|Ⅰ|(20xx+0年)7月◆前期課程試験、全科目終了
目を覚ます。
ここは『洋燈』のカウンター。
大学の試験の最終日が終わった所で、同級生の籘四郎にここまで引っ張られてきたのだ。
(眠っちゃったか)
眠い目をあげると、そこには籘四郎のお目当ての人。
『せいじくん。授業、ちゃんと聞いてないんでしょ。』
多分、彼女は(だから一夜漬けが必要なんでしょ?)といいたいのだ。
少しムッとしてみせて、籘四郎の方を顎で示す。
『葵さん、こいつです。授業を聞いてないのは』
『(裏声)せいじ君は、私をお目当てにきてくれないのね~、って言った方が可愛げが、、、』
ゴスッ!
籘四郎が頭部にお盆を喰らわされている。
俺は、大橋誠志。K大学の一年生。
さっきも書いたけれど、前期課程試験期間の最後の試験が終わった足で、同級生の由利籘四郎と喫茶店”洋燈”にきて、密やかな打ち上げを行っているのだ。
打ち上げ、、、といいつつ、実際のお目当ては、看板娘の白根葵さんの顔を見にきたのだ。葵さんは、普段はお店の奥で、裏方仕事かサボって読書しているけど、俺と藤四郎が来たときには顔を出してくれる。ちなみに、年齢は、俺と藤四郎の2つ年上だ。
『青い空は動かない、雲ぎれ一つあるでない。夏の真昼の静かには タールの光も清くなる』って、中原中也の詩にも出てくるから、、、』
葵さんはそういいながら椅子を取り、
『コーヒー、外で飲んでみよっか?由利君だけで。』
と、言いながら、藤四郎の前にドスンと置いて、満面の笑顔を見せた。
『えぇ、それ出てけって事ですか?』
(いや、『出てけ』はかなりマイルドな解釈だと思う)
でも人相の悪い藤四郎が、店の前で椅子にすわってコーヒー飲んでたら、お客が来なく、、、って、葵さんなら読書の時間ができたって喜びそうだ。
何だか平和な時間だ。
K大学に入って、友人ができて、こうやって自然に過ごすっていまだに実感がわかない。この平和でフワフワした時間が、自分の中でも徐々に受け入れられていることに、焦燥感と、不思議な安堵感があった。
この物語はフィクションであり
実在の人物団体とは一切関係ありません
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