🅂３ 支出判断とヒューリスティックス（１）➡代表性

「A little dough」 第４章　支出して生活する　🅂３

　今回からは支出に関する判断を正しく行うために、私たちが犯す失敗の原因を考えていきます。その最初に扱うヒューリスティックス（発見的手法）は、「過去の経験などの記憶情報に基づき、複雑な問題をより簡易なものに置き換えることによって解決や判断を行う」ものです。与えられた状況に対して適正な置き換え処理が行われていれば問題ありませんが、スピードと効率性を限りなく重視するために、閃いたことはほとんど検証されずに判断根拠になってしまうという、かなり致命的な欠点があります。「あてずっぽう」よりはましな程度、と考えておく辺りが適当かもしれません。※ヒューリスティックスについては第１章（下のリンク）も参照してください。

➤意思決定のプロセスとヒューリスティックス
　第１章で記載した意思決定のプロセスについてもう一度確認しながら話を進めていきます。
（１）まず私たちの意思決定メカニズムは、心理学の「二重過程論」という、二つの心の動きに支えられていることを前提に置きます。
・システム１～直感的で素早く自動的に反応する（ファスト）
・システム２～理性的で論理的ながら意識的で時間を要する（スロー）
（２）通常、重要な意思決定をする際の標準的なプロセスは、システム２が主導して以下のように行われます。
①意思決定課題についての情報取集・分析・評価を行う
②自分の意思と情報をもとに選択肢を生成・評価し、優先順位付けを行う
③有力な選択肢の根拠を検証した上で決定・実行する
（３）原則としては上記の標準プロセスによって慎重に意思決定を行えばよいのですが、様々な事情でこれを行わないケースが起こってきます。
①即決できるほど易しい（標準プロセスの必要性がない）
②難易度が高く且つ標準プロセスを行う時間（余裕）がない
③難易度は高いが標準プロセスを行うほどの重要性を感じない
④忙しさや疲労などが原因でシステム２がフルに機能しない
（４）ヒューリスティックスは（３）の②③④のようなケースにおいて、システム１が簡単な事例に置き換えを行い、素早く決断しようとする対応方法をいいます。

➤誰もが病みつきになるが…
　一方でヒューリスティックスの判断根拠は個人の経験や先入観、あるいは他人の表面的な行動といった限られた情報に依拠しています。つまり根拠内容の吟味はそこそこに、現在の課題を手っ取り早く解決しようとする姿勢が優先されています。システム２は起動が遅くしかも疲れやすいため、これを頻繁に使うと私たちのストレスの原因となります。ところがシステム１がヒューリスティックスを使うことで、意思決定がスムーズに行われストレスも軽減されます。どっちに転んでもいいような意思決定であれば、結果もさほど気になりませんから、必然的にこれに頼りがちになります。誰もが知らないうちに病みつきになってしまい、それ自体に気付いていないことも多いのです。したがって、どう転んでも一定程度の割合で起こる失敗は避けらないことを覚悟しておく必要があります。
　少なくともその意思決定が重要なものかどうかの判断は、システム１に委ねてしまうのではなく、なんとかシステム２を引っ張り出して冷静かつ客観的な判断を行う必要があります。

第1章　自分をどこまで信用する？～認知エラーについて｜mr.moonlight｜note

➤支出判断と代表性ヒューリスティックス
　さてそれでは、支出判断がヒューリスティックスが引き起こす認知バイアスにどのように影響されるかということを少し具体的に考えていきます。
　はじめに代表性ヒューリスティックスですが、「代表性」の意味を「コトバンク」で調べると、「代表性とは典型的と思われるものを判断の基準、答えとして転用すること。典型的と思われることはステレオタイプ（固定観念）と呼ばれる。ヒューリスティックスによるバイアスの要因となる。」という記載があります。
　またステレオタイプは、weblio／人権啓発用語辞典によれば、「特定の文化によってあらかじめ類型化され、社会的に共有された固定的な観念ないしイメージのことで、紋切り型と訳される。その特徴として、過度に単純化されていること、不確かな情報や知識に基づき誇張されしばしばゆがめられた一般化ないしカテゴリー化であること、好悪・善悪・正邪・優劣などといった強力な感情を伴っていること、新たな証拠や経験に出会っても容易に変容しにくいことなど」と書かれています。
　代表制の典型が上記の「ステレオタイプ」であることを考えると、私たち個人の生活パターンや家計の状況などをベースにした場合、判断材料としては不適格である可能性も十分考えられます。

▷流行と売れ筋商品
　支出全般に言えることですが、その時々の流行が売れ筋商品となり、これを代表性として気付かないうちに販売側から売り込まれるケースが多いという点です。
　今時都心でマンション購入といえばタワマンが絶大な人気で、購入の検討をされる方も多いと思いますが、その代表的なメリットは①ステータス②日当たり③セキュリティ④共有サービスなどが挙げられています。
　しかし一般に住宅を購入した方がどんなことを重要視すべきだったかというアンケートをみてみると・住宅ローンの返済・間取りや部屋の広さ・老朽化・周辺環境・立地・急な転勤・子供の進学の妨げ・家族構成の変化・隣人トラブル・ハウスメーカー選びなどがあがり、少なくともステータスや共有サービスではないようです。当たり前のことですが、自分の考えとその時のメジャーな商品（タワマン）のメリットが一致するかどうかは、しっかりと個別検討が必要です。
　モデルルームや高層階からの展望を写真やビデオなどで「これでもか」と見せられると、だれでもその魅力に一時的には捉われ、現実に向き合う努力を怠りたくなるものです。さすがにタワマンは高い買い物なので、即決する方はいないと思いますが、販売側はこうした購買側の弱い心理を研究していますから、あと一押しと思えば、いろいろな手を打ってきます。私たちもこれに冷静に対応できるスキル（心構え）が必要なのです。