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アスクビクターモアを菊花賞馬に導いた田辺騎手の2つのファインプレー

3歳クラシック最終戦・菊花賞は田辺裕信騎手が騎乗した2番人気アスクビクターモアが優勝。アスクビクターモア号、田辺騎手、田村康仁調教師はじめ厩舎スタッフ、牧場スタッフ、そしてオーナー関係者の皆さん、本当におめでとうございました!

65年ぶりに皐月賞、ダービーの1、2着馬が不在という大混戦模様だった2022年の菊花賞。アスクビクターモアが最後の一冠をつかんだ勝因として、大きなポイントが2つあったのではないかと思う。

ハイペースの中、リズム良く単独の2番手を確保

1つは、ゲートから最初のホームストレッチまでの位置取り。これは戦前に言われていた通りのことだけど、アスクビクターモアは前進気勢が強いことから、どうしても引っかかってしまう恐れが付きまとう。3000mを乗り切るには何を置いてもまずは折り合い。そのため“最初の入り”は最大の難関ともなりうる。

加えて明確な逃げ馬もいなかったため、アスクビクターモアは思い切って逃げることもあるのか、それとも何かに行かせてその後ろで折り合いをつけるのか――ゲートの出ひとつ、相手の出方ひとつで様々な選択肢はあったかと思うが、いずれにせよ今回引いた枠は外めの14番だったから、ある程度押してポジションを取りにいかなければいけない。

そんな状況と思っていたので、アスクビクターモアの先手の取り方にはことさら注目して、ゲートオープンを待っていた。

結果として、決め打ちと言っていいくらい幸騎手の(そして僕が密かに大穴で狙っていた)セイウンハーデスがダッシュを利かせての単騎逃げ。しかも、前半1000mの通過が58秒7というハイペースで、後続を終始5~6馬身離しての大逃げとなった。

そんな中、アスクビクターモアは単独の2番手を確保。セイウンハーデスが1頭だけで大きく前へ行ってしまったおかげで、アスクビクターモアにとっては2番手でも単騎逃げと同じ。また、速いペースだったこともあって折り合いが楽になった。

もちろんこれは、棚ボタの展開に助けられた、と言いたいわけでではない。

「抑え込むよりマイペースでいたいと思って。ペースもついて行くにしては速かったかもしれないですけど、馬が力まないように気を付けて行きました」と、勝利ジョッキーインタビューでの田辺騎手。

いくらセイウンハーデスが行ってくれたとはいえ、ここで田辺騎手が「さすがにこのペースは速い」と判断して変に抑え込んでいたとしたら、かえって折り合いに苦労していたかもしれない。それよりも、多少ペースが速かったとしても相棒の力を信じて、気分良く行かせたこの判断はファインプレーだったと思う。

4角先頭スパートで勝負は決したか

そして、もう一つのポイントが4角から直線入り口にかけての仕掛けどころ。アスクビクターモアと田辺騎手は最後の直線を待たずして早々と先頭に立つのだけど、後続を引き付けることなくスパートしてみせた。

中間の1000mでペースが落ち着いたとはいえ、それでも2000mの通過が2分1秒4は、タイトルホルダーが逃げて勝った昨年より4秒速く、京都と阪神の違いがあるとはいえ過去10年で最も速いペースだ。そんな流れの中を2番手で回ってきたのだから、最後のスタミナを少しでも温存するために後続を引き付けるだけ引き付けて、脚をギリギリまで溜めてスパートしたい――馬に乗ったことのない素人の僕ならこう考えてしまう。

しかし、田辺騎手は後ろを待つどころか、むしろ、さらに引き離して直線坂下に入っていった。この迷いのない判断には本当に恐れ入った。

特に僕は◎ボルドグフーシュから春の実績馬を全て切る穴狙いの馬券を買っていたから、4角先頭からさらに後続を突き放して直線に向いたアスクビクターモアの姿を見て、「これはもうダメだ……」と観念してしまった。

また、各スポーツ紙のウェブニュースで報じられているように、吉田隼人騎手も「4角で勝ち馬にセーフティーリードを取られてしまいました」とコメントしている。

着差はハナだったけど、この4角~直線入り口の攻防で勝負はすでに決していたのかもしれない。

それくらい、最初の入りから勝負どころまで仁川3000mを完璧に攻略した田辺騎手の騎乗は見事だったし、ジョッキー自身が振り返っていたようにあのペースの中で自分から勝ちに行く競馬をしたうえで勝ち切ったアスクビクターモアは、本当に素晴らしいパフォーマンスだった。

過去の名馬を追うように…同世代との再対決も楽しみ

春二冠の1、2着馬が不在の中、終わってみれば皐月賞5着・ダービー3着の実績最上位馬が最後の一冠を奪取。これは、本当にいやらしい見方をすれば、春の上位馬が抜けたところで順番が回ってきただけ……という印象を持たれてしまうかもしれない。言い方を変えれば、敗者復活戦的な。

しかしながら、展開にまるまる恵まれたわけではなく、むしろその逆。先行勢が軒並み潰れていくようなハイペースの中を2番手から追いかけ、さらに自分から動いて勝ち切ったのだから、これは相当に強い競馬をしたと言っていいのではないだろうか。

そして、先日の予想記事の中でも書いたことだけど、過去10年の「皐月賞・ダービーの勝ち馬不在の菊花賞」を勝った馬たちを挙げると、エピファネイア(13年)、キタサンブラック(15年)、ワールドプレミア(19年)、タイトルホルダー(21年)。いずれも古馬になってからもGIを勝っており、なんだったら競馬史に名を残すような名馬ぞろいでもある。

こうした歴史をなぞるのであれば、アスクビクターモアにも輝かしい未来が待っている。これら先輩同様に「菊花賞は強い馬が勝つ」をそのまま体現するようなこれからの活躍を期待したい。

そして、この先に必ずまみえるであろうドウデュース、ジオグリフ、イクイノックス、ダノンベルーガら同じ3歳世代ライバルたちとの再びの対決を心待ちにしたいですね。もちろん歴戦の古馬たちとの戦いも含めて。

我が本命ボルドグフーシュ、来年の淀でこそ

一方、我が本命ボルドグフーシュは本当に惜しかった。先に書いたようにアスクビクターモアは買っていなかったので馬券的にはどう転んでもハズレだったのだけど、ならばせめてアタマに来てくれ!と念じたもののハナ差届かなかった。

それでもあそこまで勝ち馬を追い詰めたのだから能力はやっぱりあるし、本命にして悔いはなし。ただ、このクラスになると、アタマまでスパッと突き抜けられるだけのキレがまだない分、そこはこれからの成長待ちかなとも思います。

GI級を勝ち切るには現状、まだ展開次第かなという課題は残しつつも、豊富なスタミナと追えば確実に伸びる末脚は、来年の春を射程に捉えることができる大きな武器。3角下りで勢いをつけられる直線平坦の淀ならさらに能力を出し切れるのではないかという期待も込めつつ、京都に戻る来年の天皇賞・春が楽しみな1頭だ。

3着ジャスティンパレスも強かった神戸新聞杯の勢いそのままに好走。前走の走りが本物だったことを示したし、鮫島克駿騎手も17番発走から馬群に潜り込んで上手に立ち回る好騎乗だった。ホープフルS2着があるとはいえキャリアも少なく、これからもっと良くなりそうなディープインパクト産駒。この馬も来年以降の走りがますます楽しみになりましたね。

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