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ME:Iのデビューに寄せて/石井蘭さんのこと(再録)

 2023年12月30日のコミックマーケット103にて頒布した、石井蘭さんについての文章を一部加筆して転載します。「PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLS」を経て今春ME:Iのメンバーとしてデビューする彼女を、Girls²ファンの立場からどのような気持ちで応援しているか、多少なりとも伝われば幸いです。
 全文無料で読めますが、コミケにて頒布した際の価格を設定しています。

はじめに

 2023年12月16日14時からTBS他で生放送された日プ女子の最終回、そのデビュー評価の現地観覧に参加して、目の前でパフォーマンスする石井蘭さんを見た時に僕が何を思ったか。「FLY UP SO HIGH」の歌唱をどのような嬉しさで持って受け止めたか。「CHOPPY CHOPPY」を見た時に感じた悔しさはなんだったのか。それをあなたと共有するための文章を書くのが、2023年を振り返るために自分に必要なことだと思ったから、コミックマーケット103の開催まであと3日となった今日、この文章は書き始められている。

 だからこれはイベントレポではなく、紙幅のほとんどが日プ女子とは関係のない話になる。この後まったく触れないので先に書いておくと、番組視聴者としては加藤神楽さんを応援していた。しかし最終1pickは全票を石井蘭さんに投票した。加藤神楽さんのような人を面白がれないなら今後もアイドルというジャンルを追い続ける理由が自分から消えてしまうなという気持ちと、石井蘭さんに投票しないなら彼女の表現を4年近く見てきた自分への裏切りだなという気持ちの間で自分はそのような選択をした。

「PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLS」

 「PRODUCE 101 JAPAN」(通称日プ。2019年、2021年にそれぞれ放送)は、韓国で放送されていた人気サバイバルオーディション番組「PRODUCE 101」シリーズ(2016年~)の日本版ボーイズオーディション番組で、第3シーズンの今回は日プ初のガールズオーディション「PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLS」(通称日プ女子。2023年9月から12月まで放送)として開催された。

 「PRODUCE 101」が日本人メンバーを含むガールズオーディションを行うこと自体は初めてではない。AKB48グループ協力のもと「PRODUCE48」(2018年6月〜8月)が以前開催されており、この番組からは日本人メンバー3人を含むグループIZ*ONEがデビューしている。しかしこの時の日本人参加者は全員AKB48グループに既に所属しているメンバーで、一般公募ではなかった。

 韓国でアイドルデビューを目指す場合、事務所に所属して長期間のレッスンを積む練習生であることが一般的であることに対応して、背景がはっきりしておりデビューさせることに不安がなく、かつ単独でアーティストとして活動しているわけではない日本のグループアイドルに白羽の矢が立った形だった。

 AKB48グループにそれなりに思い入れがある視聴者として「PRODUCE48」を見ていた感想としては、十分なレッスンを積む前に客前でのパフォーマンスの機会が訪れ、その環境への適応と変化を観客が目の当たりにできる点に面白さの一端がある日式アイドルが、韓式アイドルの作法によって選抜されるオーディションにどのように対応するのかを、既にひととなりをなんとなく知っている数十人の48メンバーを通して見ることができるのは非常に面白かった。

 また、課題曲としてパフォーマンスされたKPOP楽曲を通して韓国のアイドルに親しむことができたのも楽しかった。gfriendが来日した際には見に行ったし、遡って視聴したサバイバルオーディション番組「アイドル学校」からデビューしたfromis_9のリリースイベントにも足を運んだ。

 韓国で製作、放送が行われてたシリーズに関しては、後に最終投票結果があらかじめ決まっていたデビューメンバーに合わせて操作された事が告発され全シリーズが配信停止となった為、現在では正規の手段で見る方法はない。ダイジェストはyoutubeの公式チャンネルに残っているし、新大久保に行けばブートレッグが流通しているので全く見ることができないわけではないが。ともあれ、昨今の韓流サバイバルオーディションの日本での流行の源流のひとつがこの「PRODUCE 101」シリーズだと言うことはできる。

 「PRODUCE48」の視聴者投票に関しては、韓国の電話番号を持っていないと投票できないシステムだったので直接的に応援する方法がなかった。それに、日本人参加者はデビューメンバーに選ばれなくても48グループとしての活動に戻ってくるだけなので、ひどい言い方になるが知名度を上げる機会として利用した後にファイナルで落ちてくれたほうが直接パフォーマンスを見にいける機会が減らなくてむしろ嬉しいぐらいの気持ちもあった。

 オーディション参加を終えてAKB48に帰ってきた下尾みうさんと後藤萌咲さんが、AKB48劇場で高橋みなみのソロ曲「愛しさのアクセル」をデュオ用に再構成したものをパフォーマンスする姿を見た時には、ファイナリストだった下尾さんをIZ*ONEのデビューメンバーに選ばないで返してくれてありがとうという感情さえ韓国の視聴者に対して抱いた。デビューメンバー達への祝福の気持ちはあったが、それぞれの挑戦に寄り添う気持ちを、当時はうまく持つことができなかった。48グループのファンだから存在を知ることができた子たちの挑戦が、48グループの外に出る形でしか達成されないことへの寂しさが強かった。番組を通じて注目された48メンバーは、K CON等のK-POP関係のイベントにゲストとして呼ばれたりと外部の仕事を増やし、のちにグループを卒業して韓国に芸能活動の拠点を移したメンバーもいた。

 日プ女子にはさほど興味がなかった。IZ*ONEのグリーティングやコンサートには何度か参加したし、日プも佐藤景瑚くんのファンになって最後まで視聴したりしていたけれど、「PRODUCE48」の時には向き合わずに済んだ、公開オーディションの形でファンダムの承認を受けなければデビューができないという形式に目をつぶることが、日本から投票できる日プではできないから、積極的には見るつもりはなかった。

 話が変わったのは、9月に発表されたオーディション参加者96人の中に石井蘭さんがいたからだった。

「ガールズ×戦士」シリーズ

 石井蘭さんを初めて見た場所は、2019年6月「東京おもちゃショー2019」の特設ステージで、これは2017年からテレビ東京系にて放送開始した三池崇総監督による女児向け特撮番組「ガールズ×戦士」シリーズの、シリーズ3作目「ひみつ×戦士ファントミラージュ!」(2019年)の追加戦士キャストをお披露目する為に設けられた場だった。

 石井蘭さんはこの時、ファントミラージュの4人目の戦士、紅羽セイラとしてお披露目され、キャストユニット「mirage²」および「ガールズ×戦士」出身者によるガールズパフォーマンスグループ「Girls²」のメンバーとして活動を開始することも同時に発表された。番組構成上、追加キャスト扱いなので存在が伏せられていて、どちらのグループのデビュー曲の歌唱にも石井蘭さんは参加していなかったが、デビュー後の追加メンバーというわけではなく最初から合流が予定され、他の8人と共にグループ立ち上げの準備をしてきたメンバーの1人だった。

 当時の僕は「ガールズ×戦士」シリーズをさほど熱心には追っていなかった。シリーズ開始当初からキャストユニットの存在を認識はしていたけれども、当時LDHとそのファンダムに対して若干不信感を持っていたからだ。

 しかし2019年に入り、終盤を迎えていたシリーズ2作目に当時好きだったavex所属のダンサーの子が出演することになったのでたまたま視聴した際、その回の主役だった小川桜花さんに強い興味を持ったのをきっかけにして「ガールズ×戦士」シリーズのイベントに足を運ぶようになりはじめていた。石井蘭さんが加入したのはその矢先だった。

LDHアーティストとEXPG生徒の関係

 一旦話は変わるが、2016年後半から2017年にかけて見に行っていた「Questy」というガールズユニットの話をしたい。Questyはavexの育成スクール「avex artist academy」とLDHの育成スクール「EXPG」、そして東映アニメーションによる共同プロジェクトで、劇場長編アニメ『ポッピンQ』の主題歌歌唱ユニットとして当時CDデビューした。

 育成スクールに所属する生徒の中から選抜されたメンバーには、現在はギャルモデルとして活躍する中村りおんさんや、avexの男女混合ダンス&ボーカルグループ「GENIC」に所属する金谷鞠杏さん、日プ女子に参加していた坂口梨乃さんの姉でガールズグループ「24emotions」のメンバーのアメイズド・ハルナさん等がいて、僕はavexのダンスイベントをよく見に行っていた延長でこのユニットに興味を持ったので、LDHのことは当時あまりよく知らないまま見に行っていた。

 Questyは当時、LDHのファンダムにまったく歓迎されていなかった。いくつか理由はあって、その頃のLDHが、EXILEピラミッド・E-girlsピラミッドという、デビュー済みのアーティストからデビュー前のEXPGの育成生徒までを含めた競い合う場としての事務所の再定義を行う中で、E-girlsについても再編を行っていて、実質的にE-girlsから脱退させられたメンバーが複数いたこと。デビューのためには下積みが必要としてデビュー前のユニットで武者修行とよばれるフリーライブ行脚をしてファンダムの承認を得るというそれまでのLDHアーティストから提示されていたストーリーに反する形でQuestyがデビューしたこと。またその際の報道で「E-girlsの妹分」と書かれたことに対して強い反感を買ったことなどが原因だった。

 LDH側もその反応に追従し、EXPGとして企画協力を行っただけでEXILE、E-girlsとは一切関係関係がないと声明を出した。その後Questyは期間限定ユニットだったということになり、2017年7月に解散した。元々の予定通りだったのではあろうけど、そのように感じることはできなかった。

 2017年4月から放送開始した「アイドル×戦士ミラクルちゅーんず!」とそのキャストユニット「miracle²」もこの煽りを受けた。女子小中学生を対象として、主に少女漫画誌の「ちゃお」や児童誌の「ぷっちぐみ」誌上でオーディション参加者が募られた際はLDHグループによるバックアップが大々的に告知されていたのに、いざ放送開始のプレスリリースが出た時には、EXILEやE-girlsとの関連を思わせるような報道を避けるように注記がされており、デビュー前からはしごが外されたような状態だった。miracle²はLDHアーティストとしては扱われず、あくまでEXPG所属者の子役仕事のような扱いがされていた。

 そのような状況から始まったmiracle²は、しかしファンダムの空気とはまったく関係なくリアルに子供に大ウケした。同じような4クール放送の東映の特撮番組などと比べると、かなり先行したスケジュールで撮影が開始され、本来であれば撮影期間に充てるような時期にも、miracle²はキャスト本人達が全国で販促イベントやリリースイベントを回り続けた。ごく初期には観客をほとんど動員できない時期もあったものの、放送が進むにつれて、あっというまに地方のショッピングモールのイベントスペースでも千人規模の観客が詰めかける人気グループになっていた。

 LDHのファンダムでもアイドルファンでもなく、子供とその親というファン層を得たmiracle²は、はからずも武者修行の全国行脚でファンダムの承認を得るLDHのストーリーに沿った形で自分たちの存在価値を示し、最後に東名阪のZeppを回るライブハウスツアーを行った。活動を継続できるだけの人気はあったがその選択はされず、当初の予定どおり番組の終了と共に活動を終了した。

 miracle²の人気を引き継ぐ形でシリーズ2作目「魔法×戦士マジマジョピュアーズ!」(2018年)からは「magical²」がデビューした。同様に全国を回った後、miracle²を超える規模の全国ツアー8公演を回った。

 そして、3作目「ひみつ×戦士ファントミラージュ!」(2019)からは石井蘭さんをメンバーに擁する「mirage²」がデビューした。また同時に、番組枠に縛られずに継続的な活動を行うガールズパフォーマンスグループ「Girls²」が、過去2作の出演者とmirage²のメンバーによって結成された。

 このあたり、実際の人気に応えておそらくLDHの予定には元々なかったGirls² の結成が準備されたことによって、LDHの次世代ガールズユニットになるのではと期待されていた育成ユニットKIZZYの活動が縮小し、後にNiziUのメンバーになるRIOを放出したり、LDH本流のR&B楽曲をパフォーマンスするユニットiScreamが生まれたり、アーティストを志望してLDHのオーディションを受けていたはずの平川結月さんが気づいたら女優部門で戦隊ヒーローになっていたりとLDHの女性部門に大きく影響があったように見えるのですが、今回の話には直接関係ないので割愛します。

 mirage²及びGirls²のメンバーとなったファントミラージュのキャスト4人のうち、菱田未渚美さん、山口綺羅さん、原田都愛さんはLDHが2018年に主催したガールズオーディション「LDH presents THE GIRLS AUDITION」の俳優部門合格者で、合格後の出演作は既に放送開始していた「ガールズ×戦士」シリーズとなり、キャストユニットとして活動することがあらかじめ分かった状態でオーディションを受けていた。

 オーディションの様子はTBS系列の番組「週刊EXILE」で放送されていたが、その時には石井蘭さんの姿はなかった。彼女には他のメンバーと異なる点がひとつある。彼女だけが単年度のキャストユニットではなく、「Girls²」としての継続的な活動を前提としたスカウトによる加入だった事だ。

 既にEXPG所属者として芸能活動歴がある5人や、公開オーディションだった3人とは違い、石井蘭さんのバックストーリーとして提示されたのは、彼女が実は小学生の頃にEXPGを一度辞めていて、再挑戦の為にEXPGに戻ってきたということだけだった。

ダンス&ボーカルユニット

 なんとなく今は文脈を整理できるような気がするのですが、現在は俳優事務所としての機能を強めようとしているものの、元々LDHはダンサーの事務所なので、そこにボーカリストを加える場合はEXILE TAKAHIROを加入させた時のように公開オーディションで理解を得なければならないが、ダンサーについてはEXILE AKIRAをメンバー推薦でEXILEに加入させたように入れてよいという感覚があるのだと思う。だんだん論立てが乱暴になっていきます。

 だから当時僕らは石井蘭さんのことを、Girls²は全員がボーカルパートをとる構成をしているにもかかわらず、ダンサーとして受け止めている部分があった。実際に彼女は、ダンスにおいては誰がどう見ても中心メンバーだった。特に足運びの正確さに特徴があって、彼女が舞台上にいるだけで、細い足場を危なげなく移動し決して落ちずに踊っている人を見ているような緊張感があり、目が離せなかった。一度見たらそのまま曲が終わってしまって他の子を見られないので、なんなら最初からは見ないように気を張っていたくらいだった。

 Girls²はアイドルを名乗っていない。ガールズパフォーマンスグループ、いわゆるダンス&ボーカルユニットだ。真っ先に思いつくTRFを筆頭に、EXILE HIROや現在はTRFに所属するYU-KIが在籍したZOO、そしてEXILEを代表とするLDHアーティストたち等がとっているこの形態は、80年代に輸入された(ヒップホップの)プロダンサーという概念を、J-POPの販路にのせる為に生まれたものだとまずは整理できると思う。

 ポップミュージックのアーティストとしてのプロデビューは、一般にメジャーレーベルからの音源のリリースがそれだと認識されている。しかしダンサーは他人のトラックを用いて身体表現を行う表現者であり、オリジナルのトラックを使用したとしてもその音源はトラックメイカーとボーカリストの作品と見なされる。だからダンサーをそのままJ-POPアーティストとして扱うことは難しい。

 しかし、ボーカリストを含むひとつのユニットであるということにしてしまえば、ダンサーも自らの音源のリリースを基点とした既存の方法でアーティスト活動を行うことができる。実際にステージ上で行われていることだけを抜き出せば、ソロボーカリストとバックダンサーによるパフォーマンスとほとんど同じであっても、全員がフロントマンだと言い張れることにこの形態の意義はある。

 現代のグループアイドルはダンス&ボーカルユニット「SPEED」を祖のひとつとしているという視点に立てば、ほとんどのアイドルのことをダンス&ボーカルユニットと分類することは可能ではある。しかし、アイドルは基本的には歌唱を行う形態であり、わざわざダンス&ボーカルと呼ぶ場合は、ダンスが表現の中心であることを明示する意思があると見るほうが自然だろう。

 Girls²は全員が歌うグループだった。初期の彼女たちは、その出自であるガールズ×戦士シリーズのコンセプトを引き継ぎ、平易で普遍的な歌詞をJ-POPの音に乗せ、主要ファン層の子供達とその親、若干は存在した大人のファンも含めて誰にでにも伝わるように歌っていた。

 彼女たちのデビューEP表題曲の「ダイジョウブ」や収録曲は、mirage²と同時に活動を開始した都合上、別個にイベントが打てるようにmirage² 以外の番組OGメンバー5人のみによってパート分けがされたが、サビの歌唱はメンバー全員でのユニゾンになっている。最初に聴いた時は、ポップスのユニゾン歌唱は人数が増えるほど個々の表現が薄まるのでボーカリストの表現としては本来は避けたほうがよいはずだし、アイドルみたいで不思議だなと思っていた。

 しかし何度かイベントに足を運んで実際のパフォーマンスを目にした結果、ボーカリストとしての自らの声で、ダンサーとしての自分の居場所を確保し、ファンに発声を求め自らも発声することによる相互の承認を成立させることが、自分たちが開拓したファン層によって成立した活動を始める最初期には、必要だったのだと思い始めた。

 デビューした瞬間から巨大なファンダムを抱えることになったGirls²は、その後表現の幅を広げていくにあたってもファンにどのように受け止められるかを強く意識して活動することになった。初めてはっきりとしたボーカルとラッパーのポジション分けをした楽曲「80's Lover」を2021年10月に初披露した際、パフォーマンスを終えたメンバーが最初に発した言葉は「わかっていただけましたか?」だった。10代半ばの演者からそのような言葉が出てくる場に観客として参加することの恐ろしさを感じ続けることが、いまここにいる意味だなと思った。

Girls²

 石井蘭さんが脱退した後の今年の活動について振り返ると、韓国のバーチャルアーティストAPOKIをゲストボーカルに迎えた「Count down」、iScreamのRUI、YUNA、HINATAを実質的にゲストボーカルとして迎える形になった「Rock steady」「The Finest」と、Girls²のメンバーがダンサーとして振舞う比重を上げたパフォーマンスが中心となっている。ダンサーとしての存在感が大きかったメンバーが去ったからこそ、よりコアにダンス&ボーカルユニットとして活動することによってファンに安心してもらいたい、という気持ちのある1年だったのかなという風に感じている。

 石井蘭さんがGirls²を辞めることは2月に発表され、3月末に所属事務所のSL Square LLP(LDHとソニーミュージックレーベルスによる共同マネジメント会社)を退社した。辞めることがいつ決まったのかは分からないが、2022年秋から冬にかけて開催された全国ツアーの千秋楽の最後の挨拶がリーダーの鶴屋美咲さんではなく石井蘭さんだったことや、1人だけ翌年の活動に触れなかったことから、何となく察していたファンも多かった。

 脱退の発表後に追加のイベント等は無かったので、殆どのファンにとっては2022年の12月末に有明ガーデンシアターで開催された全国ツアー千秋楽が、彼女に会えた最後の機会となった。本当のラストは、長崎で開催されたフェス系のイベントだったので参加難易度が高く観に行けたファンは少なかった。

 辞める直前のことを思い出すと、2022年の全国ツアーで「ツナグツナグ」という楽曲を踊らずにバラードアレンジで歌うコーナーがあったことが印象に残っている。このコーナーがあるせいで、僕はツアー中ずっと石井蘭さんの歌唱に対して不満を感じながら過ごしていた。最近の楽曲ではラッパー兼ダンサーとして振舞うことが増えていた彼女にソロ歌唱パートがあり、その歌唱が他のメンバーと比べ明らかに精彩を欠いていたからだ。

 ダンサーとしての石井蘭さんに不満を持ったことは一度もない。僕以外のファンもそうだったと思う。ダンスに関してはできないことはできるようになるまで、練習のし過ぎで吐くまで練習を続けるような人だということはファンはみんな知っているし、尊敬の気持ちを持っていた。その彼女の歌唱が回を重ねても良くならないということは、きっと歌唱の練習にリソースを割くつもりがないんだろうとも思っていた。

 本人の意思ではなく制作側の意向でボーカルに挑戦させたいんだろうけど、上手くいってないのかな。そんな風に見ていたから、映像収録のカメラが入っている千秋楽で、石井蘭さんのソロパートがユニゾン歌唱に変更されたことに対しては、その選択肢があるなら早くそうして欲しかったという気持ちと、今回の挑戦が実を結ばなかったことへの残念さがあった。

 だから、Girls²を辞めた石井蘭さんの次の挑戦がアイドルのオーディションだったことがものすごく意外だった。ダンサーとして海外に渡るとか、ダンスのプロリーグであるDリーグのチームに加入するとか、あるいは全く違う分野への挑戦であればそっかーと飲み込めたけど、アイドルは歌うじゃん。

ファイナル観覧

 「PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLS」を見始めて、ひとつ気づいたことがある。蘭ちゃんは別に歌が下手ではない。ポップスの歌唱について、他の練習生と比べて劣るところはないし、放送された範囲では講師から技術面で注意を受けることもなかった。単に、Girls²の歌唱を得意とするメンバー達がもっと上手かっただけだった。

 ボーカルでもダンスでもビジュアルでも中心になれる人として、蘭ちゃんはデビューメンバーが視聴者投票により決定される最終評価まで進んだ。蘭ちゃんがアイドルとしてアーティストになれる人だったことを、僕はこの番組を通して知った。

 しかしデビュー評価楽曲「CHOPPY CHOPPY」のパフォーマンスを現地で見て、ふたたび蘭ちゃんのことが全然わからなくなった。ボーカルパートを選ばず、ダンサー、ラッパーとしてセンターポジションに立った彼女の姿は、ダンスの力を信じすぎていて、全然アイドルじゃなかった。

 アイドルは一義にボーカリストで、アイドルを撮るカメラは歌唱している人を追うから、ダンサーとしてパフォーマンスの中心で振舞うディレクションの意味がその場ではよくわからなかった。現地で見てて最高にワクワクしたし、1年経ってさらに磨かれた蘭ちゃんのパフォーマンスを見ることができたのは嬉しかったけど、アイドルオーディション番組だからその姿は半分も映像として届くことがない。そのパフォーマンスをこの場で選んじゃうなら、別にGirls²にまだいても良かったじゃんという悔しさが、その時の気持ちだった。

 デビュー評価楽曲のパフォーマンスは最終投票結果にほとんど関係ない。その前に投票はほぼ終わっているからだ。けれど、最後の最後で自分の最大限のパフォーマンスをしようとしてこの選択をする人柄は、愛すべき人だなと感じるけど票を集めることはできないのではと思った。

 その一方で、デビュー評価に残った練習生全員で歌った、木村カエラが歌詞を提供した楽曲「FLY UP SO HIGH」に対しては別の感想を持った。思い入れの問題じゃないかと言われた困るんだけど、聴いた瞬間に誰の声だかわかる蘭ちゃんの声質は武器だと思ったし、ダンス表現なしでも十分に蘭ちゃんの魅力を表現できていると感じた。

 結果発表が始まり、デビューメンバー11人のうち9位で蘭ちゃんの名前が呼ばれた。海老原鼓さんが10位で呼ばれた際に会場に満ちた祝福のムードが、蘭ちゃんの予想外に低い順位を聞いて一瞬で塗り替わった。練習生たちは騒然としていたし、観客も祝福してもいいものか迷っていたのか、直前まで飛び交っていたおめでとうの声もその時は少なく、僕も言い損ねてしまった。

 CMに入って順位発表が一旦途切れた時、ちゃんとおめでとうと言わなきゃと思い声を出したら、周囲の人たちからも同じように祝福の声が上がりだした。合格者の席は遠かったので気のせいかもしれないけど、蘭ちゃんが観客に向かって会釈するのを見たような気がした。

 現地では、順位発表の瞬間に蘭ちゃんがどのような様子だったのかは見えていない。櫻井美羽さんと笠原桃奈さんがその時ものすごい顔をしていたのは見た。

 生放送が終わってすぐに、その場で配信サイトを開いて真っ先にそのタイミングの映像を確認すると、蘭ちゃんは合格した喜びを表明する表情を浮かべていた。そして彼女は「ME:I」のメンバーとしてデビューすることになった。

 石井蘭さんが所属したmirage²は、ガールズ×戦士のキャストユニットとしては初めてLDHアーティストとしてLDHのホームページに載ったグループだった。番組の放送が終了する2020初頭、新型コロナウイルス対応のために全てのイベントが中止になった結果ユニットとしては完全に宙に浮き、2020年のLDH全体テーマ「LDH PARFECT YEAR 2020」にGirls²がLDHアーティストとして含まれた際に同時に記載された後、正式には解散が告知されていないままになっていたからだ。

 2023年12月24日に有明ガーデンシアターで開催されたGirls²のツアー千秋楽では、mirage² だったメンバー3人からそれぞれの言葉で、4年以上活動してきて今回初めて客席側に制限のない、ファンの歓声が直接聞こえオールスタンディングで盛り上がってもらえるコンサートを行うことができたことへの思いが語られた。

 放送年度にライブツアーを回ることができなかったmirage²のメンバーだけが経験できていないものがあって、それはもちろん石井蘭さんとも共有されていたのかな、とその時思った。コロナ禍に活動を諦めたグループも多い中、テレビ番組を通して得た独自の巨大なファン層を抱えていたがゆえに、Girls² はその動員規模のわりには知名度がさほど上がらないままこの4年を乗り切れてしまった。一方でメンバーたちにとっては、本来描いていたような活動にはならず足踏みし続けているような状況だったのであろうことを想像はできる。

 僕は今でも蘭ちゃんにGirls²に居てほしかったと思っている。蘭ちゃんが辞めたことによって、その穴を感じさせないパフォーマンスを仕上げるためにGirls²のライブ活動が数か月間完全に止まり、2023年が再び足踏みの1年になってしまったことに対しての不満もちょっとはある。蘭ちゃんの夢が何なのか、何を達成したくてアイドルに挑戦しているのか、未だによく分かんないままで困っている。自分がいちばんになれる場所に行きたいのかなとも考えたし、せっかく挑戦するならそうなってほしいと思って毎日投票もしていたけど、デビュー評価のパフォーマンスを見て多分そうではないのかなと考え直した。ドームアーティストになりたいという夢があるのは知っているけど、Girls²では叶えられないと思ってたってことになっちゃうから一旦知らないことにしている。

 今これを書いているのは12月30日の朝5時で、この文章でたどり着きたかった場所に全然たどり着かないまま時間切れになろうとしてる。ダンサーの話とかもっとしたかったんだよな、avexのダンスイベントで見てた時は中学生だったYUMEKIくんがアメリカに渡ってあんなに立派になってるの知らなかったので番組見てびっくりしたこととか。そこから脱線してavexの話をしたりXGの話をしたりもしたかった。

 蘭ちゃんが何を考えて今の場所を選んだのか、いつかは知りたいけれど、それは別に今じゃなくていい。わかんなくていいから蘭ちゃんの挑戦をいまは見届けたい。そんな風に思えるだけのものを既に見せてもらっている。蘭ちゃんがこれから見せてくれるものに触れながら考え続けることが、僕がME:Iを追っていくモチベーションのひとつになるのだろうとも思っている。2024年に彼女の新たな表現を見られる機会がたくさんあることをまずは願っています。

 蘭ちゃんデビューおめでとう!!!

2023年12月30日 A-kiyama

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