令和の地方競馬大改革――全ダートグレード競走の国際化を目指す挑戦は成功するか
全日本的なダート競走の体系整備についての説明会に参加してきました。
3歳ダート三冠が創設されること、また2・3歳ダート短距離路線が整備されることはすでに6月20日の会見で発表された内容の通りで、こちらも会見に出席してきましたので、ご興味のある方は以下の記事を参考までに。
■さきたま杯がJpnI昇格、川崎記念は4月開催など
今回「全日本的なダート競走の体系整備」ということで、古馬、牝馬路線に関する体系整備についても新たに発表されました。大きなところとしては、さきたま杯のJpn1昇格や川崎記念が4月開催に移ること、またTCK女王盃が園田開催となってレース名が「兵庫女王盃」と改称されることなどでしょうか。
3歳ダート三冠路線の整備に関しては、これまで船橋・大井のローカル重賞として開催されていたブルーバードカップ、雲取賞がJpnIII、京浜盃がJpnIIのダートグレード競走に格上げされて1月~3月に開催し、そのうち雲取賞、京浜盃が第一冠目の羽田盃の前哨戦に。
また、JRAのユニコーンステークスを二冠目・東京ダービーの前哨戦として整備。さらに、盛岡で開催されていたダービーグランプリを来年限りで終了し、不来方賞をJpnIIに格上げして10月上旬に開催される三冠目のジャパンダートクラシック(ジャパンダートダービーから改称)の前哨戦とすることなどが発表されました。
これら新しい競走体系の開始時期は2歳馬競走は2023年から、3歳・古馬競走は2024年からとなります。
変更内容などが盛りだくさんですので、もっと詳しく知りたいという方は以下、NARの公式サイトに掲載されている以下のお知らせをぜひともご参照ください。
NARからは2024年からの中距離、短距離~マイル、牝馬各路線の競走体系概略図も提供されましたので、こちらの図の方が新しい競走体系についてイメージしやすいかもしれないですね。やはり競馬は「点」ではなく「線」で見るもの。こういう各路線の概略図はとても分かりやすいです。
クリックすれば拡大されると思うのですが、やっぱり小さくて見づらい!という方はNAR公式サイトでリンクされているこちらのPDFからご参照ください。
■全てのダートグレード競走を国際競走に
この新競走体系については、さまざまな意見があると思いますし、僕なんかよりよほど地方競馬に精通している方がたくさんいますから、細かい点はそうした地方競馬スペシャリストや熱心なファンの方にお任せするとして、僕が「おっ!」と思ったのは『国際化に向けた取組』に関して。
現在、地方競馬で国際競走として格付けされているのは東京大賞典のみ。それ以外のダートグレード競走は国内ローカル向けの「Jpn」を使用しており、国際的には評価が低いままだ。そこで、国際的に認められた共通の格付けで管理されるべきパートI国の競走として、「日本のダート競馬の国際的な評価を高めるべく、地方競馬では2028年から段階的に「Jpn」表記の使用を取り止め、全てのダートグレード競走を国際競走とすることを目指します。」(リリースより抜粋)とのことだ。10年後の2033年にはすべてのダートグレード競走を国際競走とすることが目標だという。
国際格付けを得るためには、賞金額の設定、レースレーティングの向上、検疫など海外からの出走馬の受け入れ体制を各競馬場ごとに整備することなどが求められるため、これは一筋縄ではいかない。特に受け入れ体制・検疫の面に関しては、中央でさえ今年ようやく東京競馬場への直接入厩可能な国際厩舎がオープンして話題になったほど。これを地方競馬すべての開催場にも求めるとなると、資金、人、土地などクリアしなければいけない難問が山積みだと思う。
それでもあえて、まずは5年後、そして10年後の全ダートグレード競走の国際競走化を宣言したのだから、これはいろいろな意味で「地方競馬の大改革」に本気なのだと思う。
もちろん、いち競馬ファンとしては熱烈に支持したいし、応援したい。
せっかく日本の平地競走には芝とダートの二種類の競馬があるのだ。芝だけではなく、ダートも同じように国際的な評価を高めてほしいと思うのは当然だし、日本に居ながらにしてどちらの競馬でも世界レベルのレースが見られるとしたら、ファンとしては2度美味しいですからね。
また、地方とダート競馬が活性化することで、ケンタッキーダービーや米ブリーダーズカップに参戦する馬がもっと増えたとしたら――、また、今ではすっかり日本のダート競馬に参戦してくる外国馬はいなくなってしまいましたが、かつてのように米国などから出走してくる馬が増えたとしたら、それは面白いレースが見られるということでファンにとってはプラスしかない(はず)。
■地方所属馬のレベルアップが必要不可欠
ただ、その理想や良し!と思っても、現実問題として果たしてこれが実現可能なのかどうか。
ポイントとなるのは、やはり地方生え抜き所属馬のレベルアップ。これに尽きる。
説明会での話を聞いて感じたのは、「中央=芝」「地方=ダート」という棲み分けをより鮮明に推し進めたいのだろうなということ。つまり、これからは芝の素質馬・有望馬はこれまで通りJRAへ、一方、ダートの素質馬・有望馬は最初から地方に入厩して、そこで出世していってほしい――JRA、NARともにこんな考え、あるいは方針を持っているということだ。
そのために、各地方競馬場が一丸となって「全日本的なダート競走の体系」を整備したわけだし、馬資源の充実に向けた取組の強化、ダートグレード競走の魅力向上に向けた施策として、本賞金の増額、地区重賞の競走体系整備や負担重量の見直し、ダートグレード競走への出走奨励策、ダートグレード競走地方最先着馬に対する褒賞金などを明記している。
しかしながら、そうは言っても、本賞金の増額一つをとってもJRA相当とは言わずとも、それに近いところまで増額できそうなのは結局、TCK、船橋くらいかもしれないし、そのほかの地方競馬がどこまで生産者、馬主に対して預けるメリット・魅力を感じてもらえるか。
となると、いくらNAR、地方競馬場、JRAが一致団結して「地方とダート競馬を活性化していこう!」「なので、これからはダートの有望馬を地方に預けてくださいね」と旗を振っても、有力な生産者、オーナーサイドが賛同してくれなければ、これまでと同じままで終わってしまう。
だから、これまで以上に地方に素質馬・有望馬を預けてもらえるよう、主催者側だけではなく、生産者・オーナーサイドも一丸となってもらえるかどうかが、今後10年で地方とダート競馬がどこまでレベルアップできるかの大きな鍵なのではないかと、個人的には思っている。
まあ、でも、これは他人の財布のことだから好き勝手に言えるし、もっといい馬を地方に預けてよと無責任に言えますが、例えば僕がセレクトセールで1億円の馬を買ったとしたら、やっぱり最初は中央に預けたくなるよなぁ……このあたりのイメージ戦略、ブランド向上もこれからの地方競馬に求められる大事なことなのだろう。
だとすると、手っ取り早いのは藤田晋さんのような資金力のある新興馬主が素質馬を地方に預けて話題になることだけど……過去、フサイチの関口房朗さんがファンからの要望を受けて地方競馬に力を入れていた時期がありましたよね。
とにかく、ものすごい“本気度”を感じたこの地方競馬大改革。競馬の人気、認知、売り上げが全国的に高まっている“今”だからこそ打てる策であり、この機を逃したら、それこそ5年、10年後に同じような人気をキープできているかどうかは分からない。
そして、今回発表した競走体系などは、あくまで現時点の通過点であり、これが最終形ではないこと。例えば3歳牝馬ダート三冠路線など拡充・整備していかなければいけない課題はまだまだあり、2023年~2024年の新体系スタートをきっかけに、今後ますます発展させていきたいと主催者側は述べている。
繰り返しになりますが、この守りに入らず一気呵成に挑戦する姿勢を僕は支持・応援したいですし、まずは新たな2歳路線がスタートする2023年、そして本格的なリニューアルを迎える2024年の地方ダート競馬が本当に楽しみで仕方ないです。
(掲載した画像、図はすべてNAR地方競馬全国協会さまよりご提供いただいたものです)
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