FtMとFtXが女二人のフリして賃貸住宅に入居する話
僕らが付き合いはじめたのは2013年の春のことだ。
2014年の春からしばらくは、関東地方と中国地方で遠距離恋愛をしていた。
もともと関東地方にいた僕が、中国地方で就職したためだ。
その仕事も、2018年の春でやめた。
いよいよ同棲生活がはじまることになった。
不安は山ほどあった。
ーーー二人の関係をどう説明するのか?
---ルームシェアでも不利になるという噂は本当なのか?
---不動産屋さんがOKでも大家さんがNGという場合もあるとかないとか?
当時、SUUMOがLGBTフレンドリーを打ち出し、サイトでそのような物件を検索することもできるようになっていたのだが、まだまだ一部の地域の話で、僕らが希望するエリアには該当する物件がない状態だった。(今ためしに検索したら40件くらいあった!)
そんな中、「二人入居可」という条件でいくつものサイトを検索する日々。しかしこの「二人入居可」というのもなかなかの曲者で、親類でないといけないとか、結婚を前提にした同棲ならいいとか、いろいろと条件がついていて、かならずしも「ルームシェア可」というわけではないのだ。
最終的に、「二人入居可」の物件からいくつかの候補をピックアップして、不動産屋さんを予約した。
不動産屋さんでは、友人同士のルームシェアということにした。
するとまず担当さんが、候補それぞれの管理会社ないし大家さんに電話をかけて、女性二人のルームシェアが可能かどうかを確認してくれた。
「親戚ではなくて、ご友人なんです」と電話口で説明すると、拒否する相手もいたが、過半数の物件は「問題ない」という回答だった。
次は、そうして第一関門をクリアした物件の内見だ。
移動の車内で世間話的に、「お仕事は何をされているんですか?」とたずねる担当さん。僕はこれまで教員をしていて、これからNPOに転職すること、彼は士業の事務員であることをつげる。担当さんは「いいですね、おカタイ職業は審査で有利になりますよ」という。そういうものなのだろうか。
数軒内見した結果、もともと第一希望だった物件が期待どおりだったので、そこを契約することにした。
最後はいよいよ契約である。
書類に年収やら何やらを記入して、審査をしてもらう。審査には数日かかるらしい。その間、保証人にも連絡がいくそうだ。
ドキドキしながらその日は不動産屋さんを後にした。
翌日。
不動産屋さんから着信が。こんなにすぐ結果がわかるということは、やはりダメだったのだろうか。
一呼吸おいて電話をとると、「おめでとうございます!無事審査を通過しました!」の声。
超がつくほどあっという間の出来事だった。
結果的に、最初の不安はすべて杞憂となった。
数週間後、僕らはその部屋に入居した。
大家さんはとてもいい人そうで、挨拶にいった他の部屋の住人も、「ルームシェアなんです」という僕らに嫌な顔一つしなかった。
今回の事例は、あくまで僕らの場合であって、「僕らはうまくいったからLGBTの部屋さがしも心配することないよ!」などというつもりは毛頭ない。
というか、今回の件は「LGBTの部屋さがし」にはあたらないかもしれない。LGBT要素を意図的に排除した(できた)から。
---これが男性二人だったらどうだっただろうか?
---どちらか(あるいは二人とも)が性別移行の最中だったら?
---友人ではなく恋人だと正直に申告していたら?
僕らには僕らの特権性があるのだ。
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