ブレンタノ博士の財訓
▽本田静六著「私の財産告白」の中の一節。著者がドイツの留学から帰国する際、ミュンヘン大学の恩師ブレンタノ博士から受けた財産形成に関するアドバイスです。
▽「お前もよく勉強するが、今後、今までのような貧乏生活を続けていては仕方がない。いかに学者でもまず優に独立生活ができるだけの財産をこしらえなければ駄目だ。そうしなければ常に金のために自由を制せられ、心にもない屈従を強いられることになる。学者の権威も何もあったものでない。帰朝したらその辺のことからぜひしっかり努力してかかることだよ。」
▽財産を持つ必要性をどう考えるか。少なくともはじめから、住宅・教育・老後という三大資金需要を考えるのではない、ということです。ブレンタノ博士は、一社会人として経済的に独立し、自分の仕事に十分に専心できるような環境を作るためにこそ、財産形成が必要だとしています。つまり「自分の本業で成果を上げるための財産形成」ということになります。
▽2000年頃、私は人事部で制度企画の仕事をしていたのですが、新しい人事制度の導入に伴い、社員のキャリア研修の必要性を強く感じていました。そして、その一環で勉強し始めたのが、パーソナル・ファイナンスです。個人の家計管理を生涯を通して計画的に実践していくための理論ですが、当時書店を覗いてもなかなかこれだという図書は見当たりませんでした。そんな折に、「投資戦略の発想法」という本に出合いました。
▽ご存知の方もいらしゃると思いますが、経営破綻した日本振興銀行の木村剛さんの本です。もちろん当時はそんなことの起こる前でしたが、本書の内容は至って誠実かつ堅実であり、平凡でも正しいことを繰り返し述べるというシンプルな姿勢、そしてなによりも金融投資を実践するより、「自分を磨き仕事のリターンを増やすべき」とするのがメインの主張となっています。また、貯蓄で一定の「生活防衛資金」を作ったうえで、更に余剰の資金ができた時に投資を行うべきであって、安易な投資を行うべきではないという姿勢も徹底されています。
▽会社員が会社で働くということは、本業を行うことなので、ここで大きな成果を上げることが何よりベストです。そしてその本業に集中するために、自己投資を行いスキルを上げる、結果としてのリターンを増やす、これが会社員の王道だと思います。また常に生活の不安に怯えていては、いい仕事はできません。まず、土台となる「生活防衛資金」を作り、「自分の考えや方針を貫けるよう働く環境を整える」、これも会社員として成功するためにはとても大切なことです。
▽ブレンタノ博士も木村さんも、なぜ財産を持つ必要があるのか、という基本的な問いについての考察があります。当たり前のことですが、自分の経済力で生きていかなくてはならない、というシンプルな事実認識の上にたち、「財産形成とは、まずは自分の仕事にしっかりと集中するためにこそ、行わなくてはならない」と主張されているのだと思います。