あっくんはね、アグラヴェインっていうんだホントはね

※※まえがき※※

この記事には、Fate Grand Order第1部第6特異点キャメロットに登場したあっくん(アグラヴェイン)に狂ったオタクが劇場版キャメロット後編ラストシーンに情緒をメメタァにされた、という話しか出てきません。一から十までオタクノリ、妄想と原作(の設定)との線引きも曖昧な怪文書です。あらかじめご承知の上、推しにころされているなうなオタクの阿鼻叫喚をお楽しみください。

※筆者は別に湖の騎士のことが嫌いなわけではありません。ただひたすらあっくん視点でいろいろ考えているのでちょっと厳しめなだけです。

あっくんと母モルガン

あっくんである。本当はアグラヴェインという立派な成人男性であるが、我が王があっくんとお呼びされていたのであっくんと呼んでいる。そう、私はそこそこ限界オタクなのだ。

まず、まあいないとは思うがあっくんって誰? なんてトンチキなことをのたまう紳士淑女のためにさっくり説明すると、Fate Grand Order第1部第6章神聖円卓領域キャメロットに登場した円卓の騎士のことだ。我が王の参謀でもあり、某湖の騎士とはお互いに目の敵にし合う難しいお年頃のかわいいアヤツである。

あっくんことアグラヴェインという男のひととなりを語る上で、欠くことのできない人物は3人いる。先述の某湖の騎士はもちろんその内のひとりではあるが、彼の人格形成に大きく影響を与えたのは産みの母、モルガンであろう。そして、彼が母の手から離れひとりの騎士としての在り方を定める上で多大な影響を受けたのが我が王、つまり騎士王アーサー(アルトリア)なのである。

原典のモルガンについては諸説あるのでここでは割愛したい。また、情緒がメメタァな筆者はまだゲーム本編第2部6章を進めておらず、きのこ御大謹製モルガンについてビジュアルしか知らないことも予め書き添えておきたい。そう、ここからはあくまでも「あっくんの供述から推測したモルガン」について言及したい。

あっくんは自らの母のことを淫蕩な狂女と評している。原典や我が王の発言から推測するに、モルガンが我が王の王位を簒奪しようと企てていたことに疑いはなさそうである。しかし、あっくんは同時にモルガンは王者の器ではないとも断じている。母の命で我が王に仕え始めたあっくんではあるが、実際は母のために王位を簒奪する意思はなかったようだ。

我が王の騎士として

とはいえ、あっくんは始め我が王に忠誠を誓っていたわけではない。賢明な統治をする王であればそれでよく、いっそ傀儡の王であっても構わなかったのだろう。あっくんの動機は明確である。モルガンは我が王の異母姉なのであっくんにとって我が王は叔父(叔母)なのだが、どうやら身内の欲目などもなさそうである。

なお、あっくんが肉親の情に薄いわけではないということは、モードレッドを気遣う素振りが散見されることからも明らかである。そもそも敵対関係にある異母姉の子どもと我が王が満足に交流を持てたはずもないので、仕え始めた当初のあっくんが我が王に親しみを抱いていた可能性は極めて低い。

このままあっくんの心情に変化がなければ、某湖の騎士の言う通り我が王を隠れ蓑にしたあっくん暗躍ブリテンが成立していたのかもしれない。(なにせ他の円卓の騎士ども、ほとんどが脳筋である。)ところがそうはならなかった。なぜか。理由はあっくんが血を吐くように叫んでいた。我が王が、あり得るはずのない「理想の王」だったからだ。

理想の王

かつてあり得るはずがないと諦めた理想を、とっくに諦めたと思った頃に目の前にお出しされた人間の気持ちを考えてほしい。あっくんにも精神的に幼い頃があった(と考えると動機・息切れ・めまいがしてくる)。けれど、求めた理想を彼は諦めてしまった。何か決定的な出来事があったのか、それとも何もなかったが実母モルガンの言動や周囲の人々を見てゆっくりと理想を殺していったのかはわからない。我が王に仕える頃には理想に見切りをつけ、より現実的で合理的な目標に切り替えていた。

彼らが生きた時代はブリテンにとってまさに戦乱の時代である。大陸から異民族が侵入し、ブリテン島自体も安定した統一王国などなく、まさに内憂外患、平和など泡沫のようなものだった。

明言されてはいないが、あっくんの求めたものは我が王の望んだ国の姿と同じだったのではないだろうか。なにものにも脅かされず、なにものも脅かさない理想の王国。我が王はそのために民のための王となり、あまりに「我」がなさすぎると我様などには嘲弄されたものだが、その在り様こそ、あっくんにとって理想だったのだ。

あっくんにはわかっていた。彼の求める「理想の王」が、どれほどその王自身にとっては過酷で孤独なものか。だから、あり得ないと諦めたのではないだろうか。あっくん自身は王になれるカリスマ性も器もなかったから、別の誰かをそんな孤独な玉座に押し上げなければならない。けれど、その過酷さを容易に想像できるあっくんにとって、自分自身の手のひらにはなにも残らないのに、その身のすべてを国のため、民のために捧げるために王になろうとするなど「あり得ない」。けれど、それがあり得てしまった。仕える内にあっくんは気づいたのだろう。我が王こそ理想の王だと。

その時あっくんが受けた衝撃は想像することしかできない。素直に歓喜できるほどあっくんは短慮ではないだろうし、ひょっとすると実母モルガンのことを思い出したかもしれない。ともあれ、あっくんはその時から我が王に本物の忠誠を捧げたのだ。たとえ誰に理解されなくとも、理想の王が目指す理想の国を作るために。

理解を求めない、というのは、我が王とあっくん、ふたりに共通する欠点だと私は思う。我が王はあまりに己を殺し民のために在ろうとしたがために、「王は人の心がわからない」とトリスタンに嘆かれることになった。S/Nによれば、我が王は微笑むことがなかったという。生前のあっくんの振る舞いは、fgo第1部6章キャメロットでの円卓勢とのやり取りを見れば想像に容易い。嫌われ者、憎まれ役に率先して徹し、本来最終決定権を持つ我が王に向かう悪意の大部分を引き受けていたのだろう。だからこそ、某湖の騎士などは(どの面下げてか)我が王を隠れ蓑に国を恣にする奸臣、的な評価をあっくんに下していた。本当にどの面下げて言うんだこのゴクツブシ

劇場版で情緒がメメタァ

さて、ここまではあっくんの基本的人格形成にいたるまでのサクッと解説である。この時点で私の限界あっくんオタクぶりは十分露呈したことだろう。ここからはいよいよ劇場版後編で情緒がメメタァされた話に入りたい。

上述のように、あっくんは我が王の理想を叶えるためであれば、どんな憎まれ役も厭わない騎士である。キャメロット前日譚、獅子王と成り果てた我が王の理想をあっくんは肯定した。その上で、同じく獅子王の理想を肯定した他の騎士たちとは異なり、ギフトと呼ばれる恩恵を断っている。つまり、彼はどこまでも正気で、どこまでもかつて騎士王に仕えた円卓の騎士、アグラヴェインとして獅子王にも仕えていたのである。

獅子王に仕える騎士たちはもはや獣に成り果てた、と反転のギフトを受けたトリスタンは言った。多かれ少なかれ、本来の彼らからは変質してそれでようやく獅子王の非道とも言うべき聖伐に従事していたのである。ところが、あっくんだけは違った。あっくんだけは、何の変質もなく獅子王に最後まで仕えていたのである。彼の覚悟は、忠節は、正しかったと表することは難しいが、どこまでも真摯で一途であった。誰に何と誤解されようと、誰に理解されなくとも、あっくんにとっての忠義とはそういうものだったのである。

ひるがえって某湖の騎士である。マシュの説得(物理)によって獅子王の行いはやはり悪であると断じ、カルデアに協力することになったところはまあ、プレイヤー視点ではとてもタノモシイ。だが、冷静に考えてほしい。こいつ、一度は獅子王の理想を肯定して否定側の騎士仲間たちをコロコロしているのである。やっぱり間違ってると思うから寝返るね! とかマジでケイ卿に再起不能なまでに言葉の刃でめった刺しにされるべき。

ここは原作でも劇場版でも敢えて湖の騎士自身で言及はないが、ガウェインが妹ガレスを殺してでも今度こそ忠節を果たすと決意し、以後は妹を殺してでも貫こうとした決意を翻すわけにはいかない、と歯を食いしばっていたことと見事に対比されている。正直マシュに説得(物理)されたからといって、くるっと手のひらを返しそもそも実は密かに聖伐で選ばれなかった民たちも匿ってましたテヘペロ、なあたり、絶対にあっくんとは仲良くできない忠義の在り方である。言い換えれば、教師受けも女子受けも同性受けもよく、誰からも悪く思われないよう要領よく立ち回るクラスカースト上位陽キャ男子と、真面目で遵法意識の高い陰キャ風紀委員男子が仲良くできるか、という話である。

しかもこの湖の騎士、あっくんが我が王を隠れ蓑に国を自分のものにしようとしているとか勘違いしまくっているので、聖都侵入後あっくんに向かって「同じ裏切り者として」とか語りかけている。同じ!? 裏切り者として!?!!!?!?!! 一から十まで同じところなど微塵もないが!?!!!?!?! と劇場で心中中指を立てた人は同士である。なお生前、グィネヴィアと不倫していたこの湖の騎士を見咎めて糾弾した結果、何故か逆に周囲から後ろ指をさされたあげく逆ギレした湖の騎士に斬り殺されたのが原典あっくんである。多分型月でもそう大差ない最期を迎えている。さらに湖の騎士、その後あっくんの異父妹でもあるガレスちゃんやガウェインの息子らも斬り殺して逃亡している。マジでどの面下げてあっくんに「同じ裏切り者」とか呼びかけた???????? お?????? となるあっくん推しの気持ち、おわかりいただけるだろうか。そりゃあっくんもブチギレてバーサークする。

削られたゲーム本編での対比

ところでここまで劇場版キャメロットのストーリー展開に合わせて語ってきたわけだが、あっくんのブチギレ台詞の中でも劇場版では削られてしまっていた項目に注目したい。そう、あっくんが「女嫌い」だった点である。

女嫌いの理由についてはまあざっくばらんに言うと「実母モルガンのせい」でだいたい説明がついてしまう。淫蕩な狂女と実母を表するだけの何かが過去にあったのだろう。異父妹ガレスやモードレッドに対する態度はむしろ気遣いが伺えることから、女だからといって頭から毛嫌いする、というほどではなかったのかもしれないが、とにかくあっくんは女性を信用ならない存在だと思っていたらしい。ところが、そんなあっくんでもこの女性は違うかもしれないと思った相手がいた。「女」というカテゴリをひとまとめで嫌う自分を見つめ直していたかもしれない。その相手がグィネヴィア王妃だったことが、あっくんマジで女難の相としか言えない。

とはいえ、グィネヴィアが我が王の妃でありながら湖の騎士と密通していたことは、言ってみればあっくんの元々の価値観を揺るがすほどのことではない。やっぱり女など信用ならないのだ! と価値観を強固にするだけの事態だっただろう、本来ならば。そう、我が王が本当は少女だったのだと、その不倫騒動をきっかけに明るみにならなければ。

繰り返しになるが、我が王はあっくんにとって「あり得ないはずの」理想の王だった。あり得ないはずのことがあり得た、それを人は奇跡と呼ぶ。奇跡を目の当たりにして、あっくんはかつて捨てたはずの理想を再び拾い上げたのだ。そうしてその理想のためにすべてを捧げて生きてきた。彼が王の騎士として真の忠節を誓った前提には、我が王が理想そのものだった、ということがある。ところが、その我が王は信用に値しないと思っていた女だった。それも、年端もいかない少女だ。我が王の性別が明るみに出た時の自分の気持ちがわかるか、とあっくんは湖の騎士に吠えた。一度諦めて、取り戻して、一点の曇りもない理想そのものであったはずの存在が、最も尊ぶべき人が、最も信用ならない属性を備えていた。絶望と呼ぶには生ぬるい衝撃を受けたことは想像して余りある。

知らなければよかった、知りたくなかった、とはあっくんは口が裂けても言わないだろう。彼は自暴自棄になるモードレッドを気遣う、人の痛みがわかる男である。おそらくなぜ我が王が性別を偽っていたかもすぐに理解してしまったに違いない。まさにあっくんのように「女など信用に値しない」と考える者たちに対抗するため、我が王は性別を偽ったのだ。

王は孤独である。あっくんが求めた理想の王は、あり得ないと断じてしまうほど、輪をかけて孤高に己を殺して生きる存在であった。そこに、さらに我が王は性別を偽るという苦しみも抱え込んでいたのである。理想の王として理想の王国を作る、そのためだけに。

我が王の性別が露呈し、その偽りは自分こそが我が王に強いたものだと、あっくんは思ったのではないだろうか。もちろん、正確に言えばあっくんが我が王に少年として王になれと指示したわけではない。だが、性別を偽らなければならない、と我が王に思わせたのは、他でもなくあっくんのような考えを持つ者たちなのだ。

さらに、あっくんは実母モルガンを王たる器ではないと断じている。その理由に、彼女が女であることも含まれてはいなかったか。女である時点で、彼女の人格や能力を考慮する前に、大幅な減点を下してはいなかったか。実母モルガンが淫蕩な狂女だったから女嫌いになった、というのは、実際のところおかしな話なのである。女である、ということは、あくまでもモルガンの持つ属性の一要素に過ぎない。たとえば、魔術師全般を信用できない、と思っても不思議はないのだ。魔女はだめだ、でも構わない。母親を切り捨てなければならない子どもにこのようなことを言うのは酷な話だが、モルガンという人間が信用ならない、と思うよりも、女は信用ならない、だから母親も信用ならないのだ、と考えた方が心理的な抵抗は軽くなる。性別には人格がない。ただそのように生まれたから仕方がない、と考えることで、母を求める子どもの心をあっくんは慰めたのではないだろうか。

ところが、その慰めは湖の騎士と王妃の裏切りによって、至上の主である我が王に牙をむくことになる。本人の責任によらず、改善の余地もなく、ただただそう生まれたというだけで本来なら何の瑕疵もない我が王を、「女だから」というだけで知らない内に貶めてしまっていたのである。

結果として、この裏切りの暴露と偽りの発覚を契機に、円卓は崩壊する。あっくんは最期まで王に付き従うこともできず結末も知らず退場する。火種となったのは湖の騎士と王妃だが、火をつけたのはあっくんである。我が王の理想を、ひいては自身の理想、その結実につながる道を、あっくんは途絶えさせてしまったのだ。その後悔は、いかばかりか。

獅子王による召喚は、だからこそあっくんにとって僥倖であったし、悲願でもあっただろう。今度こそ、とあっくんは思ったに違いない。今度こそ、我が王の理想を叶えよう、と。けれどその道はまたも途絶える。またしても、湖の騎士の裏切りによって。

手向けのことば

ラストシーン、満身創痍のあっくんは獅子王の玉座にたどり着く。こちらへ、と呼ぶ獅子王の声に、しかしあっくんは倒れ伏してしまう。策は成らず、またしても王の理想は叶わない。謝罪するあっくんに、獅子王は玉座から降りて寄り添う。見下ろす眼差しの、なんと柔らかいことか。

あっくんは結局、願いを叶えることができなかった。湖の騎士に自らの手で引導を、という願いだけは叶ったかもしれない。とはいえそれは、我が王の理想を叶える、という願いの前では抑え込める程度の願望であった。それでも獅子王はあっくんをねぎらった。もう休め、働きすぎるのが卿の唯一の欠点だ、とまで。

獅子王は我が王=騎士王ではない。あり得たかもしれない可能性のひとつであり、厳密に言えばあっくんが忠誠を誓った理想の王ではなかった。それでも同じアルトリアという王からのねぎらいが、手向けの言葉が、せめて彼の尽きせぬ悔恨をわずかでも軽くしてくれればと願うばかりである。

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