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🅂5 支出判断とヒューリスティックス(3)➡利用可能性

「A little dough」 第4章 支出して生活する 🅂5

  前回に引き続き「支出判断とヒューリスティックス」について考えていきます。今回は利用可能性ヒューリスティックスです。

➤支出判断と利用可能性ヒューリスティックス
 
「離婚の多い職業は?」と聞かれると、私たちはすぐに「芸能人」と答えたくなりますが、実際の離婚は医師や看護師などの家庭に多いようです。
 利用可能性ヒューリスティックスとは、上記のように私たちが判断する際、思いつきやすさ(想起性)に基づいて判断する傾向があること意味しています。このケースでは、日頃から数多く触れる芸能関係情報が想起しやすかったために誤った答えを導いてしまった、ということになります。
「ヒューリスティックスはスピードと効率性が命」と考えると、もっともな話ですようですが、判断材料の根拠のそのものについては全く吟味されていない、という点はちょっと痺れます。「想起性」ですから、いち早く思いついたことが判断根拠になるわけで、中身は問わないということです。しかし、アンカリング(プライミング)の場合も単に直前の言葉を手掛かりにしているだけで吟味はされていませんし、代表性にしても誰にでも簡単に思いつくという点でステレオタイプが選ばれているわけですから、実は大差ないのかもしれません。
 第3章では経験から学習し抽象化する能力について記載しました。ヒューリスティックスでもこうしたストックされた抽象化情報を持ってくるのが理想なのですが、こちらはファスト(システム1)が「ストレスをかけずに早く」ということをモットーに自動的に機能していますから、中身は二の次です。適切な抽象化情報を使うには、スロー(システム2)を叩き起こす必要がありそうです。

▷衝動買いを誘発する
 「想起性が高い事象を判断根拠にして支出をする」ということですから、これは「衝動買い」を誘発しそうです。もっとも衝動買いの多くは何らかの情動がトリガーになって「買いたいから買っている」というものでしょう。そう考えると「買いたいという欲求」が先に来て、次に「何を」となります。その時にこの想起性がお手伝いをしてしまうわけです。「とにかく何か買いたい」という衝動が沸き上ってしまうと、あとは手っ取り早く想起性で思いつた物を提示してあげれば、衝動買いが成立しそうです。
 とはいえ純粋に衝動買いの原因となる想起もあり得ます。たいていの場合、昨日WEBで見た広告や今朝のテレビのCMだったりします。そうした衝動買いは、単に思い付きが原因になっているために必要性のプライオリティーは低く、そのまま購入してしまうと「後悔する」ことも多くなりがちです。「思いついたら書き留める、そして後で再考する」これを実行するだけでもたいてい買わなくて済みます。なんといっても根拠は単に「想起性」が高かった…だけですから。 

▷リスクの錯誤
 第3章で経済的自立を支えるリスク管理能力について触れましたが、メディア情報や広告などが想起性に繋がり、保険などの金融商品の購入判断に影響を与える場合があります。
 飛行機事故と交通事故の死亡確率の錯誤は有名ですが、滅多にない飛行機事故でもそのダメージの大きさとメディア露出度の高さで、私たちの想起性は飛行機事故に軍配を上げてしまいがちです。
 私たち人間の死亡原因となる三大成人病については、CMやTVの健康番組での露出度が高く、ついつい不安をあおられがちです。「日本人の2人に1人がガンにかかる時代」というテレビCMもありましたが、そもそも私たちの死亡率は100%であり、がんにならなくとも、心疾患か脳血管疾患か、あるいはそれ以外の病気や事故で死ぬことは決まっています。「あなたはほぼ100%の確率で病気か事故に遭い死亡する、どうだ恐ろしいか!」と脅さられているようなものです。ダメージの大きさや露出頻度の高さは「想起性」を高める可能性があり、私たちはこの想起性にいとも簡単に判断を丸投げしてしまうことがあります。人間ですから衝動的に不安に駆られることもありますが、その時はスローという信頼できる友人の存在を思い出し、何としてもスロー(システム2)を呼び起こすことが解決への道となります。


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