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暁に薮を睨む

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刀篤(かたなあつし)の厳選した詩集です。
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2023年12月の記事一覧

【詩】委ねる

【詩】委ねる

ありがとうと言って
手を振ったあの日の
涙は何に委ねられるの

疲れ果てた笑顔を
隠してあなたに向けた
背中を誰に委ねられるの

何ものかが何ものかを
累て知るということは
こんなにも終末に似て

蔑みに自分を累て
背中に憎悪を委ねて

歴史を次世代に引き継ぐような
荒れ狂う海に帰ってきたような

【詩】永遠にして女性的なる光

【詩】永遠にして女性的なる光

西にずいぶん傾いた太陽
冷ややかに雪を呼んでいる
私はエアコンの暖流を
自分の方向へ調整する
胸でゆるい風を受ける
運転手がハンドルを切るたび
建物や街路樹の間隙を縫い
バス内に乱反射する光
直方体のエネルギー増幅装置
前席の学生がXにポストする
斜め前の子供は曲を選んでいる
やがて帯電したスマートフォン群が
空気中に硬質のプリズムを形成し
光は渦を巻き上方に収斂してゆく
この未来はあまりにも

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【論詩】断絶のサブリミナル

【論詩】断絶のサブリミナル

秒でなにかを切り捨てたとき
【大切な】過程が確実に失われた

わたし的に無いな
つまんないだろな

秒でなにかを悟ったとき
【くだらない】過程は確実に失われた

何事も秒でやると必然的に

【大切な(=+)】ものも
【くだらない(=-)】ものも

識閾下の差し引きが膨大になるので

時間が短ければ短いほど
±0に限りなく近づいてゆく

0は無に限りなく近しい数字だ
無は怖いから私はいつも熟慮を選ぼ

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【詩】バロメッツ(幻獣詩篇:8)

【詩】バロメッツ(幻獣詩篇:8)

陽へ伸びる樹木の美しさに
羞恥や媚態などの誘惑が
介在する余地はあるか

黄金の毛に包まれた羊たち
飢えた狼たちの牙にかかり
痛苦と快楽の責め苦に悶える

君の迷妄の耽美よりは
植物のような単純な美
そのほうが潔いだろうね

狼たちとて美を望んだわけでなく
其れは金の滑らかなドレープウール

畝るドレープの手触り

いとしいぃ……くるしいぃぃ……
くるしいぃ……いとしいぃぃ……

畝る根元に液体が

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