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暁に薮を睨む

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刀篤(かたなあつし)の厳選した詩集です。
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2020年12月の記事一覧

詩:『曇天』

詩:『曇天』

『曇天』

昨夜から激しく降り続けた
霙(みぞれ)がはたと止んで

薄い煙の様な曇天は
年の名残りを抱擁している

ああ薄雲よ 大晦日の
空想能う限り全ての虚しさよ

九月に去っていった愛しい
あの人の横顔をただ惜しんで

曇り空が晴れるような日常の
去りし僥倖を取り戻してくれ

恒例の年末行事の嚆矢へ
時間を巻き戻すように

原始の衝動に身を任せた
欲望の日々を甦らせてくれ

あの日の熱情は沈着

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詩:『雪道』

詩:『雪道』

『雪道』

大雪警報が
23区に発令された夜

人生で一番の親友を
殴って僕は東京を去った

僕が何かを失うときは
いつも大雪が降る

列車が止まったとき
涙がつと零れ落ちた

水槽のような列車内
共鳴する音叉のように

乗客たちもみな鼻を啜り
泣いているように思えた

親友を殴ったときと
同じ類の痛み

僕は思い出した
父を殴ったときの

拳と
心の痛み

もう帰るところなんて
何処にもあるもの

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