「漫才みたいな」
夜中に通った事のない道を一人で散歩をしていると、角を曲がった所で少し広めの公園が現れた。樹木に覆われた公園のフェンスに沿って歩くと、公園内からサッカーボールでドリブルをする音が聞こえてきた。
小気味いいドリブル音からは、中々のテクニシャン振りがうかがえる。
昔は自分もこうして夜中に一人公園でドリブルの練習をしていたものだと、懐かしい気持ちで入り口から公園を覗いてみた。
しかし公園にはドリブルするサッカー少年の姿はおろか、ひとっこ一人いなかった。
…ん?…怖い話?
地面にボールをつく音や、ブランコ漕ぐ音みたいなのは怖い話で聞いたことがある。だがドリブルをする音というのは、肉体を持たない霊体にしてはあまりにも活発過ぎやしないだろうか。
半透明で靄がかった霊体が、巧みな足さばきでシザーズなどのフェイントを繰り出す姿を想像すると、おかしくて一人でニヤニヤしてしまう。端から見ればきっとそんな僕が一番怖い存在に映っていただろう。
例えばこんな感じにアレンジ出来そう。
「あれは僕が中学時代の時のことです。夜中に学校の前を通ったら、誰もいない筈の体育館からバレーのレシーブをする音が聞こえてきたんです…」
何してんねん、ボールつく音ぐらいで我慢せな。霊体が本格的な練習すんな、お前もレシーブてよう分かったな?
「実はね…中学三年間バレー部だったんですよ…」
怖い話みたいに言うなよ。
「キャプテンで…補欠です…」
怖いな!
「最初は聞き間違いだと思ったんです、でもその音は鳴り止む事なく響いていた…ビシッ!ゴロゴロゴロ~、ビシッ!ゴロゴロゴロ~、ビシッ!ゴロゴロゴロ~…」
回転レシーブしてるな。霊体が残していいのは未練だけやから、夜中の体育館で全国を目指した活気ある練習すんのやめて。
「もう一本お願いします!」
声だしたっ!?
「次はもっと厳しいコース行くぞ!」
コーチも出てきた!?いや何これ?普通の練習してるだけちゃうん。
「コーチ、私もう駄目です!えっ!?ちょっと…コーチ…?」
「すまん、弱ってるお前を見てたら抱きしめずにはいられなかった」
「コーチ…、私..実はコーチのことが..!」
「気付けば僕はもう体育館の前に立っていました。でも、今この扉だけは絶対に開けちゃいけない!そんな雰囲気が漂っていたんです…」
開けたあかんよ!今一番見たらあかんシーンやから。
「コーチ…キスしてくれませんか…」
「僕は自分の心臓が音が聞こえる程ドキドキしていました、怖かった…でも体育館の扉を開けようとする手を止めることができなかったんだ!」
得体の知れへん何かに支配されてる感じで表現すなよ、ただのエロガキの好奇心やろ。
「駄目だと分かってるのに!この感情は何なんだ!」
思春期!中学生とかちょうど興味を持ち出す年齢や。
「僕は体育館の扉を開けました、でも僕の記憶が残ってるのはここまでなんです…」
何でなん?なんかあったん?ようやく怖そうな要素出てきたか。
「後から保健室の先生に聞いた話ですが、翌朝体育館の前で両鼻から鼻血を出してぶっ倒れてる僕を、用務員のおじさんが見つけたそうです…」
もうええわ。
うん、即興の割には悪くない。