夢日記(2025.1.17)
友人Tが亡くなり、僕は葬儀に参列するため、体育館のような場所に来ていた。ざっと見てもパイプ椅子が500脚は並んでおり、雰囲気も、まるで講演会でも行われるかのように和やかである。
友人Tが本当に死んだのか、僕は疑っていた。彼はどうしてもイギリスに住みたがっていたが、両親の猛反対にあって断念した経緯がある。おそらく、亡くなったことにして既に日本を離れたのだろう。そう考えると、参列者の笑顔も理解できた。
僕は香典を振り込むため、体育館の片隅に置いてあるATMに向かった。本当は受付で渡そうと思っていたのだが、そこに控えていた女性から「そうしたサービスは行っていない」と突っぱねられてしまったためである。
ATMは銀行のものと少し異なり、「預け入れ」しかできないようになっていた。そもそもタッチパネルにそのコマンドしか表示されない。ご祝儀や香典などを回収するために改造された専用機のようである。
僕は香典として持ってきた5万円をATMに食べさせた。すると突然、左の手元にある受話器がけたたましい音を立てて鳴った。
僕が慌てて受話器を取ると、それを耳元に当てるまでもないほど大きな、女性の声の機械音が流れた。
「投入金額が不足しています」
(え、嘘だろ。5万円だぞ。そもそも、香典なんて気持ちなんだから、不足も何もないだろ)
僕は内心そう思いながら、焦りと困惑で立ち尽くした。今入金した5万円は戻ってこないようなので、このまま手続きを一旦中断したら、改めて5万円以上を要求される恐れがある。せめて、いくらであれば許されるのかを知りたかった。
ただ、この状況について問い合わせようにも、そのためにあるはずの受話器は既に僕が握っていた。耳元では、3秒おきくらいに投入金額の不足を指摘する音声が流れ続けている。
「いくら入れたんだよ」
いきなり後ろから声をかけられ、僕はドキリとして振り返った。僕の次に並んでいたガタイの良いおじさんが、もう一度低い声で尋ねる。
「いくら入れたの?」
「5万円です…」
僕が消え入るような声で答えると、おじさんは少し怒ったように言った。
「そりゃダメだよ。香典は10万円って決まってるんだから」
「は、はい…」
言葉を返しながら、僕の頭の中では色んな思いが交錯した。
――香典が10万円なんて聞いたことがない。いくら友人のためとはいえ、この金欠の身でそんなに払いたくないなぁ。
――今ATMに吸い込まれた5万円は、ちゃんと僕の分として認識されているんだろうか。追加で5万円払えば良いんだよね?
――ヤバい、現金でさらに5万円なんて持っていないし、キャッシュカードもないから金をおろせない。
しかたないので、とりあえず受話器を置くと、ATMは最初の取引開始画面に戻った。僕を押し除けるようにして、後ろにいたおじさんが振り込みを始める。
(僕はちゃんと5万円を振り込んだ。たとえ機械が認識していなかろうと、それは事実だ。良心に照らしても、追加で5万円入金すれば問題ないだろう)
僕は勝手にそう解釈すると、この葬儀に来ているはずの友人たちを探した。彼らに相談すれば何とかなるかもしれない。
会場内を見渡し、友人たち4人がパイプ椅子に座っているのを認めた僕は、彼らのところに駆け寄って、今あったことを話した。
「PayPayすれば良いんじゃね?」
友人Yが事もなげに即答した。ほかのみんなも一様に頷いている。
「俺もここに来る電車の中で、PayPayで払っちゃったわ。都内だからポイント還元率が高くて得した」
「いやぁ、PayPayやってないんだよね」
僕が恥ずかしそうに明かすと、友人たちは少し驚いた顔をした。
「マジか。詰んだじゃん」
(そうか、僕は詰んだのか)
ここまで打つ手がないとなると、僕はかえって自身の気が大きくなるのを感じた。
別に、香典の金額が今足りなかったからと言って死ぬわけじゃない。こういうことは誠意が重要だ。最悪、友人Tの両親に事情を説明して、後日追加の5万円を送金すれば問題ないだろう。
僕は努めてそう考えると、今度は友人Tの親御さんを探して、前の方の席へと歩き始めた。