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“街の名前が変わる”という歴史的事象にロマンを感じるのって僕だけ?

改称の裏に歴史あり

歴史を学んでいると、たまに“街の名前が変わる”という事象に出くわす。日本人からすれば、最も有名な例は江戸から東京への改称だろう。

僕はこうした“街の改称”に、とてもロマンを感じる。街の名前を変えるって、結構すごいことだよ。いかなる街にも育んできた歴史があるわけだから、何らかの大きな理由がなければ、わざわざ変えようとは思わない。

街の名前が変わるという出来事の背景には、往々にして大きな時代のうねりがある。江戸から東京への改称をもたらした“うねり”は、当然ながら明治維新だ。

だから、「現代に残っている地名が元々別の名前で呼ばれていた」という事実からは歴史を強く感じるし、何ならちょっとした興奮を覚えるんだよね。

旧オランダ領だったニューヨーク

まあ今回の話はそれだけなんだけど、せっかくだから有名な都市の旧称をいくつか紹介しよう。

まずはアメリカのニューヨーク。この街は当初、ニューアムステルダムと呼ばれていた。これだけでピンと来る方もいると思うけど、この地は元々オランダの植民地だったんだよね。

16世紀から17世紀にかけて、世界の海の覇権はスペイン→オランダ→イングランドというように変遷していった。その流れの中で起こった英蘭戦争において、ニューアムステルダムはオランダからイングランドに割譲されたわけだ。

勝者のイングランドとしては、「手に入れた街の名がオランダの首都名を冠したまま」というのでは都合が悪い。そこでニューアムステルダムは、のちにイングランド王ジェームズ2世となるヨーク公に与えられたことから、その名を取ってニューヨークと改称された。1664年のことである。

ちなみに、ニューアムステルダム時代のニューヨークには、運河を囲むようにして城壁が築かれていた。これはのちに取り壊されるんだけど、壁に沿っていた通りだけは「ウォール街」という名称で現代に残っている。

イングランドとオランダの攻防が行われていたのが、アメリカが建国される100年以上前なのも興味深い。最終的にニューヨークは、アメリカを象徴する世界的な大都市となるけど、この街が誕生したとき、まだアメリカという国は存在すらしていなかったわけだ。

2度名前が大きく変わったイスタンブール

ヨーロッパとアジアの結節点として名高いトルコのイスタンブールは、2度の大きな改称を経て今に至っている。

この街は元々、ビザンティオンの名で知られていた。起源は古代ギリシア人が紀元前7世紀に建てた植民市だ。西方にローマが勃興すると、地中海沿岸にあるほかの街と同様、ビザンティオンもその支配下に入った。

324年にコンスタンティヌス1世が皇帝となると、彼はビザンティオンの再開発を計画。それに伴い、330年に改めて“建設”された街は、皇帝の名にちなんでコンスタンティノープルと呼ばれることになった。

この街は西ローマ帝国が滅びたあとも、東ローマ帝国の首都となっただけでなく、東西貿易の要衝として経済的にも世界有数の都市に発展した。

だが、この1000年以上に渡って難攻不落を誇った街にも落日は訪れる。1453年、オスマン帝国の侵攻を受けたコンスタンティノープルはついに陥落。東ローマ帝国は滅亡した。

こうしてコンスタンティノープルはオスマン帝国の新首都となり、“イスラム圏”に加えられた。日本では便宜的に、この時点から都市の呼称をイスタンブールと表記することになっている。

これは“間違い”とまでは言い切れないものの、実際にイスタンブールの名が広く用いられるようになったのは、本国においてすら後世のことらしい。特にヨーロッパ諸国の人々は、20世紀に至るまでこの街をコンスタンティノープルと呼び続けた。1930年、トルコ共和国政府によって都市名が公式にイスタンブールと定められ、現在に至っている。

なお、よく勘違いされるけど、現在まで続くトルコ共和国の首都は、イスタンブールではなくアンカラである。

“ゲン担ぎ”で改称されたイタリアの街

こうした歴史的な出来事がきっかけではないものの、面白い理由で改称された街もある。イタリアのベネヴェントはその一つだ。

この街は元々、マレウェントゥムと呼ばれていたんだけど、ラテン語で「male」が「悪い」という意味だったことから、ローマ人たちはこれを「良い」を表す「bene」に変えて、ベネウェントゥムとした。運気を考慮して、言わば“ゲン担ぎ”で改称されたのが、現在のベネヴェントというわけだ。

ちなみに、ラテン語の「male(悪い)」や「bene(良い)」は現在の英語にも残っている。

前者は「悪意に満ちた」という意味の「マレフィセント(maleficent)」や悪意を持って作られたソフト「マルウェア(malware)」、後者は「利益」を表す「ベネフィット(benefit)」や「祝福、天の恵み」と訳される「ベネディクション(benediction)」が分かりやすいだろう。

このほかにも、事例をあげればキリがない。フランスのパリは360年までルテティアと呼ばれていたし、ロシアのサンクトペテルブルクはソビエト連邦時代の1924〜1991年までレニングラード(レーニンの街)だった。こうした改称にまつわる逸話を紐解いていくと、歴史ロマンを感じることができて愉しい。

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