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暁に薮を睨む

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刀篤(かたなあつし)の厳選した詩集です。
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2023年10月の記事一覧

【詩】ミノタウロス(幻獣詩篇:6)

【詩】ミノタウロス(幻獣詩篇:6)

この先に宝物庫が
あると信じているのか

それとも出口を
探しているのか

遠く

鉄を引き摺る音

重い足音

今、想像しただろう
この狂った建築物内の
怪物についての神話

斧の鈍い光

頭部は牛のもの

人生という迷宮の
要所要所で容赦なく
眼前に立ち塞がる

咆哮

今、恐怖しただろう
背筋に寒いものが
走っただろう

【詩】球体の動物(幻獣詩篇:5)

【詩】球体の動物(幻獣詩篇:5)

夜空に震えるように瞬く初冬の星々
零れ落ちそうなそのひとつひとつは
それぞれ世界の一要素を司る

球体は最も安定した状態である
球体は押し並べて生命である
球体は始点と終点の無い円環である

天上の球体はさもあらん
私たちの足元もさもあらん
それらを構成する粒子もさもあらん

冬支度を済ませた月の輪熊の暗喩
それをスコープ銃で狙い定める眼球
そして爆ぜた火薬に押し出される鉄砲玉

押し並べて陽子で

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【詩】トロール(幻獣詩篇:4)

【詩】トロール(幻獣詩篇:4)

俺は高架下に住処を置き山羊を待つ
終わりを運んでくる三匹の悪魔の使いを

俯きがちな辺境出の成り上がり連中は
都市の座敷で泥と契約し月齢を数えず

速やかにその汚泥に腿まで取られ
前後に身動きすることも儘ならず

生の儘が最も軽やかだったのだ
積み重なる小賢しさに神話が崩壊する

かつてヨーツンヘイムに住処を置き
トール神と互角に渡り合った巨人たち

俺は橋脚に宿命を置きその時を待つ
青空に激流し

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【詩】クラーケン(幻獣詩篇:3)

【詩】クラーケン(幻獣詩篇:3)

科学者は事実を述べた
宇宙よりも海のほうが
分からないことが多い

いつの間にか暗雲が月を奪っている
大型漁船に備え付けのサーチライトが
闇夜の霧雨を切り裂き海面を舐めて
時化る海原に不意が奇態を呈した

船の遥か前方に漆黒だった島が
いつの間にか遥か後方に座しており
操舵手は回頭していないと言った
そして波間には跡形もなくなった
直径1マイル半程の島が一瞬にだ

わたしは未知に怒りを感じる
未知

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【詩】バンシー(幻獣詩篇:2)

【詩】バンシー(幻獣詩篇:2)

その悲鳴の主を見た者は居ない
聞いた直後に死が訪れるから
死ぬ者にしか聞こえないから

宣告だ

ロミオの親友マキューシオ
ロミオの仇敵ティボルト
ロミオの恋人ジュリエット

ロミオ

そういった文学上の英雄は
不穏の女の悲鳴を耳にして
命を散らして幕間に逝った

女だ

その女のバックボーンは不明だ
然し恐らく何らかの不吉な要素と
絶望的な切実さを感じる悲鳴だ

脚が震える

恐ろしいが根源的な

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【詩】バタフライ・エフェクト

【詩】バタフライ・エフェクト

私たちの本質が空から降ってきて
私たちの表層を冷たく撫でたあと
アスファルトに染み込んでゆく

雨の一滴一滴と同じく私たちは
世界を構成する孤独な飛翔体で
世界中で表層的に嵐を形成し

死んでゆく

陽光の本質が空から抜け落ちて
あなたの震えに到達したあと
アスファルトに反射して輝いた

プロミネンスと同等の波長は
私たちを抹殺する刃の一閃で
私たちは本質的な難題に相対し

生きていた

元々此処

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