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番外編(20xx+0)年5月 ありふれた日常と、ありふれた会話。

||||||||||||||💐|常|

喫茶洋燈。誠志と藤四郎がいつものようにテーブルに座っている。

誠志は受講している講義のレポート作成用に教科書を熟読する作業の真っ最中であり、藤四郎は、ひいきにしている雑誌記者の記事に感想のメールを送るために、記事の文面を要約する作業をしているのだ。

ページをめくる音と、シャープペンシルと走らせる音だけが響く空間の中、空になったコーヒーカップを回収するためにやってきた葵が、誠志の教科書をのぞき込んでから声をかけた。

『誠志君って、A型よね?』

『そうだけど。なんで?』

怪訝に思って問い返す。

『ほら、几帳面だから、、、。』

葵さんが、誠志の開いている教科書を指さす。

誠志の開いた教科書の欄外には数行分の本文の要約が角カッコでくくられて誠志自身の手書きで10文字程度に逐一まとめられている。これは、戦前に発行された書物の体裁として多くされていていた方法だが、現代ではあまりみられないものである。

『あってるけど、、、でも、血液型判定なんて、あてにならないですよ。』

教科書に目を落としたまま、誠志は続ける。

『血液型判定って、ABO式だけじゃないんですよ。例えば、ウサギの血液と混ぜて判定するMN型とか、馬の血液と混ぜて判定するP型とか、豚の血液と混ぜるQ型とか、他にも、ウナギの血液と、、、』

バコン!

突然、誠志の目から火花が散る。目を丸くする誠志だが、一瞬の間を置いて、葵さんの持つお盆で頭部を叩かれたことに気が付く。

『な!?』

『豚とか馬って、人間の血液にそんなもの混ぜるはずないじゃない!』

葵さんが、ムスッとした態度で空になったコーヒーカップを回収してカウンターの向こうに戻っていく。

突然の事態に目を丸くして、葵さんの理不尽な態度に戸惑う誠志の肩を、藤四郎が無遠慮に何度も叩きながら楽しそうに話しかける。

『あいつ、いつもああなんだよ』

『ああって?』

誠志が怪訝そうな顔をする。

藤四郎は誠志に顔を近づけて小声で話す。

『(あいつ自分の考えていた話の流れを崩されると、いつも手を出しちまうんだよ。多分だが、あいつ、おまえのその几帳面な勉強方法が気に入ってほめたかっただけだ。何か聞きたいことがあったのかもな。そこにお前、真面目に話をしちまうから、、、)』

小声で愉快そうに話す藤四郎。何が何だか分からない誠志は、黙って洗い物をする葵さんの姿をみて何を考えているかを推測するが、いまいち上手くいかない。

『あいつは、AB型だから、繊細で傷つきやすいんだよ』

『ハイハイ、我侭なAB型で悪かったですね!』

突然、通常の声量に戻した藤四郎の言葉に、葵さんの返答が返ってくる。誠志は少し反省して、自分なりに葵さんが求めていたのではないかと思う回答を口にする。

『この勉強方法は、俺の家庭教師の先生が教えてくれた方法ですよ。他にも、その先生には図書館とかでレポート用に必要な本を借りてきたら、お金を惜しまず、関係の内容が載っている章をまるまる全部ゼロックス・コピーしてファイリングすることもたたき込まれたんですよ。』

誠志の弁明に、藤四郎が言葉を続ける。

『そうそう、自分を抑えて羽目を外さないA型の人間にはよくあるこった!』

カウンターの向こうから大きなため息が一つ聞こえてくる。

『もういいわよ。鈍感で察しがわるいA型の誠志君と、単純で短絡的で面倒見のいいO型の由利君。コーヒーの追加注文はいらないの?』

毒気を抜かれた葵さんの声がカウンターの向こうから聞こえてくる。

『マンデリン。』『ブルーマウンテン。』

誠志と、藤四郎が注文をする。そんなやり取りの中で、誠志は型にはまった決まり文句で自分や藤四郎や葵さんの性格を容認してくれることに、はじめて安堵感を覚えた。

(思い入れが強いほど、信念が強ければ強すぎるほど、その人は非効率的になっていく傾向があるって何かの本に書いてあったな。)

今まで型にはまった血液型判定に嫌気がさして、いつも話半分でまともに取り合わなかった誠志だが、藤四郎と葵さんの間ではそんなありふれたものにかたくなに反論をし続けてきた自分を少し恥ずかしく思えるのだった。

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