🅂25 貯蓄と投資について（完）

2024年9月20日 12:32

「A little dough」第５章　貯蓄と投資　🅂22 貯蓄と投資について（完）

　第５章では「貯蓄と投資」について記載してきました。この章を振り返ります。

▶「貯蓄習慣」を身に着ける
　前半で記載した「3つの財布」や「SMarTプログラム」などは、人間の脳の設計に起因する特性や認知バイアスなどを踏まえて、これを逆に利用しようという特徴がありました。リチャード・セイラー等が提唱した「ナッジ」的な発想ですが、こうした方法で無理なく「貯蓄習慣」を身に着けることができると、その後のファイナンシャル・プランに大きく寄与していきます。
　限られた所得の中から「生活防衛資金」を少しづつ積立していく行為は、家計管理の土台をつくる上でとても重要な取り組みです。そもそも潤沢ではない家計をやりくりして毎月の積立額を捻出していくわけですから、日常の過ごし方について工夫を凝らし、シンプルな中にどんな風にして楽しい生活を描くか、といったポジティブな発想が必要です。人生は一度しかありませんから、その時代やその年代にしかできない事が数多くあります。そうしたことを犠牲にしてまで資産形成に励んでも、働くことや生活することの楽しさが日々実感できないのでは意味がありませんし、きっと長続きしないと思います。
　まずやりたいことの優先順位を決めること、そしてその中で家計収支（キャッシュフロー）とのバランスを取りながら取捨選択をしていきます。何もかもできる訳ではありませんが、その時を楽しむいくつかのことはきっと実現できます。将来の目的の為に「今を犠牲にする」のではなく、「現在を充実した時間にする」ことが、私たちのライフデザインに近づく道となります。そのために必要な資金は使い、わずかでも貯蓄を継続することで「貯蓄習慣」を身に着けていきます。下の図に記載したように、小さな満足感が、何時も私たちの背中を押してくれていることを、しっかりと意識していたいのです。

▶ポスト「貯蓄習慣」
　家計管理を実践する中で「貯蓄習慣」を身に着け、「生活防衛資金」に目途が付く頃には、自分の生活スタイルが少しづつでき上ってきているはずです。この時期に重要な選択をする方も多いと思いますが、可能であれば、少額であっても「積立NISAを始める」という選択肢を検討しましょう。「目的は老後資金で期間は30年以上」、金額は僅かで構いません。もちろんイデコやDCでもかまいません。市場インデックスファンドなどを選び、ゆっくりと価格変動を受け入れながら、リスク資産への耐性を身につけていくことが当面の課題となります。
　また30歳代から40歳代にかけては、私たちの選択によって大きくプロセスが変わってきます。住宅を購入する方、子育てをする方…それぞれに大きな判断が待ち受けていますが、その中で生じる課題解決のためには、毎年の収入の多くを投入していくことになります。したがって、🅂２でも記載したように、思うように貯蓄は増加しませんが、焦らないことです。繰り返しになりますが、住宅購入や子育てという選択をした場合、それはライフデザインの中でも大きなウエイトを占めています。安心して住める家が確保され、子供たちがすくすくと成長していれば、それは何より大きな成果です。潤沢な資金プランよりも優先順位は高いのです。もちろん家計が破綻するような選択をしてはいけませんが、熟慮の末の判断であれば、これを優先せざるを得ないからです。

▶「いくらかの自信」と「あきらめる勇気」
　どんな人生を選んでいようとも、50歳を迎える頃になると、私たちは「いくらかの自信」と「あきらめる勇気」を持てるようになります。若い方が聞くと苦笑されるかもしれませんが、実際にこれらが生み出してくれる心理状態は、思いのほか心地良いのです。若い頃は強い思い込みにリードされて多くのことにチャレンジしますが、このチャレンジの結果である「失敗と成功」が、その人に合った新しい「心のバランス」を生み出してくれるようになります。
　さてそうした50歳代を迎えると、資金プランは好転することもあります。子供が独立したり、住宅ローンを完済することは大きなインパクトを持っているからです。この年代で注意すべきことは、やはり生活水準を必要以上に上げないということです。「少しくらいいいだろう」という方を止めることはできませんが、ベルヌーイの「効用は逓減する」という言葉くらいは覚えておいてください。そして、時々の贅沢感を味わったら、余剰は投資に振り向けていくことを検討しましょう。
　「50歳代では遅いのでは」と思われるかもしれませんが、その年齢でも30年から40年の平均余命があります。老後の生活資金は年金等で賄うのがベストですが、それぞれの暮らしに合った老後を過ごすために、必要であればこれに備えた選択をしていくべきでしょう。多額の財産は必要ありませんが、やりたいことに挑戦するための資金とプラスアルファがあるからこそ、人生の後半を楽しく生きていくことができます。
　尤も先に記載したように50歳代以降は、「いくらかの自信」と「あきらめる勇気」という、経験から生まれた精神的なアドバンテージを持っています。こうした方々は、結局バランスよく生きるのが一番心地良いということを知っています。刺激一杯の生活は疲れるし、刺激のない生活は退屈なのです。そうしたメンタリティーが、その年代に合った「勇気と想像力」を生みだし続けてくれます。その為にも、「サム・マネー（A little dough）」は必要なのです。

▶経験➡ルール➡投資スタイル
　貯蓄は消費の先延ばしという点で、また中長期の投資は短期的な結果にとらわれずに遠い将来の大きな成果を目指すという点で、ともに「報酬系回路」を持つ私たち人間には扱いにくい部分があります。特に投資における判断では、懐疑的になるくらいの慎重な姿勢で臨まないと、簡単に目先の果実にとびついてしまいます。「利益が出る喜び」と「これを実現して得られる安堵感」は、一時とても心地良いのです。ところが、その後さらに株価が上昇すると、激しい後悔の波が打ち寄せてきます。
　こうして精神的な葛藤を抱え込むことになるのですが、こうしたビヘイビアが人間の脳の構造上の働きに起因していること、そして多くの人が同じような経験をするという事実を知ると、少し気が楽になります。そして、それならば何か良い対処はないものか、という考えに切り替えることが可能になってきます。そしてその結果が、「経験➡ルール➡スタイル」という形で進化すれば、そこそこの投資成果を期待できるようになります。
　私たちが求めているのは、「家計管理の一環で行う投資（長期×分散×低コスト）」であり、投資といってもあくまで限定的な世界です。その範囲をしっかり意識して、決して夢中にならずに、そして私たちの本来の目的のために、貯蓄や投資をツールとして活用し、資金プランをコントロールしていけば良いのです。（了）

※第５章「貯蓄と投資」は今回で終了します。第６章では「幸福とお金の関係」について記載したいと考えています。

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