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【MIL】バントが異様に増えている
○ 昨年までのバント傾向
2023年のブルワーズのバント企図数は21回。これはMLB全体で5番目に少ない数でした。内訳をみると、セーフティーバントが13回で、送りバント(犠打)は6回。
当時監督を務めていたCounsell(現カブス監督)はバントに非常に否定的でした。フルシーズンを指揮した2016年以降、ブルワーズのバント企図数はその年を除き毎年平均以下。犠打(野手限定)に至っては1年通して10回あるかないかでした。
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太線がMIL
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太線がMIL
自身は現役時代、通算57回のバントを決めていますが、監督しては「得点を多くとるのにバントは有効な手段ではない」と語っています。
また、同僚の主砲Prince Fielderに「バントしたらぶっ飛ばす」と脅したというエピソードも残っています。
○ 監督交代
Cousellがカブスに引き抜かれ、後を継いだのは2016年からベンチコーチを務めていた65歳のPat Murphy。Counsellよりも一回り以上年上で、25年間大学野球のコーチを務めたキャリアを持っています。
そんなMurphy監督は、就任直後の質疑応答で記者からの質問にこのような回答をしました。
(20分12秒あたり)
記者:Are you gonna bunt?(バントの指示はするのか?)
監督:I bet I don't bunt one time this year. (今季は一度たりともしないよ)
これに現地X民は賛否両論。「最高の監督だ」「2024NL最優秀監督候補」「だからランナーを進められないんだ」などなど。長くアマチュア野球の身を置いていましたが、Counsellの意志を継ぐ監督として注目されていました。
○ 今シーズン
バント企図数はびっくりするほど増えています。6/26現在、バント数は全体5位の29回で、チームとしては22年の年間企図数を既に超えました。余りにバントが多いがゆえ、相手投手がヒートアップして乱闘寸前になったシーンもありました。
Benches clear in Boston. 👀#ThisIsMyCrew #Brewers #MLB pic.twitter.com/nTKoQQqij9
— Bally Sports Wisconsin (@BallySportWI) May 26, 2024
選手別にみると、トップがTurang(9回)で、Perkins(8回)、Frelick(5回)と続きます。いずれも上位10%のスプリントスピードを誇ります。
さらに詳しく掘り下げると興味深い特徴が。
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ブルワーズはランナーなしの場面で頻繁にバントを仕掛けています。ここまでランナーなしでのバントはロイヤルズに次いで2番目に多い11回。一方で、犠牲バントは18位タイの6回(1位はSTLの13回)。ブルワーズはバントを「ランナーを進める手段」としてではなく「出塁するための手段」として活用していると思われます。
そして、その傾向を強く表すデータがこちら。
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ブルワーズはツーアウトからでも多くバントを試みています。二死からのバント数は6回でMLBトップ。元々バントの多いナショナルズやロイヤルズが1回/3回しかなく、その差は顕著です。加えて、ブルワーズはランナーなしの場面だけではなく、ランナー二塁、一三塁、二三塁の場面でそれぞれ1回記録しています。セオリーとはかけ離れたバントもしばしば見られるのです(バントが現代野球のセオリーに沿ってるかは別)。
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CHRISTIAN YELICH BUNT
— Bally Sports Wisconsin (@BallySportWI) May 11, 2024
WE REPEAT, YELI BUNT!!!!! pic.twitter.com/58KDhbGIw1
○ 真相は
ここまで就任会見の内容とは180°異なる采配をしているMurphy監督。バントは監督の指示なのか、選手の選択なのか。取材に対して監督は「誰が打席に立っているかによるし、選手による選択でもある。なぜそんなことをしたと問いただすこともあるが、上手くいけば””よくやった!!””と称える」と答えています。
一方で「バントは主要な攻撃手段とは思わない」とも語っています。バント否定派に身を置きつつ、選手の判断を尊重しているとみられます。実際、セーフティーバントの成功率は高く、バントが安打になった数は計12回と4番目に多いです。
バントは貴重な追加点を呼び込んだケースもあれば、失敗して敗戦に直結したケースもあります。
印象的な敗戦は現地6/14のレッズ戦。3点ビハインドで迎えた9回裏、クローザーのDiazから2点をとってなおも二死二、三塁。直前の打者が同点タイムリーを放つもビデオ判定で覆された後、打席に立ったのはPerkins。一打サヨナラのチャンスでPerkinsはなんと初球をバント。これが小フライとなってDiazがキャッチ、ゲームセットとなりました。
That deescalated quickly. The Brewers saw the tying run taken off the board upon replay review, and then Blake Perkins pops up a bunt for the final out of a 6-5 loss to the Reds. pic.twitter.com/WuBnN376SJ
— Adam McCalvy (@AdamMcCalvy) June 15, 2024
Perkinsはそれまでチームで2番目に多い7回のバントを決めており、うち4度はヒットにしていました。自信を持ってバントを選択したとみられますが、本人は試合後「ヒーローになりたくなかった。バントが最善の手段だと思ったが明らかに間違いだった」と反省の弁を述べました。監督も「彼が決断を後悔するのは明らかだが、ステップアップしている。若さゆえの理にかなわない決断をすることだってある。」と庇いました。
自分としては、今季のブルワーズは例年より打線が活発という点で(セーフティー)バントを重視する必要はないと思います。得点期待値云々もそうですが、「成功してもシングルヒットどまり」のセーフティーバントではやや非効率的かと。特にTurangやPerkinsなど今季バッティングが飛躍的に向上している彼らこそ、バントなどせず長打を狙ってヒッティングをしてほしいところです。
.@RealJoshReddick's philosophy on bunting: pic.twitter.com/XSP36NnQqo
— ThinkBlueLA (@Think_BlueLA) September 21, 2016