🅂21 リスク許容度を知る

「A little dough」 第５章　貯蓄と投資　🅂21  マイルール（3）

　最近の新NISAに関する各種報道を見ていると、多くの方がS＆Pやオルカンを選択しています。日経新聞によれば、新NISAにおけるeMAXIS Slimの上記２銘柄の年初来の資金流入額が2兆7千8百億円ということですから驚きです。昭和生まれの私が「市場インデックスファンド」についてあれこれ書かなくても、みんなすまし顔で「それって、常識でしょう」と切り返されているような気がしています。たくさんの方がこうした投資を、アノマリー狙いではなく、「私たちの生活を支えてくれる多くの企業の成長に投資している」と考えているのであれば、更に望ましいことだと思います。
　ただ、こうした昨今のS＆Pやオルカンの人気を踏まえると、皆さんがどの程度為替リスクを意識されているかという点は、少し気になるところです。日銀の金利引き上げが発表され、日経平均が乱高下したりしていますが、為替もまた急激な円高に振れつつあります。ここ数年は株価の上昇基調に対し、円安がこれを加速するような働きをしていました。この先は「神のみぞ知る」ことかもしれませんが、少なくとも「S＆Pは100％、オルカンは94％外貨建て」という認識は持っておきたいところです。

➤ 状況に応じたリスク調整＜マイルール(3)＞
　さて今回はマイルールの3つ目である、「リスク調整」について記載していきます。ここでいう「リスク調整」とは、自分自身のリスク許容度を前提に、ポートフォリオの「安全資産とリスク資産と割合を調整すること」をいいます。ポートフォリオ理論の中で資本市場線（CML）について記載しましたが、この直線上のどのポイント選ぶか、という判断になります。

市場ポートフォリオとCML
（引用元: ChatGPT, OpenAI, 2024）

　上記の線上の点Pが、100％市場ポートフォリオ（市場インデックスファンド等）を示しますので、レバレッジをかけないことを前提にすると、安全資産100％の点Qから点Pの間で選択することになります。
　ポートフォリオのリスク資産比率は、前節で記載した(2)の「生活防衛資金と当面の資金需要を除いた余剰資金」対して適用するのが基本となります。　　
　またこの「リスク調整」は個人のリスク許容度に依存しますが、これを決定付ける要因には大まかに分けると、定量的なものと定性的なものとがあります。

---

（定量的な要因）
1⃣年齢～一般的に若いほどリスク許容度は高く、高齢化によって低下する。
2⃣家計情報～年収・貯蓄比率（収入対比）などは高いほどリスク許容度も高まるが、支出比率・固定費比率などは逆に低いほど高くなる。またこれらの家計情報は「安定的である」ことを加味する必要がある。
3⃣財務情報～貯蓄・借入等残高。これらを差し引きした純資産額が大きいほどリスク許容度は高い。
4⃣投資期間～長期になるほどリスク許容度が高い。
（定性的な要因）
5⃣経験と知識　6⃣性格と心理的要素　7⃣その他投資目的など

---

　定量的な部分については、ある程度スコア化が可能だと思います。証券会社のウェブサイトではこうした個人のリスク許容度を判定してくれるものもありますので試してみるのもいいかもしれません。ただし「誘導型」には注意してください。
　また、定性的な部分の客観的判定には困難を伴います。実際にリスク資産を保有し大きな価格変動などを経験することで、自身のリスク選好度を感覚的につかめることがあります。しかしだからといって、家計資産のやり繰りを性格的な選好度合いに委ねるのはリスクがあります。また経験や知識そのものは有効ですが、その自己評価となると「自信過剰バイアス」が結果を歪めてしまいがちです。私のように、自己のリスク選好度に懐疑的な方は、こうした曖昧な評価となるものを除き、定量的で客観的な評価が可能な部分に留めてしまう、という方法もあるのかもしれません。
　これは個人的な考えですのであくまで参考程度に記載しますが、上記に記載した4つ定量的情報を4分割してスコア化します。それぞれのポイントの満点は25点となり合計で100点、これを簡単に示したものが下表となります。こうしたスコアリング方法の妥当性をChatGDPに尋ねたところ、「４項目の選定には一定の妥当性はあるが、対応は慎重に」とのことでした(笑)。具体的には、以下のような指摘です。

---

①前提として流動性ニーズや日常的なリスク回避（保険など）への対応をしっかり加味していることが重要。
②定性的な要因には、個人の性格や目的など無視できない要素があり、特にリスク選好度が合わない場合、投資スタイルに違和感を感じ、心理的に不安定になりやすい。

---

　いずれも、なかなか的確なアドバイスだと思います。こう云う指摘を受けて自分自身の対応を振り返ると、基本的には定量的に算出したリスク許容度に対し７掛けしているのが自分のスタイルです。「30％は大きく下げた時に、リスクをとりに行くための資金」という名目ですが、これがある為にリーマンショックやコロナパンデミックの時にも慌てることもなく、むしろ冷静にポジティブなマインドをキープできています。あくまでを自分に合った投資スタイルを築くためのルールですから、こうしたアレンジが心のゆとりを生むのであれば、検討してみる価値があります。

リスク許容度のスコアリング事例（定量情報のみ）

　上記のスコア表は、リスク許容度の考え方について理解していただく為に掲載したものですが、40歳未満の方が20年以上の長期投資を行う場合は、それだけで50ポイント獲得できますので、あとは安定的な収支コントロールができていれば、相応のリスク割合を選択できることになります。しかし、一度にリスク資産割合を上げてしまうと、心理的な負荷が高まりますので、まずは「積立投資から始める」という考え方は、とても理に適っています。そして価格変動を受け入れる素地ができていく中で、家計収支を安定的に運営しながら、リスク資産割合を少しづつ上げていけばよいということになります。