見出し画像

回復期リハ看護のための知識 〜大腿骨頸部骨折の病態と看護〜

こんにちは。うなぎです。
自分の復習と学習を兼ねて、病態知識と看護についてまとめていきたいと思います。

今回のテーマは大腿骨頸部骨折です。


大腿骨骨折

転倒や転落による受傷が多い。
大腿骨近位部骨折は大腿骨骨頭骨折、大腿骨頸部骨折、大腿骨頸基部骨折、大腿骨転子部骨折、大腿骨転子下骨折と、骨折位置で分けて治療法を考える。
臨床では大腿骨頸部骨折、大腿骨転子部骨折が多い。

大腿骨頸部骨折は、関節包より内側の骨折。
大腿骨転子部骨折は、関節包より外側の骨折。


大腿骨頸部骨折の治療

骨癒合を見込める場合は、骨接合術=骨と骨をつなぐ
骨癒合を見込めない場合は、人工骨頭置換術=骨頭をインプラントに置き換える

骨接合術

手術侵襲は、骨頭置換術と比べると小さい。
骨頭への血流不全による骨頭壊死症や、不適切な荷重によってインプラントが骨を突き抜けてしまうカットアウトのリスクがある。
荷重制限が必要な場合がある。

人工骨頭置換術

骨接合術に比べ出血量も多く、手術侵襲は大きい。
骨頭壊死やカットアウトのリスクがなく、荷重制限が不要。
安静度が守るのが困難な患者には、あえて骨頭置換術を行うこともある。
術後は脱臼(骨盤の臼蓋からインプラントが外れる)リスクがあるため、脱臼肢位を取らないよう注意が必要。


症状(急性期)

疼痛
感染リスク
深部静脈血栓症のリスク
腓骨神経麻痺のリスク=下腿の外側から足背並びに第5趾を除いた足趾背側にかけて感覚が障害され、痺れたり触った感じが鈍くなる。足首と足指が背屈できなくなり、下垂足になる
脱臼のリスク
転倒リスク


症状(回復期)

疼痛
感染リスク
深部静脈血栓症のリスク
脱臼のリスク
転倒リスク


THAのアプローチ方法による違い

前方、前側方アプローチ

近年増加傾向。
側臥位または仰臥位で行われる。
後方の軟部組織をほとんど温存できるため、後方への安定性が高い。
一般的に、日常生活動作はほとんどが股関節を屈曲した状態で行われるため、前方アプローチは後方アプローチと比較すると、脱臼リスクが圧倒的に少ない。
伸展・内転・外旋で前方脱臼のリスクあり。

側方アプローチ

後方の短外旋筋群を温存できるので、対脱臼性という観点では前方アプローチと同様。
外側、または前外側の組織を一旦切離し、再縫着するため、術後は外転制限・外旋制限などの動作制限が必要な場合がある。

後方アプローチ

最も一般的なアプローチ。
後方から侵入し、股関節後方の短外旋筋群を一旦切離し、後方の関節包を切離しているため、切離部の瘢痕形成が完成するまでは、後方脱臼を起こしやすい。
屈曲・内転・内旋で後方脱臼のリスクあり。


大腿骨頸部骨折の回復期看護

①術後の疼痛コントロールと感染兆候の確認

離床拡大のためにも疼痛コントロールは重要。
疼痛の程度を把握するためにNRSスケールを使用し、主観的な疼痛の程度を追っていく。NRSスケールでの表現が難しい患者に対しては、フェイススケールを使用する。
どの部位が痛むのか、どのような動作や体位で疼痛を誘発するのかも合わせて観察する。

疼痛が強く、リハビリや日常生活動作、睡眠に支障を来たすようであれば鎮痛薬の使用や増量、種類の変更を検討する。
安楽な体位が取れるよう、クッションなどを活用し、PTとともにポジショニングを検討する。

手術から回復期への転科期間が短い場合は、創部の炎症兆候が残存していることもある。また、回復期でも創感染を生じることもあるため、創部の確認は重要。感染兆候がある場合は主治医に報告、診察を依頼。状態によっては執刀医(急性期)の診察・治療が必要となることもある。


②術後の安静による筋力、耐久力低下で生じる歩行障害

患者の歩行能力を、多角的に多職種で評価する。
安静時と動作時の疼痛の程度、バランス能力(BBS)、筋力(MMT)などの指標を用いる。
安全な歩行が難しい場合は、訓練を中心に歩行練習を行う。
患者の能力に合わせた歩行補助具の選定が必要。
訓練内での歩行が安定したら、生活内での歩行を開始する。
食事の際に食堂歩行を行う、排泄の際にトイレ歩行を行う、訓練以外で歩行練習を行う、など。

患者の認知機能によっては、歩行補助具の使用が困難な場合がある。また、指示の理解や記憶の低下などにより、安全の確保が難しい場合は生活内歩行実施のタイミングも検討す必要がある。
身体能力だけではなく総合的な能力を評価し、多職種で共有していくことが重要となる。

例)認知機能が低下し、歩行器を正しく使用できない患者
歩行器以外の歩行補助具を検討する。
歩行器よりも、杖の方が見慣れていて使い方を理解しやすい場合がある。杖も安全に使用できない場合(歩行時に浮かせてしまう、杖を取ろうと床にかがもうとしてしまうなど)、独歩での移動を検討する。
安静度の指示が守れない場合は、生活内歩行の導入時期も考慮していく。
トイレ歩行を始めたいが、見守りが嫌でストレスフルとなり一人で歩いてしまう。そんな時は、訓練で自立レベルまで歩行能力を上げてから生活内歩行に移行していくことも方法の一つ。


③脱臼予防、荷重遵守のための患者教育

骨接合術では荷重制限がある場合がある。執刀医からの指示に必ず従う。
THAでは後方アプローチの脱臼リスク(屈曲・内転・内旋)に注意。

認知機能に問題がない患者に対しては、荷重スケジュールを共有して遵守するよう伝える。脱臼リスクについては、パンフレットを用いるなどして視覚的に危険な動作を理解できるよう伝える。

認知機能が低下し、指示が守れない患者に対しては他者の介入が不可欠。
荷重制限や良好な肢位を遵守できるよう、移乗を行う際に毎回声をかけたりするなど、日常的な声掛け・指導が必要。


④安全管理

筋力低下や疼痛などにより、安全に様々な動作が行えないことがある。
患者の現在の身体能力、認知機能を評価することが必要。
大腿骨頸部骨折の患者は、転倒により受傷した、という経緯の患者が多い。そのため、再転倒による骨折リスクがかなり高い。

ナースコールが押せるかどうか。
押せない場合は、離床センサーやマット型センサーの使用を検討。
どの動作なら安全に行えるのか。
どの程度の指示理解が可能なのか。
何をしたくて動くのか。

これらを常に多職種で評価していく。
漫然と同じように介助をしたり、センサーを使用するのではなく、変化する患者の能力に合わせて環境調整をしたり、介助方法を変えていくことが重要。


⑥せん妄予防とケア

入院による環境変化により、せん妄を起こす患者は少なくない。
痛みや薬剤などでせん妄が引き起こされる可能性がある。
自身がなぜ入院しているのか、手術をしたことを覚えていないことも多い。
患者が安心して入院できる環境調整が必要であるとともに、不快となる因子を可能な限り除去する。
例)痛みが強い場合は、鎮痛薬を使用して疼痛コントロールを図る。

せん妄が生じた場合は、医師に指示を確認しながら、不穏時薬の使用も検討。
せん妄により荷重制限や良肢位が遵守できない場合も少なくないため、患者の安全が確保できるよう複数人で対応することも必要。
せん妄が遷延する場合は、精神科の受診も視野に入れる。


⑦退院支援と家族指導

治療による安静のため、受傷前よりADLが低下していることもある。
入院時から、受傷前のADL、支援者の有無、自宅環境、リハビリの目標や希望する退院先などを聴取しておく必要がある。

特に高齢者は、家族や本人が想定したほど回復できない場合も多い。日常から回復状況を共有しておく必要がある。
その上で、最終的な退院先などを決定できるよう支援する。
必要に応じて

・介護保険の申請とサービス調整
・自宅の場合、自宅環境の確認(写真や退院前訪問の実施)
・外泊、外出訓練の実施

も行っていく。
退院後も転倒リスクが高いと思われる患者に対しては、転倒予防の家族指導も行う。
訓練を見てもらいながら、入院中から家族への介助指導を実施していく。
また、THAは脱臼肢位に関する知識も指導が必要。これも訓練の見学やパンフレットなどを用いて注意点を理解してもらう。


引用参考文献

和田玲編.疾患ごとの看護実践が見える回復期リハディジーズ第1刷:学研
脳卒中と大腿骨頸部骨折の疾患・治療・リハ・看護.リハビリナース第17巻1号.2024:メディカ出版
加畑多文.人工股関節全置換術における手術進入路と脱臼メカニズム.日本リハビリテーション医学会誌.60.9−14.2023.

いいなと思ったら応援しよう!