東京トンガリキッズ・21ct 「いつまでも青い心で」
以下に公開するのは、「宝島AGES」第2号(2015年5月号)に掲載の中森明夫<東京トンガリキッズ・21ct>第2回の全文です。掲載写真の撮影は代田康彦氏です。
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東京トンガリキッズ・21ct
「いつまでも青い心で」
BGM=パーランマウム『リンダ リンダ』
ボクは30歳のビジネスマン。
いや、営業マンといったほうが正解だ。
中途採用で事務職募集、高級好待遇なんておかしいと思ったよ。すぐにバケの皮がはげた。
大量採用で強度の負荷をかけ、入社一か月で半分以上が辞めた⁉︎ 試用期間中の自己都合退職は給料ナシだとさ。
あ〜あ。みんな「正社員」にしがみついた。必死でね。
恐怖のサバイバルゲーム。
地獄の社員研修。
駅前で大声で宣誓。
素手で便器みがき。上司の靴みがき。
毎朝、12階まで階段駆け昇り。あげくジャージ出勤、丸刈り強要も⁉︎
ひでぇよ。残った奴らは奴隷、会社のイヌ。
社長の挨拶が「ようこそ、クズども!」。
『カイジ』かよ!
ざわざわ、ざわざわ、ってさ。
大学卒業は超・就職氷河期だった。
エントリーシート100社出して無反応。なんとか中小に潜り込む。
バブル世代の40代上司が超ウザい。ふたことめにゃ「これだから、ゆとり世代は」ってディスられた。
バブル時代の栄光自慢、カラオケで小沢健二? オザケンの『ラブリー』唄いまくるのはやめてくれ⁉︎ ウザケン先輩って陰で呼んでたよ。
一年で会社辞めて、ぷらぷらしてた。
オヤジが倒れて、「働け!」ってオフクロに泣きつかれた。そんで今の会社……いや、とんでもねぇ。地獄だよ、ガチで。
今さらググッてみた。ウチの会社名をね……したら、あったよ、5ちゃんねるの"黒社板“にさ。
黒社?
……ブ、ブラック企業だったんだ⁉︎
<おまいら、そこにいたら……死・ぬ・ぞ((((;゚Д゚))))>
マジか⁉︎
パワハラ常習、休日無しの連続出勤、100時間超のサービス残業、帰宅できず寝袋で寝る始末。
確実に労災認定、過労死寸前だ。
テレアポ営業、ノルマ一日300本! I P電話で記録されてる。
ノルマ不達成1%でビンタ一発、連帯責任で全員一列に並ばされ、毎日、鬼軍曹課長に連続50発ビンタ! 顔が腫れ上がったよ。
血尿、鬱病、10円ハゲ、神経性胃炎に顔面神経痛で次々と社員が倒れる。
ボクも吐き気が止まらなくなり、診断名・パニック障害だと⁉︎
でも、休めない。辞められない。なんとかこの地獄に耐えるため、唄ってるんだ、心の中で。
そう
……ドブネズミみたいに……美しくなりたい……。
TSUTAYAで借りたDVDだった。
女子高生が文化祭でバンドやる話でね。感動したよ。
『リンダリンダリンダ』っての。もう、10年前の映画かな?
彼女らが唄うのが、ブルーハーツ。
初めて知った。へぇ、80年代? ボクが生まれた頃のバンドだ。
スマホでダウンロードして聴きまくったよ。
『パンク・ロック』『人にやさしく』『終わらない歌』……や〜胸にしみた。今の草食系Jポップにゃ無い熱さだ。
映画の中じゃ韓国人の女の子がボーカルでね、パーランマウムのバンド名、韓国語で「青い心」だってさ。
いいんじゃね?
ああ、それにしてもボク……生まれる時代を間違えたのかな? ブルーハーツの歌のような、80年代に青春を送れたら。
シャレんなんないぜ、「ブラック」企業の「ブルー」ハーツなんて。
ほら、人によって黒にも金色にも見える服ってネットで話題になったじゃん。「ブラック」企業も「金ぴか」に輝いて見える奴がいるのかね?
出社すると、毎朝、並んで大声で企業スローガンを叫ばされる。
ウチの社長はオフィスでガンガンBGMを流す。それが、愛は勝つとか、負けないでとか、マイ・レボリューションとか…そそそ、昔のガンバレソングなんだ。
ある日、やめてくれ! と叫んで、ボクは衝動的にオフィスを飛び出した。だって……
♪気が狂いそ〜
……って流れたんだ。
『人にやさしく』が。
げっ、ブルーハーツを……ボクのブルーハーツを、こんなクソ会社のヤル気促進BGMに使うなんて! ああ。ビジネススーツのCMソングでブルハが流れてたの思い出したよ。
ボクは走った。昼下がりのオフィス街を。ハァハァ息ついて、ビルのミラーに写った自分を見る。
……ドブネズミだ。
ちっとも美しくなんかない。
キモい。キモすぎるっ。
なぁ、ヒロトよ、マーシーよ、ホントにあったのか?
80年代には。
写真には写らない美しさ……ってやつが。
ボクはドブネズミ色の背広を脱ぎ捨てる。
ネクタイをむしり取る。
Yシャツのボタンをはずす。
その下には……
ブルーハーツのTシャツ!
真ん中に青いラインが入ってる。
そう、80年代のブルハファンはみんな着てたってヤツ。ヤフオクで1200円で落札したよ。
会社のイヌでも、奴隷でも、ネクタイの首輪、ドブネズミスーツの中には……
ブルーハーツがある。
青い心がさ。
それが今のボクの支え、最後のプライドなんだ。
道行く人がポカンと見てる。
恥かき社員研修かって?
違うよ。
ボクは唄う。自分の意志で。ハートで。ぴょんぴょん飛び跳ねながら。道のど真ん中で。
『リンダ リンダ』を。
ブルーハーツのTシャツ着て。
狂ったように唄い、叫ぶ。あの韓国人の女の子みたいに。
パーランマウム。
青い心で。
春の真っ青な空のような。
そう、いつまでも……いつまでも、青い心で。
(了)
<中森明夫の最新情報>
『東京トンガリキッズ』は27歳で出版した私の初単著、デビュー作です。今、また新しい小説を書いています。<サブカルチャーのカリスマ・寺山修司が今も生きていて、アイドルグループをプロデュースする…その名も『TRY48』!>と題する、ぶっ飛んだ物語。文芸誌「新潮」で連載中。第1〜3章が以下のサイトで無料で読めます。ぜひ、ご一読を!
https://www.shinchosha.co.jp/shincho/special/try48/