超長時間地理学 〜人間と空間11
どこまでも行こう
昔、小学校のコーディネーターだったとき、「どこまでも行こう」というイベントをやった。近くに始点のある、東京湾に注ぐ川沿いの遊歩道を歩く。もちろん、「どこまでも」いけるわけではない。朝出発して、昼過ぎには学校に戻らなければならない。6年生と1年生では、歩く速さも体力も違う。行きは歩くけど、帰りは公共交通機関を使うとしたら、どこで、何に乗るか。いろんなシミュレーションをして実施にこぎ着けたが、「午後の塾の時間に間に合わないから」と途中で抜ける6年生がいたりして、単に遊歩道を歩くだけのイベントも、なかなか大変だ。
人間の活動にはいろんな制約があって、なんでも思いどおりに、どこまでも行けるわけではない、というもう少し学問的な話が、今日の「時間地理学」だった。A地点に何時、B地点に何時、C地点に何時、と拘束される条件下で、人はどれぐらいの活動域を確保できるか。それを三次元空間でモデル化する。XY平面が地図、Z軸が時間。ン? 『四次元年表』と同じ?
顕微鏡と望遠鏡
2枚のレンズを通して、見えざるものを見る。二つの構造は同じだが、見る対象はまるで違う。時間地理学は、人の希望と制約をモデル化し、可視化することで、未来の選択と対策に寄与する。『四次元年表』はすでに起こったことをただ記録していくだけだが、その可視化の過程で、今まで見えなかったもの、新しい視座の発見を目指している。企図は壮大だが、現代の技術で十分可能だ。ただし私に技術力がないから、なかなか思うように進まない。それでも、条件を絞れば、きれいに可視化できるものもある。データ量が増えれば、もっといろんなものが見えるだろう。
今、集中的に目指しているのは、人類の太平洋拡散状況の三次元的可視化だ。文字情報としては、拡散が三期に分かれること、その大まかな年代がわかっているし、二次元的には、拡散のだいたいのコースがわかっている。しかし、これを三次元的に、正しい時間軸に載せて可視化した事例はたぶんまだないし、あったとしても、なかなか一般人の目には触れない。私が望んでいるのは、そういう情報が、直感的な形で子どもたちに届くことであり、子どもなりに感じた「へええ」という感覚が、やがてどこかで、芽吹くことである。
超長時間で広大な空間の地理学
ヒトがアフリカを出て世界に拡散しました、という解説とともに拡散経路が地図で示されると、私たちはついつい誤解してしまう。ヒトはえいえいと歩き続けて、世界に広がったと。だがそれは間違いだ。匈奴が馬を駆って西方の国々を襲ったり、バイキングが船団を組んでヨーロッパ沿岸各地を略奪して回る、とか、ナポレオンの軍隊が粛々とモスクワを目指して進軍するとか、そういう移動とは根本的に異なる。なぜならそこには、何万年という時間がかかっているからだ。何百、何千という世代をかけて拡散している、そのことを、私たちはなかなか体感できない。それを視覚的に見てとれる方策を、私は探している。
それは超長時間で、広大な空間にまたがる地理学だ。これを小さなスマホの画面で表示しようというアプリの開発には、どだい無理がつきまとう。だが、iPadや、パソコンといった大きな画面なら、もう少し可能性が広がる。ゲーム作成エンジンを使えば、空間内を移動することができるし、ARゴーグルに対応させれば、空間まるごとを歴史で埋めることもできるだろう。そこを目指して、一歩、一歩、歩むしかない。
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