🅂10 アノマリーが生まれる訳(1)
「A little dough」 第5章 貯蓄と投資 🅂10 アノマリーが生まれる訳(1)
前節で記載したバフェットの話は、田淵直哉氏によるものですが、氏の著作は金融の難しい話を分かり易く書かれていて、とても助かっています。そのためか、あるいは「それでも」と書くのが正しいのかわかりませんが、私は何度も読み返しています。私の場合いいと感じた本は何度も繰り返し読んでしまう習癖があるようです(笑)。因みに一番回数を読んだ本はサンテグジュペリの「星の王子様」で、次はたぶんハインラインの「夏への扉」というSFだと思います。どちらも何度読んだかは記憶にありません…。
ところでその田淵氏は、著書である「ファイナンス理論全史(ダイヤモンド社)」の中で、マーケットが効率的かどうかについて以下のように記載されています。
➤部屋を散らかす人、片付ける人
このお話しは、我が家のきれい好きが懸命にリビングを掃除しても、直ぐにこれを汚してしまう猫や私との関係をいっているように聞こえます。つまり部屋を汚す人と掃除する人は、実はセットで部屋を活性化しているということなのです。誰にも使われないリビングはやがてほこりがたまり傷んでしまいますが、たとえ散らかす人がいてもこれを掃除しようとする人が現れることで、リビングは有効に使われ寿命も延びるというものです…。
そう考えると、マーケットが効率性一辺倒では、田淵氏の言葉通りただの荒んだギャンブル市場になりかねませんので、意図せず部屋を散らかしてしまう猫たち(と私)のような存在があることでアノマリーが生まれ、またこれを掃除する我が家のきれい好きの如く投資家が競ってアノマリーを一掃しようとすることになります。田淵氏によれば、それでもアノマリーは残り続けるようですが、これもまた我が家のリビングと同じようです…。
➤部屋を散らかす人(猫)のビヘイビア
さてそこで今回のテーマである部屋を散らかす人のビヘイビア…ではなく、恒常的にアノマリーが生成される原因を具体的に探ります。
前回、マーケットが効率的であるとすれば株価はランダム・ウォークとなるという仮説について記載しましたが、下図(A)はそのランダム・ウォークを私自身がエクセルのRAND関数(乱数を生成する関数)で作ったみたものです。これ自体は一見、山の稜線のようにも見えますし、単なる波線のようでもあります。
さて次に下図(B)をご覧ください。記載したようにあくまでRAND関数で作成したものですから、曲線自体に何ら意味はありません。
こちらは図(A)と全く同じ曲線に、「縦軸の価格と横軸の年月」の表記を加えてグラフにしたものです。私たちが実際に図(B)をみた場合、この縦軸と横軸を頼りに「このグラフが意味するものは何だろう」と好奇心が勝手に動き出し、更に想像力がメキメキと働いて「この相場の推移はどうなるか」といった推察を試みることになります。例えば「左側から2回3回と山を作り、3度目の谷は早い段階で切り返しているので、きっといい情報があったに違いない」といった具合に、です。
この先更に上昇するのか、あるいは反転して下落するのか、人によって考えることは様々だと思いますが、そこに共通するのは「価格と年月という背景」を加えたことで、私たちが想像によって「ストーリー」を作り「未来を予想」しようとする点です。何らかのパターンを探したり、背景を分析しようとし、意味付けを試みます。そしてその先の新しいアイディアや洞察に繋げようとします。これが私たちが無意識に行ってしまうビヘイビアの特徴です。(次節に続く)