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月ふたつ

 今日から地球には月が二つあるそうだ。そう言われると、夜空に2つ目の小さな月を探したくなる。『1Q84』の読者なら、すぐにも思い浮かぶ情景があるだろう。
 でも「月」というのはこの場合「地球の重力に捕捉されている天体」、人工衛星ではない「自然衛星」のことだという。その名を2024PT5という。これからずっと、というわけではなく、11月25日までの期間限定。『四次元年表 in Cosmos』をリリースしたばかりの身としては、この情報をぜひとも、アプリに加えたい。

 これは、あるYouTubeの解説に出ていた画像だ。月、というイメージに合うだろうか? 直径10メートルちょっとの岩石である2024PT5は、8月7日、地球最接近時に、ATLAS(小惑星地球衝突最終警報システム)によって発見された。が、そのときのPT5は太陽を重心とする小天体であって、地球の衛星ではなかった。それが今日、ずいぶんと遠く、月の十倍以上遠くまで離れたにもかかわらず、軌道の重心が地球になった。そしてまた、11月25日を過ぎると、太陽を重心とする軌道に戻るのだという。この画像を見ていると、PT5はいかにも地球の重力に翻弄されているように見える。

 それで試しに、『四次元年表 in Cosmos』を使って、YouTubeと同じ情報を三次元で表示してみると、こんなふうになる。だいぶ雰囲気が違う。座標原点が地球、つまりこれは、地球を固定し、地球から見てどこにPT5があるかを示した「天動説」な表示ということになる。小さな同心円が月の軌道、左下の点が発見時のPT5、黄色で表示しているのが、「地球の第2衛星である期間」のPT5だ。

 せっかくつくったのに、なんとなく満足感に欠ける。「月ふたつ」という叙情的な表現とこの天文学的現実の差。私たちはたぶん常に、こういう「誤解」とともに暮らしている。
 そこで今度は、「地動説」な表示を考えてみた。太陽を中心として、PT5の軌道を表示する。すると、こうなる。PT5は、衛星になる前も、そして後も、ほぼ地球と同じ軌道を回っている。軌道と速度のわずかな差で、地球に近づいたり離れたり、いわゆる「惑星」の見え方になる。でも、地球の重力に捕捉されたといっても、この程度の精度の表示では、なんの変化も見えない。なによりこの小さな岩石は、私たちの目では見えない。

 つまり、私たちが思う「月ふたつ」と2024PT5の実像はずいぶん違う。むしろ2024PT5は、同じ道程(みちのり)をゆく、ほんのひととき手を繋いでみた輩(ともがら)なのかもしれない。

四次元年表 in Cosmos

四次元年表

三次元・四次元表示

四次元年表の使い方

四次元年表for Mobile


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