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masumiyutaka
毎週ショートショートお題 「風を治すクスリ」
まるで傷を負った獣が暴れ狂うように風が吹き荒れている。
教室の窓を閉めても風は唸り声となって響き、窓をガタガタとうるさく揺らしては私を囃し立てている。
こんな筈じゃなかった。
放課後に話があると彰人へ連絡した頃は晴天で、嵐が来るなんて思ってなかった。
こんな天気じゃ、告白どころの騒ぎではない。
「話ってなんだよ」
諦めて後日にしようと思ったら、サッカー部の練習着で彰人がやって来た。
「こんな嵐の日に呼び出すって、まさか俺と決闘でもするつもりかよ」
駄目だ、完全に告白なんて雰囲気ではない。
唸り声は遠吠えのように迫力を増し、早く決闘を始めろと言わんばかりに窓を一層激しく揺らしている。
「ごめん、なんでもない!練習頑張って!」
素早く脇を走り抜けようとした私の腕を彰人が掴み、よろけた私は彼の胸に倒れ込んだ。
「この天気じゃ練習も休みだ。もし良かったらだけど、一緒に帰ろう」
彰人の胸の中でそれを聞いた瞬間、私を囃し立てる全ての雑音が掻き消えた。その言葉は、暴れ狂う風の傷を一瞬で治すクスリのように静寂をもたらし、彰人の身体から伝わる熱だけが私を覆った。
私は浅い呼吸しか出来ず、これは本当に薬がいるのかもなんて考えていた。