Switchソフト「ファミレスを享受せよ」プレイ感想【ネタバレあり】
【ネタバレを含むため未プレイの方はバック推奨です】
おしゃれな雰囲気の良ゲーだと聞いていたのですが、想像以上に不気味なシーンが多くて縮み上がった。
ドリンクバーからドリンクを注ぐヴィーーーーーーーーンって音がめちゃくちゃ大きくてびっくりしたし、コーヒーの抽出が止まらず黒い液体が床にまで溢れていく描写に恐怖したし、間違い探し終盤のイラストと92番の独白が不気味すぎた。
しまいには冷蔵庫を調べるシーンで(中身なんなんだよ…)って見るのが怖くなってSwitchそっと閉じたよね。
冷静に考えてみれば何一つ怖い出来事は起きていないんだけど…得体のしれない世界で一人行動している、という寄る辺なさもありめちゃくちゃ怖かったです。
このゲームの"不気味さ"演出の際たるものが「時間経過」だ。
ガラスパンが「気の遠くなるくらい長い間ここに滞在している」と話していたので、300年くらいかな?と思っていたら、「8万年」というワードが出てきて
は、はちまんーーー!!???
って驚愕した。
あの閉鎖でそんなに長い時を…?と思うとわけがわからなさすぎて恐ろしくなる。拷問だろこんなの。
クラインたちは永遠を生きる生命なので、その表現の一環なんだろうなあ…
人も会話もイラストのタッチもゆるっとしてるんだけど、置かれてる状況が恐ろしすぎるので、サスペンスやってるようなドキドキ感をもってプレイしてました。
とはいえ、出てくる人はみんな穏やかなんですよね…近すぎず遠すぎない「優しい他人」って感じの距離感がとても落ち着くし、「月」「永遠の命」といった幻想的な要素も素敵。
SF的展開とストーリーの切なさに突き動かされて、最終的にはめちゃくちゃ虜になってました。
不気味さと夜のファミレスの弛緩しきった空間が混在する不思議なゲームだったなあ…
SF的世界観だけど、ストロー・ドリンクバーといった身近なアイテムがキーアイテムになってるのがなんかいいなあって思った。
ファミレスにいってカレー食べて無意味にドリンクバー飲みたくなったよ。
ここからは人物別感想です。
ガラスパン
しゃべり方が独特なのでふしぎ系お姉さんかと思いきや、がっつり現代人だった。
部屋にコーヒーを溢れさせて溺死しようとしたってエピを聞いた時はコワ…と思ったが、たった一人で何万年あの閉鎖空間にいたのだと知り、一気にかわいそうになった。
そりゃおかしくもなるって…至極まっとうな感覚をもった人だと思う。
過去を覗き見て「ラテラは存在しなかった」と知ったとき、この人の孤独の深淵に触れてしまった気がしてすごく申し訳ない気持ちになった。
そして、それを指摘するときの心苦しさよ…
「ラテラが存在したのか否か、それすらわからない」
「何度もその可能性を考え、そしてもう会えないのであればどちらでも構わないと思うことにした」
「真実を、ありがとう」
お礼を言ってくれるの優しすぎる…😭
孤独を紛らわすために架空の人物を作り心の支えにし、いなくなったと寂しがり、失った哀しみすらも飲み込んでしまうほどの途方もない時間経過があったのだと思う。
絶対、この境地に至るまでの過程で不可逆状態に陥った時間あったでしょ…哀しみも狂気も消失してしまうほどのやるせない諦めのようなものを彼女から強く感じた。
だから、ED2で現代で再会したエピを見たときは「普通のお姉さんやってる生活に戻れたんだ…」ものすごくほっとした。
「ファミレスを享受せよ」は多分に切なさを孕んだゲームで、他のキャラクターが必ずしも順風満帆な道を歩んだのではないからこそ、ガラスパンの救済はすごく心に刺さった。
ツェネズ
冷蔵庫を開けたとき、見知らぬ美少女が立っていてびっくりしませんでした?私はした!!
「部屋から出てみたら知らない道ができていて冷蔵庫があって好奇心で中を見てみたら足が滑って中に入ってしまったんです!おかげで助かりました💦💦」
と言われて、言い訳の苦しさに爆笑しました。
あの瞬間から「この子は敵じゃないな」って確信したよね。
一生懸命なのに何もかもがうまくいかずしょげている姿を見ると、責める気持ちはまったく起きない。むしろ同情すら感じる。
とはいえ、巻き込まれたガラスパンの気持ちを思うとな…
自分のミスで46番に迷惑をかけてしまうことに申し訳なさを感じているようだが、他に謝るべき相手がいるだろおまええええ!!!という気持ちはある。
ED2にてノリノリで演劇やってる姿がかわいかった。
セロニカが作ったTRPGも生き生きとプレイしていたようだし、「自分ではない何者かになりたい」という願望が強い子なんだろうな、と思う。
周りにいる月の人がセロニカ&クラインなので月の人は優秀なのかと思いきや、人間みたいにしっかり個性がある。
長すぎる生を持て余してた地球外生命体だというのに、ままならない劣等感を抱えているところに親近感を感じた。
セロニカ
当初は「この世界で一番まともそうだ…」と思っていたが「自分の首にペンを突き立て本当に死ねないか実証した」という恐ろしい最短脱出RTAを試みたと知り認識を改めた。
理にかなってるんだろうけどまともではない。実験感覚で自決しないでください…
個人の感情ではなく論理や秩序で動く人なんだろうな。処刑人に選ばれるのもわかる気がする。
少しでも楽しい時間になるよう200年かけてTRPGを作り皆を誘うところにリーダーの資質を感じた。
総当たりパスワード解除してる主人公も混じれるよう設計してくれたってところがまた優しい…
管理人であるツェネズが全然頼りにならないので、ひそかに心の支えにしていたが、記憶を取り戻してからは更にすごかった。
住民が一同に会したときのリーダー感半端なくなかった!!???頼りになる~~~😭😭😭
曲もどちゃくそかっこいいし、解決ターンきたあああああやったーーー!!!!!ってテンションブチあがりました。
ED1では退屈そうにしていたしED2でも問題は解決していないので、どの道を選んでも心労は多そうだなって思った。
まあED2の方が本来の彼らしい道ではあるんでしょうね。クライン救出のために動くこともできるし。
時間は無限にあるし三賢者は良心的だし月の方はファジーで甘いらしいので、セロニカがクラインたちを救出する日が必ずくると私は信じている。
そう思うと長すぎる生が幸運に転じることもあるんだなとも思う。
スパイク
元の世界では「平和で普通な人生を送りたい」という願望をもっておりその願いを叶えるためにクラインの手でムーンパレスに送られた。
クラインいわく「その願いの半分は叶っている」とのことだけどなんだかなあ…平和ではあるけど歪すぎるだろ、という感はすごくある。王さまも「終われるのなら早く終わりたい」って言ってるしとても幸せそうには見えない。
一人称は「我」だし口調は古めかしいし、明らかに過去の自分を引きずっている。キャラクター名もスパイクではなく「王さま」だしね。
自分の国が滅びたあとでさえ、王として振舞っているところががすごく哀しいなって思った。
とはいえ、現代で平和で普通な人生を送る王さまもあんまり幸せそうじゃなかったんですよね…
クラインの前では、王さまでありつつ個としての自分を出せるので、ED2の流刑エンドでクラインと一緒にいる方が彼女らしくはあるのかな。
役割を全うできなかった二人が流刑の月で過ごす永遠か…後ろめたさがありつつもロマンチックですごく素敵…
王さまの性別を知らないままEDまで突っ走ってしまったので、イラストギャラリーを見て「女性だったのか!!!!」ってめちゃくちゃびっくりした…
言われてみれば確かに中性的な顔立ちだった…!!
クライン
月の涙を介して出会うシーンが印象的だった。
BGMがすごく神秘的なんですよね…短調かつ3拍子で同じリズムを刻む旋律から、抜け出せない閉塞感と故郷に戻れない哀しみを感じた。
クラインは王さまの境遇に同情して罪を犯すが、この行動の根底にはセロニカに対する同情も少なからずあったんじゃないだろうか。
王様もセロニカも「責任を全うするために個人の感情を捨て去り尽力する」というタイプの人だもの。
セロニカが葛藤する姿を間近で見てきたからこそ、がんじがらめに縛られた王さまを見て「助けてあげたい」と強く感じたんじゃないかな。
その結果がセロニカを苦しめることになる、というのがままならないところではあるけれども。
もう1点。
クラインはなぜムーンパレスに王さまを連れ出し外部の人間に救済を頼んだのか?
地球外に連れ出したタイミングでクライン自身が王さまに再起錠剤飲ませて地球に送り返せばよかったのでは?
と思っていたんですけど…クラインは王さまの幸せを願う一方で自分のことを忘れてほしくなかったのかな、なんて思った。
月の涙で出会う再成形クラインも「王への感情が計画実行の妨げになるのかも?」と推測していたしね。
孤独を共有したかったのだと思う。
クラインは天才科学者という理知的な一面がありつつも情に脆いアンバランスさがあるので、感情を優先して理にかなわない判断をしても不思議ではないかな。
セロニカから「一人に入れ込みすぎないように。永遠の別れは辛いですよ…」と釘を刺されていたので、王さまとのやりとりでなにかが開花したのではなく、元来感情を優先するタイプの人なんだと思う。セロニカとは真逆だなあ。
「一人に入れ込んで」「永遠の別れ」を体験したクラインにとって、王さまとの再会は願っても見ない幸福だっただろうと思う。
「永遠の孤独」が「永遠に別れない二人」になったのだから。
「一人では耐えられないが友と一緒ならば何万年でも耐えられる」というのはムーンパレスで立証されていたので、クラインにとって王さまの存在はこれ以上ない救いにだったんじゃないかな。
手放しでハッピーエンドとはいえないほろ苦さも、このゲームらしいなって思った。
以上です。
ファミレスを享受せよ、よきゲームでしたー!!!
人によって受け取り方が違うと思うので感想を巡りにいくのが楽しみです。