番外編 (20xx+2)年1月◆あなたに名誉を
三が日が過ぎた頃の冬休み。
喫茶”洋燈”の入り口には“本日貸し切り”の札。
本来は定休日なんだけど、葵さんが、俺と藤四郎が葵さんに送った年賀状のお礼に、お店を貸し切りで開いてくれたのだ。
『誠志君、年賀状ありがとう。この猫の絵は霞ちゃんの絵?すごく上手ね!』
『そうなんですよ』
霞は、単純ながら写実的な輪郭のイラストを描き、そこにパステルカラーをふんだんに使う。幼いころは女の子らしい絵を描いていたのだけど、“外国の子供は写実的に絵を描くけど、日本の子供は記号化された絵を描く傾向がある”という話をしてから、そんな画風になってしまったのだ。
なので、実は、ちょっと悪い事した気がしているのだが。
『霞ちゃんにも、よろしくね!』
そういって、霞のために、最近流行っているお洒落な絵本を貸してくれた。
それを受け取り、お礼を言う。
葵さんは、頷くと、今度は顔を藤四郎の方に向ける。
『由利君、年賀状に外国のポストカードっていうのって斬新だったわ。ありがとう』
葵さんがレターセットをカウンターに置く。
『フランスのレターセットと切手、わざわざ取り寄せてくれたのね』
葵さんはレターセットを裏返す。裏側の右上に日本の切手が貼られ、消印が押されている。
それとは別に、何故か封蝋をする場所の真上に、フランスの切手が、しかもイラストの女性が頭を右に向けるように横倒しに貼られている。
『(ん?これって、まさか、、、切手言葉?)』
誠志の頭に、古い文献にかかれていた情報がよぎる。
葵さんは、カウンターに背を向けると、棚の中から雑誌をとりだし、丸めながら話を続ける。
『でも、ジャンヌ・ダルクって、軍人だったわよね?』
、、、こころなしか、声のトーンが低い。
『お、おお。それがどうかしたのか?』
予想外の反応なのか、さっきまでニヤニヤしていた藤四郎の表情に動揺が浮かぶ。
『これ、軍人の切手だと“あなたに名誉を”って意味になっちゃうんだけどな。』
バンッ! と棚の扉を乱暴に閉じると、ひきつった笑顔で振り返った。
『私に、城攻めでもさせたいの?』
『まて、誤解だ!深い意味はねえよ!それでいいだろ!?』
パシッ、パシッ!と葵さんに雑誌(PENっていう雑誌)で叩かれながら言い逃れをする由利を横目に、携帯で”The language of stamps”というワードを検索する。
切手言葉はヨーロッパの各国ごとに意味が異なるのだけど、フランス語の切手だから、
(“あなたのことを考えています”か。)
直球の愛情表現ばかりが並ぶなかで、一番謙虚な言葉を選んでいるのが藤四郎らしいというかなんというか、、、。
(まあ、今年も一年、こんな感じで騒々しく、平和に過ごせればいいな。)
誠志はコーヒーをすすりながらそう思うのだった。
この物語はフィクションであり
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