毎週ショートショートお題 「長距離恋愛販売中」
「長距離恋愛販売中」
少女が胸元に掲げるダンボールをヘッドライトの端で捉えた。
僕は車を停め、なるべく優しい口調で声をかけた。
「こんな時間に何をしているんだい?」
「見ての通り、ちなみにあなたは何処まで行くの?」
彼女の声は見た目よりもずっと大人びて、その響きには僕を審査するような緊張感があった。
「僕は今から東京に戻るところだけど」
「それなら良かった。東京までの五時間くらい、眠気に襲われないように私を恋人として同乗させてみない?」
「それは斬新なやり口だね。そこに販売中と書かれている、つまり君はただのヒッチハイカーではなく、運んでもらっているその間にお金も稼ごうって考えなわけだ」
「無言で気まずい時間を過ごすよりあなたもいいでしょう」
「分かった、とりあえず外は寒いだろうし一緒に乗って行けばいいよ」
東京に戻るまでの間、恋人同士なのだからと彼女は自身についての質問には答えなかった。ただ本当に恋人のような笑顔で、クリスマスに行きたい場所やデートの話をした。東京に入った頃には彼女は静かな寝息をたてていた。
「ほら、起きて。ここでいいんだろ?」
「ごめん、寝ちゃってた…起こしてくれれば良かったのに」
「隣で寝てる恋人は起こさない主義なんだ。はい、これ言ってたお金」
「寝ちゃってたし、半分だけ貰っとくよ」
このまま彼女に会えないことを少し残念にも思ったけど、得体の知れないこの繋がりがそう思わせるような気もした。
「そうだ、クリスマスの話だけど、本当に暇だったら連絡してよ」
そう言って彼女は段ボールを千切り、そこに自分の連絡先を書いて僕に渡した。
彼女を車の中で見送った後に段ボールを裏返して見ると、「恋愛販売中」と書かれた部分が残っていた。
彼女ならまんざら偶然でもないような気がして、僕はあくびをしながら笑った。