MIMIZU①
庭へと出る網戸を開けて、足元に目を落とした私は悪態未満のうめき声を上げた。
タイルの上に一匹の赤黒い蚯蚓が横たわっている。
忌々しい虫に目線はずらさないまま、青いサンダルに足を滑り込ませて素早く網戸を閉める。
注意深くしゃがみ、蚯蚓を観察することにした。
昼下がりの日差しは思いのほか優しくなかった。
蚯蚓は頭と思われる先の部分を上へ伸ばし、ゆらゆらさせている。その揺れる肉の動きはまるで頭が新しく生えようとしているかのようだ。
しばらくの間、私は蚯蚓を凝視していた。
その間も私の黒髪は陽に焼かれてる。
頭上の暑さを意識した途端、目の前に横たわる蚯蚓に少しだけ同情した。
まるでフライパンの上の肉だ。
そう思ったとき、この現実を解釈する一つの考えを思いついた。
蚯蚓は熱さにのた打ち回っている。辛くてしょうがない。
しかし残念なことに、蚯蚓はこの現状を打破するのに十分な皴付きの肉を持たない。
水。
水がほしい。
著しい水分量の減少がじわじわと体を蝕む。
干からびて、ぺったりとアスファルトに張り付く蚯蚓なんてそう珍しいものでもない。
当たり前のように。
生まれ
減り
得る
踊り
また減り
得られず
乾き
踊り
死ぬ
そう、珍しいもんじゃない。こんな結末、珍しいもんじゃない。
助けてやろうか。 いくらかの同情に好奇心が少々。
そういえば、この間ビオラに群がる虫を懲らしめたのに使った霧吹きがあったっけ。
重い腰を上げて視線をずらす。きつい眩暈が時間の経過を知らせる。
太陽は変わらず。
蚯蚓は力なく揺れる。
私は霧吹きを手に取り、
しっかりとグリップを握った。
つづく