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暁に薮を睨む

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刀篤(かたなあつし)の厳選した詩集です。
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2023年5月の記事一覧

【詩】博士

【詩】博士

ザ、ザァーー、 ザ、ザァーー、

わたしの科学は古代の海へと導かれた
原初に巻き戻されても行為すること
"有った"ことに確信を持ち続けること

自分の未来に期待を失ったとき
他者に対する期待も失われた
世界の全てが色褪せてゆき
全ての情報は死への案内状だ

ザ、ザァーー、 ザ、ザァーー、

ゲーテ「ファウスト」のラスボスが
メフィストではなく"憂い"だったこと
ファウスト博士が盲目になったこと

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【詩】デジャヴ

【詩】デジャヴ

心を揺さぶる物語は何時も
既視感を伴ってやって来る
細胞が最も基本的な事柄を
踏まえているからかも知れない
どこか知っているようで
初めての出会いだったりする

「20頭の小さなヒョウが
2頭の大きなライオンを笑った」

台詞の意味をずっと考えている
先々週の日曜日からずっとだ
黒猫が眼前を横切ったのも
既視感のメタファーだった
あれはなんの作り話だったか

既視感のメビウスの車輪で
終わりと始ま

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【詩】月にて

【詩】月にて

廃墟から廃墟へ
時に熱射病のような
或いは低体温症のような
息を吸って息を吐いて
美味いか不味いかの
判別が不可能な
大量の生命を喰って眠り
目覚めては見る白昼夢

学校だ会社だ老人ホームだ
勉強だ仕事だリハビリだ
満天の星空が綺麗
満点のテストが自慢
孫が笑ったじいじがボケた
奴は天才だあいつは馬鹿だ
野球だラグビーだ阿呆踊りだ
仏像だ抽象画だコミック雑誌だ
ピルだスキンだバイブレータだ
愛して

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【詩】司書

【詩】司書

あなたがわたしに
愛を期待していて
同時に心の底から
憎んでいることは
間違っていないわ
なんの前情報も無く
駅前の図書館に行き
インスピレーションで
選んだ小説でさえ
常にあなたに必要な
今まさに最も必要な
物語であるという愛憎を
その図書館の司書が
調律したのだから

【詩】ライ麦畑の墓守

【詩】ライ麦畑の墓守

そのライ麦畑は
地平線の彼方まで

深い谷に至る
崖っぷちまで

過去の子供たちで
埋め尽くされている

新参者の為の
スペースは無い

だから光合成の
方法論は成熟した

新しい子供たちが
初めから大人として
太陽光の手管を心得る

積み重なる技巧の継承
迷いも誤魔化しもない
最先端の実りの豊潤さ

それでわたしは大人として
ライ麦畑の崖下へ行って

失われた幼稚さの為に
一日中墓穴を掘っている

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【詩】ウイルスではない

【詩】ウイルスではない

ウイルスではない
何かが進行している
気がするの

わたし

この国のみんなが
まだ気付かず
疲れきっているのが
あなただけじゃなく

映画の主人公が
何故あなたのことを
知っているのか

わたし

いっぱいいっぱいなの
でもそんな姿は
わたしじゃないから
見せないの
耐えているの

小説の主人公が
わたしの怒りを
知っているの

共有しているから
重みがあるのそして
自重に耐えられるか

わたし

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