🅂20 ルールがスタイルをつくる

「A little dough」 第５章　貯蓄と投資　🅂20  マイルール（２）

　山崎元氏は「ほったらかし」といいますが、これはこれで簡単ではありません。というのも「ほったらかし」にできるものは大抵「どうでもいいような代物」か、あるいは「あれこれやってもどうにもならない」ことを経験的に理解しているような場合です。この「ほったらかし」ができるかどうか疑心暗鬼な方は、最近簡単にできる「ポイント投資」で試してみるのもいいかもしれません。そもそもおまけで貰った小さな金額ですから、これをしばらく実践してみて「ポイントの変動が気になってしようがない」ような方の場合、「ほったらかし」はあきらめた方が良いかもしれません。

➤ 投資家心理を支える「マイ・ルール」
　前節では、投資のための「マイ・ルール」について記載しました。
(1)目的と期間の設定(2)ポートフォリオの枠組(3)状況に応じたリスク調整(4)定期的なリバランス(5))心理的客観性の確保などをあげましたが、これらを相互に関係させながら、全体的な投資成果を高めることを目指していきます。
　ただとは言いながら、意気込んでこうしたルールを綺麗に並べてみても、経験が伴わないうちはあまり意味を感じられないことも多いと思います。特に3番目以降は、最初から決められるものでもないかもしれません。そうしたことを考慮すると、初めは「長期・分散・低コスト」といった言葉を、そのままマイ・ルールとして使ってもいいかもしれません。これだけでも随分とリスクは軽減できるからです。
　しかし時間の経過とともに一定の経験を経て振り返ると、こうしたルールの必要性は身にしみて理解できるようになります。多くの人が経験するその日（ルールの必要性を身にしみてしまう！日）が来たら、そこから自分自身のルールをしっかりと作っていくことが、自身のコントロール力を確実に高めることに繋がっていきます。
　マーケットとは、様々な目的や期間などの思惑を持ってチャレンジする投資家が、混在しているところです。例えていうなら、400メートルのトラックを、短・中・長距離のランナーが一斉に走っているようなところなのです。この夏、日本のマーケットも乱高下していますが、私たちの選択が「長期投資」であれば、なにも慌てることはありません。短距離走をしている人にはややハードな環境（あるいはチャンス⁉）かもしれませんが、マラソンをしているなら影響度合い見定めながら、自分のルールに従い同じ走りをするだけです。まだまだ先は長いからです。隣の人が何をしようが、彼らは彼らの「目的やルールに沿った行動を選択している」、と考えるべきです。従って私たちも、私たちの目的に合った行動を貫く必要があります。迷ったり不安を感じたりした時には、まずは「目的と期間」に立ち返り、これを踏まえて自らが作った「マイルール」に従い冷静に行動していく必要があります。

➤ 目的と期間の設定＜マイルール(1)＞
　「家計管理の一環として行う株式投資」という前提で考えた場合、例えば「老後資金として30年以上の運用を行う」あるいは「教育資金の半分を20年弱を目途に調達する」といったことを、具体的に決めておくことになります。資金使途を決めることで目的外使用の可能性を減らし、また期間を長く設定することで長期運用を目指すスタイルに、意識的に持っていくことが重要です。前述の通り目的と期間は投資方針の要ともいえる存在です。初めての方でも、しっかりと考えて決定し、以後はこの方針を貫く気概を持ち続けてください。

➤ポートフォリオの枠組＜マイルール(2)＞
　ポートフォリオとしてどういう選択をするにせよ、まずは「生活防衛資金を貯蓄によって確保すること」と「短中期的に明確に必要となる資金を除いた余剰資金によって行う」というルールが必要です。ポートフォリオについては「長期×分散×低コスト」という前提を踏まえると「安全資産＋市場インデックスファンド」が基本の選択肢となります。また本来、年齢・家計収支・貯蓄状況などを踏まえてリスク資産割合を決めていく必要がありますが、現実的な選択として新NISAなど積立投資を行うような場合、まずはリスク資産割合20％～30％程度を目途に徐々に増加させていきます。当然この間は、「バイ＆ホールド」（別名ほったらかし？）の方針で臨み、その間にリスク経験値を高めていくことになります。

　初めて投資を行う場合であっても、上記(1)(2)のルールはしっかりと決めておく必要があります。因みに「長期・分散・低コスト」をメインに、この章のコンテクスト（文脈）を読み込むと、(1)は「長期投資で老後資金」(2)は「安全資産＋市場インデックスファンド」という選択肢が見えています。勿論どんな目的であれ、方法であれ、自分が納得して選択することが大前提となります。まずは、自身にどんな選択が可能かしっかりと検討し、投資後も、自己の判断でしっかりコントロールしていく、という強い自覚が必要です。

➤ 経験➡ルール➡投資スタイル
　 自分の投資スタイルは、必要な知識を経験や情報から学び、自分なりの整理と抽象化を施した上でストックし、次に実践によって問題解決に取り組む「一定の期間と経験」によって出来上がるものです。またその際、投資の方針や枠組みを決めた「マイルール」を持つことで、投資スタイルは鮮明なものになり、自らの行動を良い意味で習慣化し、心理的な強さを身に着けることに役立っていきます。勿論個人の投資スタイルですから、それ自体変化することもありますが、「基本的な方針は貫くことが必要」です。
　例えば「安全資産＋市場インデックスファンド」という選択をする方の場合でも、その方針の前提には「長期×分散×低コスト」という３原則が存在していますし、「大きなリスクを避け、シンプルな方法で、安定的なリターンを得る」という私たちの立場（家計管理の一環として行う投資）からの優先事項も忘れてはいけません。
　山崎元氏は、市場平均を持ち続ける優位性を淡々と説明した上で「あとはほったらかしで良い」といっています。私は、山崎元氏が言う「ほったらかし」という投資スタイルは、一定の経験値を持ちマーケットの動きに動じない心理的な強さを身に着けた人にこそ可能なスタイルだと思っています。つまり「ほったらかしだから簡単」ではない、ということです。「持っていることを忘れてしまう」くらいの意識レベルは、確かに理想的ですが、なかなかそうした境地になれるとは限りません。それが無理なら、あるいはそうした境地に達するまでの間は、知識と経験と方針（ルール）を上手く使って「価格変動を受け入れ、結果の対処には必要な規律を守る」と考えておくことが、重要だと思います。