|∇|[(20xx+0)年4月 邂逅の日]◆過去のこと:
始まりの日(表-1)
横浜港に、大橋出雲の乗る貨物船アストレア・リーダーが到着した。
出雲の乗る船が横浜港に寄港すると、必ずK区にある骨董店に足を運ぶ習慣があることは熟知している。
誠志の羽織るフライト・ジャケットのポケットの中には、ハンティング・ナイフが入っている。ナイフで狙うべき急所は、喉、首筋、みぞおち、睾丸、両のひじ裏や両の手首近くと両の大腿部近くの太い血管だ。最初に、突くのが失敗したら、とにかくみぞおちを中心とした、ちょうど米の字の線に沿って薙いでしまえば、ナイフは急所のどれかを捉えるだろう。
そして、目的を果たしたら、すぐに返り血の付いたフライト・ジャケットを裏返して着ればいい。
大丈夫だ、何度も練習したはずだ。
後は、出雲が通りかかるのを、待つだけだ。
手ににじむ汗に緊張の度合いを感じ、腹から息を吐いて心を落ち着けようとしていたとき、
『よう、なんてツラしてやがる!』
突然の太い男の声に振り返る。
『こっちにこいよ。俺と一緒にコーヒーでも飲もうぜ』
喫茶『洋燈』のガラス扉から体を突き出すガラの悪そうな男が一人。
男の迫力におされる。
男の後ろには、心配げな女性の顔が覗く。
始まりの日(裏)
『あいつ、何考えてやがる。』
思わず、藤四郎が言葉を漏らした。『洋燈』の窓から、同じくらいの年の青年が見える。その青年の目つきからは、明らかな殺意が漂っている。
『由利君』
葵が藤四郎に言い聞かせるような口調で名前を呼ぶ。その声には、若干の不安も入り混じっている。
『悪い、ちょっと行ってくる』
そういうと、藤四郎はガラス扉を開けると、良く通る声で青年に声をかけた。
始まりの日(表-2)
今騒ぎにされては困る。男の様子を見ても、走っても逃げ切れるとは限らない。なので、ここはおとなしく喫茶『洋燈』に連れられて入る。
『コーヒー、俺と、こいつに。』
そう言って男は俺の肩をポンとたたいた。普段、他人に触られ慣れていないので、怒りで頭に血が上りかけるが、おとなしくする。
それでも心配そうな顔で頷いた女性をみて、不安を与えたこと、平和をかき乱してしまったことに申し訳なく思った。
気が付くと、財布を取り上げられていた。あ、さっき肩に触られたときか。
中には、K大学の学生証。男はそれを見て、目を丸くする。
『なんだ、お前、俺と同じ大学じゃないか』
それが、藤四郎と葵さんとの出会いだった。
それからというもの、俺が大学に登校すると、藤四郎がどこからか俺の参加する授業で待ち伏せては、そのまま強引に色々な場所、とりわけ『洋燈』に連れ回すようになった。
俺は、最初は本気で迷惑だと考えていたが、いつしか、そんな平和な生活の中でだんだんと復讐について、考えなくなっていたのだ。
この物語はフィクションであり
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