🅂24 投資に不向きな私たちに（2）

「A little dough」 第５章　貯蓄と投資　🅂22 マイルール（6）
　前節から「マイルール」の5番目として「心理的客観性の確保」について記載しています。その中で私たち個人投資家が陥りやすい失敗事例として「早い利食いと損失の抱え込み」が何故繰り返されるのか、その謎についてプロスペクト理論の効用曲線を用いて記載しました。（※詳しくは🅂23を参照してください。）

＜図２＞プロスペクト理論による効用の変化

　「心理的効用（縦軸）は逓減する」と考えると、図２の中心「０」から横軸（金額）を１目盛り右（Xｘ）に移動した時に行う意思決定は、赤の矢印線（x→0）と青の矢印線（x→y）が示す効用の大きさに影響されます。具体的には更に上昇した時の効用（青）は小さく、逆に同じだけ下落した時の負の効用（赤）は大きいため、私たちは下落による負の効用を避けることを選択し、売却（利食い）することになります。左に１目盛り移動したときも同じ考え方で、効用の大きい値上がりを期待し、損失を抱え込みます。こうした判断経緯を踏まえると「早い利食いと損失の抱え込み」を私たちが繰り返してしまうことは、ある意味必然ともいえそうです。

＜投資の為のマイ・ルール（例）＞
(1)目的と期間の設定　
(2)ポートフォリオの枠組　
(3)状況に応じたリスク調整　
(4)定期的なリバランス　
(5)心理的客観性の確保

▶心理的客観性の確保の為にすべきこと
　投資の為の「マイルール」の目的は、あくまで「家計管理の一環として行う投資」を適切に実行し資金プランに寄与することにあります。しかし、その目的の一歩手前に「心理的客観性の確保」をマイルストンとしておいていると考える方が適当かもしれません。
　心理的客観性を確保するためには、具体的な実践のためのルールが必要になります。(1)～(4)のルールは、「心理的客観性の確保」を主たる目的としてはいませんが、🅂23で記載した通り大きな影響力を持っています。
　また「早い利食いと損失の抱え込み」という失敗を繰り返す理由を考えると明らかなように、私たちが「個人の性格や感情の問題」と考えていることが、実は「多くの人に共通する系統的な脳の認知バイアス」である可能性があります。これをはき違えると、「早い利食い～」の例の様に１度目の失敗が、その後も延々と繰り返される可能性がでてきます。感情的な失敗というなら、その時の特別な状況を加味して次回以降避けることもできますが、「早い利食い～」のような事象に正しく対処するには、私たちの脳が「たった今起こったことの効用（心理的価値）に左右されない」というやや非現実的ともいえる強いメンタリティーを必要とします。私の知っている範囲でこうした事象に常に対処し得るのは、縦軸と横軸の動きが等しい感覚の持ち主である「ホモ・エコノミクス」くらいしか思い当たりません。

経済人またはホモ・エコノミクス（けいざいじん、英: economic man、羅: homo economicus）とは、もっぱら経済的合理性のみに基づいて個人主義的に行動する、とした（と想定した）人間像のこと。また、新しい科学理論をつくり上げるための単純化された仮構的人間像である。

ウィキペディア（フリー百科事典）より

　こうしたことを踏まえて心理的客観性を確保するためには、一つは大きな視点で投資の方針や「マイルール」を持っていることが重要になります。その際の注意すべき点は、実感なきルールは守られないことです。したがって「経験➡ルール➡投資スタイル」というプロセスの中で、納得感のある自分の為のルールを作っていく事がポイントになります。
　そしてもう一点は、「私たちが、自身の陥りやすい認知エラーや特定のバイアスに対し、しっかりと目を向け情報を持つ」ということです。下記に示したように投資で誤りを起こしやすい心理的な要因は数多く存在しており、すべてを意識できるものでもありませんが、しかし知らないままでは下り坂をひた走ることにもなりかねません。
　認知エラーやバイアスの仕組みは日常的な生活の中にも深くかかわっています。投資や支出に限らず、私たちの人生の節目となるような様々な場面で、大きな影響を与える可能性を持った存在です。まずは下に記載した＜投資家が陥りやすい認知エラーやバイアスの例＞を一読し、興味のある方は参考図書にもぜひ手を伸ばして欲しいと思います。そして経験をベースに必要に応じて「５番目以降のルールを付け加える」という意識を持ち続けることが、心理的な客観性の確保に繋がっていくと思います。

＜投資家が陥りやすい認知エラーやバイアスの例＞
1. 損失回避バイアス（Loss Aversion Bias）
投資家は、利益を得る喜びよりも損失を避けることを重視します。これにより、リスクを回避するために保有株を売らない、あるいは損失が拡大するまで持ち続けるなどの行動を引き起こします。
2. 確証バイアス（Confirmation Bias）
自分の信念や仮説に一致する情報ばかりを集め反対意見やデータを無視してしまうバイアス。これにより誤った判断を正当化することがよくあります。
3. 後知恵バイアス（Hindsight Bias）
過去の出来事が発生した後に、その結果が予測できたと思い込むバイアス。これにより、過去の成功を過大評価し、将来の判断に過信が生まれます。
4. 代表性ヒューリスティック（Representativeness Heuristic）
類似性やパターンに基づいて判断することで、偶然の一致を因果関係と誤解してしまう。過去のパフォーマンスに基づいて将来を予測しがちです。
5. アンカリングバイアス（Anchoring Bias）
初期に提示された情報（アンカー）に基づいて判断を下すバイアス。株価の初期価格や買値に固執し、適切な売買タイミングを逃すことがあります。
6. 現状維持バイアス（Status Quo Bias）
変化を避け、現状を維持しようとする傾向。これにより、ポートフォリオのリバランスや資産配分の見直しを行わないことがあります。
7. 過信バイアス（Overconfidence Bias）
自分の知識や判断力を過大評価し、リスクを過小評価する傾向。これにより、リスクの高い投資を行ったり、頻繁に取引を行ったりします。
8. フレーミング効果（Framing Effect）
同じ情報でも提示の仕方によって異なる判断を下すバイアス。例えば、損失として提示される情報に対してはリスク回避的な行動を取るが、利益として提示されるとリスクを受け入れる傾向があります。
9. 現金錯覚（Money Illusion）
名目値（インフレ調整前の金額）を重視し、実質的な価値を無視するバイアス。これにより、インフレが進行している状況下でも株式投資の価値を過小評価することがあります。
10. 保有効果（Endowment Effect）
保有している資産の価値を過大評価しがち。これにより、株式を売却することを躊躇してしまうことがあります。
11. 参照依存性（Reference Dependence）
ある基準点（例えば、過去の高値）に対して投資成果を評価しがち。これにより、株価が基準点に達していない場合、売却を躊躇することがあります。
12. ヒューリスティックの近道（Heuristic Shortcuts）
投資判断を簡略化するために、過去の経験や一般的なルールに頼ること。これにより、適切な調査や分析を怠ることがあります。
13. バンドワゴン効果（Bandwagon Effect）
多くの人が行っていることを盲目的に追随する傾向。例えば、特定の株式や投資テーマが流行すると、それに便乗して投資を行うことがあります。
14. 楽観バイアス（Optimism Bias）
自分に限っては悪いことが起きないと信じる傾向。これにより、リスクを軽視してしまうことがあります。
15. プロスペクト理論による損失回避（Prospect Theory’s Loss Aversion）
同じ金額の利益と損失では、損失の方が心理的なインパクトが大きい。これにより、損失を恐れて適切なリスクを取らないことがあります。
16. 自己奉仕バイアス（Self-serving Bias）
成功を自分の能力の結果と考え、失敗を外部の要因に帰する傾向。これにより、同じ過ちを繰り返すリスクがあります。
17. ギャンブラーの誤謬（Gambler's Fallacy）
確率的に独立した出来事（例えば、株価の上昇や下落）が連続して起きた後には逆の出来事が起きると誤解すること。
18. 現実逃避バイアス（Ostrich Effect）
不快な情報を無視したり回避したりする傾向。市場の悪いニュースを無視して、問題がないと信じ込むことがあります。
19. スラッシュ・ストック効果（Sunk Cost Fallacy）
過去に投資した資金（埋没費用）に固執し、適切な撤退を躊躇すること。損失が出ている投資を続ける理由がこれに該当します。
20. 自尊心バイアス（Self-enhancement Bias）
自分の能力や投資判断を実際よりも高く評価し、他人のアドバイスを無視する傾向。
21. クレジットアビリティバイアス（Availability Bias）
印象的な出来事やニュースが頭に残りやすく、それを元に投資判断を下してしまうこと。
22. 集団同調バイアス（Herd Behavior）
他人の行動に追随することで安心感を得る傾向。これにより、バブルが生まれやすくなります。
23. 保守バイアス（Conservatism Bias）
新しい情報に基づいて意見や判断を変えることに抵抗を感じ、既存の信念に固執する傾向。
24. 時間割引バイアス（Present Bias）
未来の利益よりも現在の利益を重視し、長期投資を放棄しがち。
25. 不確実性回避バイアス（Ambiguity Aversion Bias）
不確実な状況や情報が不足していると、リスクを過度に回避する傾向。

投資家が陥りやすい認知エラーやバイアスの例
（引用元: ChatGPT, OpenAI, 2024）

情報を正しく選択するための認知バイアス事典　行動経済学・統計学・情報学 編

情報を正しく選択するための認知バイアス事典