は「ボールゾーンへ投じるよう捕手が要求している」。MLBではピッチングの主導権が投手にあるとされていますが、いちおう検証します。
今年のMILはOmar NarvaezとVictor Caratiniの2人体制。相手先発が右投手の試合では左打ちのNarvaezが、左投手の試合ではスイッチヒッターのCaratiniがマスクを被っています。
Narvaezの配球に変化はあるか?
まず、Narvaezがマスクを被っていた試合について21年と22年で比較します。Narvaezは昨年もMILの正捕手としてBurnesと21試合バッテリーを組んでいました。
インプレイ率が大幅ダウンしていますが、サンプル数が少ないのもあって、このデータだけではNarvaezの配球に変化は認められません。
注目すべきは、際どいゾーン(shadow-out)に投げた割合。昨年の18.1%から10ポイント近く落ちています。そしてそれと引き換えに、chaseゾーンへの割合が10ポイント上昇しています。
NarvaezとCaratiniの比較
次に、今年のCaratiniとNarvaezで比較しました。
NarvaezとCaratiniで試合数が均等でないので一概には言えませんが、違和感のもとと思われる数字に開きがありました。ストライクになる割合が、CaratiniはNarvaezよりなんと13ポイントも低い。ストライクゾーンへの投球割合もNarvaezの30.5%に対してCaratiniは22.7%。一方で、shadow_outへの投球割合はCaratiniが10ポイントも上回っています。
ここで考えられる仮説は「Caratiniは慎重すぎる」という説。投手有利のカウントでCaratiniは厳しいゾーンを要求している可能性が考えられます。
ランナー別で検証
投手有利のカウントでの投球がどんな場面でなされたかを検証します。得点圏にランナーがいる場面で慎重になるのは当然です。特に多くマスクを被っているCaratiniにはその可能性が考えられます。
ランナー表記の見方
・ランナーの有無を0/1で表記(いる=1、いない=0)
・一の位が一塁走者、十の位が二塁走者、百の位が三塁走者の有無をそれぞれ表す
例)
000:ランナーなし 010:ランナー二塁 101:ランナー一、三塁
まず、Narvaezがマスクを被った試合。
次に、Caratiniがマスクを被った試合。
注目すべきは、ランナーなし(000)の場面。ストライクゾーンに投じられた割合が、Narvaezがマスクを被った試合で32.4%(10.8+21.6)に対して、Caratiniがマスクを被った試合では22.7%(6.9+15.8)。ここでも10ポイント近い開きがあります。
ちなみに2021年のNarvaezーBurnesコンビの割合がこちら。
ランナーなしの場面でストライクゾーンに投げ込んた割合は33.2%。Narvaezの姿勢は2021年からあまり変わってはいません。
まとめ
「追い込んでからが長い」という違和感の正体は、Burnesのコマンド力低下だけではありませんでした。
今シーズンのBurnesは投手有利なカウントの後、明らかなボールゾーンへの投球が増加し、ボールカウントを増やしているとわかりました。この原因のひとつはBurnesの制球難と考えられます。
しかし、もうひとつ。
投手有利なカウント、かつ甘い球が得点に直結しにくい場面で、Caratiniは過度に慎重を期している可能性が浮上しました。決して「1球外し」という露骨な策ではありません。しかし、""Narvaezと比較すると""ストライクゾーンで勝負する姿勢が見られないのです。
このような経緯によって「追い込んでからが長い」「打者を打ちとるまでが”思いの外”長く、圧倒さを感じない」という印象につながったとみられます。
感想
正直、Rで計算しているときは捕手に差なんてない、Burnesがコントロールを乱しているだけと感じていました。この数字が出るまではnoteにするなんて考えてませんでしたから。
もちろん、2022年のNarvaezのサンプル数が少ないので、Narvaezの配球が昨年と変わらないとは言い切れません。また、Caratiniは開幕戦前日に移籍したため、Burnesとコミュニケーションがとれていない可能性も十分考えられます。あくまで、私の違和感の正体はBurnes制球難以外にも考えられるという感じです。
それにしても、出発点の「追い込んでからが長いな」という違和感から、まさか「Caratiniが過度に慎重である」という仮説に達するとは思ってもみませんでした。感覚って面白いですね。
以上です。
長くなりましたが、最後まで読んでいただきありがとうございます。
サムネ
追記(10/7)
シーズン終了後に改めて振り返りました。