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SFリテラシーが低い…続々『世界SF作家会議』読書感想文

いきおい余って続々編です。
最初の感想文では冒頭に小松左京トリビュートと書きましたが
現在放送中の「日本沈没」にたいする評で
気になるものがありました。
それは「週刊フジテレビ批評」という番組の中の
クール毎の定例企画
「各局ドラマ辛口放談」という座談会でのこと。
日刊スポーツの芸能記者だという梅田恵子さんというお方
「今回はTBSの日曜劇場をおススメにあげる方がいらっしゃらないのが意外ですが」
という司会者の問いかけに対して

「原作はSF小説の金字塔なんです
なのに今ドラマはサイエンス感がまるでない。
むかしの映画は、ほぼほぼサイエンスですからね
それを令和の映像技術でどう見せてくれのか
楽しみにしてたのに」

どうやら彼女が「サイエンス」と呼んでいるのは
SFXシーンのようです。
しかも地割れに噴火がドッカンドッカンといった。


海底探査のシーンでも充分すぎるほど
サイエンス汁がしたたっているし
改竄された海底地震の記録紙もサイエンスです

この「世界SF作家会議」を読んだなら
会議や会話のシーンでさえ
「SF」だということに気づけるはず
彼女には是非、一読をおすすめします

彼女のような思考に陥ってしまうのは
実は日本人の中にSFばなれが進んでいるということかもしれません
日本人はアニメなどでSF好きだと自分たちも思いこんでいるようですが
実はSF好きなのではなくファンタジー好きなのではないかと。
SFとファンタジーに明確な区別はありませんが
「なんでもありかよ!」
とつっこみたくなるのがファンタジーです。
もちろん主人公が問題に立ち向かうというのが
ストーリーテリングの基本だという意味では
なんらかの制約は課せられるのですが
その多くはSF的舞台装置というよりは
ボードゲーム的なものなのではないかと
ドラえもんはファンタジーでありながら
ガジェット信仰心も煽るというやっかいなマンガですw

とりあえず
今回の「日本沈没」にはドッカンドッカンがないからつまらない
という意見が多数だとすると残念です

全部ひっくるめて、やっぱりつまらん
という意見なら仕方ないのですが…

とりあえず没するのが関東平野という限定設定は絶妙です
戦争せずして領土が減るという
重大事実に鈍感でいられるが故に、私利や政治利用に走ってしまうという構図は
原発事故とも重なります

とにかく、経済も政治も
SFの守備範囲なのです
それはブロックチェーンが発明されるずっと以前からです
マンガ「望郷太郎」は通貨が大きなテーマとして扱われました

ドッカンドッカンだけがSFじゃない
というわけでいくつか「世界SF作家会議」から引用してまとめとします。


p31
ウイルスが人間を理解しすぎじやないかと。

p36
情報が遮断されて行き来がなくなって、交流がなくなったら何が起こるか。いちばん心配しないといけないのは戦争ですね。有名な言葉で、「商人が帰ったら、次に行くのは兵士だ」という言葉があるぐらいです。

p110
戦争もそうですけど、愛とか正義があることで歩みを止められなかった行進なんかは、歴史を見ているといっぱいある。

p40
例えば100人の感染者の命と、100万人の雇用や娯楽、生活を満足に生きることのどちらを優先すべきかという問い。それが新しいトロッコ問題として浮かび上がってきたのかなという。
p50
SFの果たす役割は、それが可能になる道筋を提案して、見せてあげることだと思うんです
163
目の前の現実を相対化することがSFの役割

トロッコ問題というのはマイケル・サンデル教授『ハーバード白熱教室』でもとりあげられていましたが、災害モノにはつきものなのできっと「日本沈没」にも出てくることでしょう。と予測しておきます。

『世界SF作家会議』はSFファンならずとも、今回のパンデミックについて考察したい人におすすめです。実に示唆に富んだ言葉の玉手箱です。逆にドッカンドッカンがSFだと思いこんでる方には地味でつまらない本でしょう。

Pulp-O-Mizer_Cover_Image ちんぼつ


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