🅂2 貯蓄が増加するとき…
「A little dough」 第5章 貯蓄と投資 🅂2 貯蓄が増加するとき
仕事に就き毎月の給与からの積立貯蓄などを始めることができれば、当面は経済的自立に向けて一歩づつ進んでいくことになります。しかし、20歳代の日々はやりたいことに出費が嵩むだけでなく、友人の結婚式といった予定外のイベントも重なり、思うように貯蓄が進まないことも予想されます。
バブル華やかなりし頃、友人の結婚式が2回3回と続くことから、メンクラを捲りながら「J.PRESS」の黒に蝶タイ・カマ―・ストレートチップと一式新調した時には、私の給料一月分が吹き飛びました。これも若さと拘りの賜物(?)ですが、20歳そこそこの青年がパーティーで多少気張ってオシャレをしたとしても、タブン誰も止めることはできないでしょう。私の場合は、こうした散財にはかなり寛容な方でしタ…。
しかしお金に関して焦りは禁物です。そこで、第2章のファイナンシャル・プランで用いた試算から、もう少し長い視点で人生における収支と貯蓄との関係を確認しておきたいと思います。
➤一般的なファイナンシャル・プランを俯瞰すると…
上記のグラフ「収入・支出・貯蓄・運用益の推移のイメージ図」は、第2章🅂9で掲載した収入費用貯蓄のイメージ図に、運用益(資産残高×4%)を加えたものです。試算の前提など詳細は下記リンクを参考にしてください。大まかにいうと大卒の会社員の平均的な生涯年収2億8千万円を想定し、家族4人のファイナンシャルプランをイメージしたものです。
収入カーブについては年功賃金色の濃い昭和・平成モデルですが、この場合40歳代前半までは貯蓄はなかなか増加しません。子供たちが独立し始める50歳代から大きく増加し、退職金を受け取る60歳前後がピークとなります。そしてその後は年金中心の生活のため貯蓄は少しずつ減少するカーブを描いていきます。65歳位からの収支の赤字は貯蓄の取り崩しで賄う想定ですが、オレンジの運用益については収入曲線には含まれていませんので、仮に総資産のリターンを4%程度でおいた場合は、65歳以降の赤字を避けることも可能になってきます。
またこれからの時代は、仕事と家事・育児などを夫婦双方が分担する令和モデルも考えていく必要があります。ダブルインカムの場合、収入そのものが増加しますので、収入曲線が初めからやや高めでその後は少し緩やかに推移することが想定されます。ただ一般に「所得効果」により、ほぼ確実に生活レベルが上がり、必要以上に支出が増加してしまう傾向があります。それでもタワマンのようなの無理な支出を控えれば、全体としては上記の例よりかなり改善する可能性もあります。
➤「30歳代~40歳代」
昭和・平成の給与モデルを前提にした場合は、上記の貯蓄曲線が示すようなことが実際に起こります。一般的な話として、「30歳代~40歳代」は教育や住宅関連の資金負担が大きかったり、貯蓄そのものがこれらの使途に充てられることによって、貯蓄増加のスピードは上がりません。もちろんこれは止むを得ないことです。この時期には無理に資産を増やそうとするのではなく、住宅や教育のための資金をやり繰りしつつ「生活満足度を’+’に保つ」ことがポイントとなります。これがマイナスになると、経済的自立のための循環効果(下図参照)が負のサイクルで回り始めることになります。結果として満足度を上げるために「支出を増やす➡CFが赤字になる」というように状況は悪化する傾向が高まります。
まずは生活満足度をプラスに保ち、可能な範囲で「貯蓄習慣」をしっかりと継続していくことです。このバランスを取ることできれば、この時期に思うように貯蓄が増加しなくとも、その先の展望は充分に開けていきます。
➤「50歳代~60歳代」
一方で「50歳代~60歳代」は、教育費・住宅費などの固定費が減少し、逆に退職金などの収入の増加もあり、貯蓄が大きく増加する傾向にあります。結果的に「子供が独立した後に働き続ける10数年間」が、一番貯蓄がしやすい時期ということになります。
会社員の方が「結婚や子育て」という選択をした場合、こうした年代的な傾向は避けにくいものだと思います。第2章で記載しましたが、貯蓄の前提として「収入線が上昇し、同時に支出線が低下すると、貯蓄可能額が大きく増加する」という当たり前の原則があります。上のモデルのように、「教育費の終了」「住宅ローンの終了」という支出の減少と、「退職金の受け取り」という収入の増加が連続するというケースは、まさにこれに当たります。
➤プランの再現性を高める貯蓄習慣
仮に子育ての頃に足元の資金プランが厳しくても、こうした中長期的な視点を持っていればそれほど苦にならないものです。なにより私たちの目的は「個人の価値観を軸にしたライフ・デザインを実践していくこと」ですから、結婚や子育てを選択した人にとってそれは人生の一部であり最優先事項になっているはずです。一方資金に関するプランはあくまで実現のための一手段でしかありません。つまりそれ自体が素晴らしいものである必要はないのです。
繰り返しになりますが、この時期のポイントは毎日の「生活満足度」をプラスに保ちながら、「貯蓄習慣」そのものをしっかり継続していくことです。仮に思うように貯蓄が増加しなくても、継続される「貯蓄習慣」は将来的に私たちのファイナンシャル・プランをより現実的で再現性の高いものに変えてくれるはずです。