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暁に薮を睨む

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刀篤(かたなあつし)の厳選した詩集です。
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2023年9月の記事一覧

【詩】ヴァルキューレ(幻獣詩篇:1)

【詩】ヴァルキューレ(幻獣詩篇:1)

戦死者を選別する乙女たち
死者を蘇らせ宴に誘い饗し
猪肉と蜂蜜酒と躰を捧げる
水煙草やマリファナの匂い
ガラスが割れる音や喘ぎ声

東京駅から次の東京駅まで
無言の空間に皆は隣り合って
無限の振動に皆は委ね合って
男が戦士である必要性も
女が女神である必要性も
無くなった筈の西暦2023年
山手線内側の迷宮的廻廊

最先端都市の最新モデルは
流血沙汰への懐古みたいに
ポリティカル・コレクトネスや

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【詩】知識(美徳詩篇⑦)

【詩】知識(美徳詩篇⑦)

新たな発見が1つあったとしよう
その瞬間に神秘が1つ消えて逝く

神秘を弔う瞬間こそ位相の境目で
墓標がいずれゆらぎを穿ち尽くす

私たちは墓に刻まれた標識を読み
位相をより正しく認識して行く

知っている?

墓と破瓜の仮名表記の同一性が
偶然では無いことを既に少女は

知っている?

この世界は全くどうでもいい
また神秘が1つ失われて往く

はっきり言ってどうでもいい
深淵の真円の墓地に立ち尽

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【詩】信仰(美徳詩篇④)

【詩】信仰(美徳詩篇④)

躰が弛緩する
大地にほころぶ

鼓動が高まる
水際に潮汐する

此処に居ることを
許容されること

此処に帰属できて
貢献できること

此処に居れば
僕はぼくより

此処に居れば
私はわたしより

咳払いの音
ページを捲る音

学生がテーブルで
学習している

並べられている
パスファインダー

本棚が渦を
巻いている

渦に身を
委ねる

ぼくはほころぶ
わたしは潮汐する

この世界は
書物にな

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【詩】希望(美徳詩篇③)

【詩】希望(美徳詩篇③)

仮説に於て運命が既に定まっていたんだ
少ない共通点を愛の証だと錯覚したんだ
少なくとも先週末ぼくはそう思っていた

実のところ全ては行ったり来たりしていた
内省からスタートしたきみの仮説が
思いがけない心証の展開を見せたのだ

何が起こっているのか解らない
ぼくは口元を抑え唾を呑み込む
きみは上目遣いにぼくの喉を見ている

きみは眠れなくなっているらしい
きみは何事も手につかないらしい
きみは妄想

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