毎週ショートショートお題 「それでも地球は曲がっている」
男は宇宙ステーションで長く生活をしていた。
一度の滞在期間は半年ほどで宇宙の環境を利用した実験や研究を行う傍ら、男は毎日のように地球を眺め観察していた。最初のうちは故郷である地球への愛と畏敬の念からくるものだった。しかし二度目の宇宙での活動が始まってすぐに、男はある異変に気付いた。
地球が本来の楕円体から、内側に凹むように曲がり始めているのだ。
それは誰よりも地球を観察している男にしか気付かぬほどの僅かなもので、他の宇宙飛行士に話しても取り合ってもらえない。
男はこれに危機感を抱いた。地球で生活をしている間の数年、地震などの災害が世界各地で頻発していたのだ。これは地盤プレートの歪みなどという生易しい問題ではなく地球全体の歪み、海面の上昇も温暖化ではなく地球自体の圧縮が大きな要因だと考えた。
男はこれを正式に発表するべきだと提唱したが、宇宙生活でのストレスでおかしくなったのだと判断された。
すぐに地球に帰還させられた男は、「それでも地球は曲がっている」と主張したが、それは人類を脅かしパニックに陥れる悪魔の迷信だと断罪され、男は処刑された。
男の貫いた真っ直ぐな訴えは、数百年後の未来など自分達には関係がないという、世界の曲がった意思によって闇に葬られた。
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