毎週ショートショート お題 「彦星誘拐」
幾年月が流れたろうか、神の着物を織ることが使命だった織姫の仕事は、いつからか皆の願いを叶えることに変わっていった。地上から織姫に託された様々な願いごとの中から、神官によって選ばれたいくつかの短冊が織姫に手渡されるのだ。
彦星との逢瀬の時間を夢見て、織姫は短冊に書かれた願いを一つずつ叶えていったが、七月七日の夜にだけ天の川に架かけられる橋の上に彦星の姿はなかった。
彦星との再会が叶わなかった織姫は悲しみ、その行方を案じて神官達に彦星の捜索を依頼した。
後日、彦星が地上で誘拐されそのまま帰らぬ人となって港で発見されたと、織姫は神官によって聞かされた。
織姫の仕事が変わったように、牛の世話をする彦星の仕事も、いつからか地上に降りて願いごとの書かれた短冊を回収する業務に変わっていた。
地上と唯一接点を持ち織姫とも親密な関係にある彦星には、願いにごとに関する様々な儲け話が持ちかけられるようになり、その癒着によって生まれた利権を長きに渡り貪っていたのだった。
いつか大きなトラブルに巻き込まれることは明白だった。
織姫と出会うことなく、いつまでも真面目に牛の世話をする働き者でいた方が、彦星にとっては幸せだったのかもしれない。
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