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感想【その数字が戦略を決める】:イアン・エアーズ 著 山形 浩生 訳
「絶対計算とは、何だろうか。それは現実世界の意思決定を左右する統計分析である。」「絶対計算による予測は、通常は規模、速度を兼ねそなえている。」
何やら謎めいたフレーズで紐解かれる本書の素晴らしい点は、統計分析とは程遠い世界の住人にも様々な事例をあげて、絶対計算が持つパワーの理解を助けてくれる点にある。
しかし、本書内では難しい公式や数字は一切出てこない。統計やデータ分析の専門家にしてみれば物足りないかもしれないが、これからデータサイエンスの世界に飛び込もうとする者や知ろうとする者には、大変読みやすく、事例を通じて説明されることで理解が促される。
例えば、ブドウ畑にブドウが育っている時点で、その年のワインの出来具合と価格を予測できることなど、どの事例もドラマチックに絶対計算の持つ力を説明してくれる。興味深いことには、どの事例でも、その分野の大御所や専門家と呼ばれる者から大反発を受けることであろう。
古い価値観と新しい考え方の衝突を何度も本書の中で体験するが、本書は古い価値観を一方的に否定し、切り捨てないところが素晴らしい。
昨今、AI技術の進歩に伴い、人間の仕事が奪われるのではないか、立場が脅かされるのではないかと危機感を感じているかもしれない。
確かにデータに基づいた意思決定の最後に人間の思考が介入すると、その人の価値観がバイアスとなり判断がゆがむ可能性があり、成功しないケースがあるが、もとになるデータにどのような要素を組み込むべきかを考えるのは、人間のセンスが問われるところである。
これからの時代を生きる我々に対して、AIと共存していくための思考のパラダイムシフトが必要となることを教えてくれる。
AI全盛の時代に突入するからこそ、これまで以上に人間は賢く、効果的な思考が求められる。数字に苦手意識を持っている人にこそ読んでほしい良書である。