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バズるドラマの書き方~イセコから #うちわくりゅ まで

いまや年末年始の風物詩
ドラマの一挙放送

TBSでは『天国と地獄 ~サイコな2人~』をやっていたので見ることに。
本放送では3話くらいから見始めたので最初の方を補填しておこうという意図もあったのだが、結局、今回も途中からになってしまった(笑)

本放送当初はいまどき実写モノで男女の入れ替わりなんて
また韓流ドラマのリイク?
とか思ったら、そうじゃないと。
ならマンガ原作?
と思ったら最近めっきり減ったオリジナル脚本と知って二度びっくり。

先クールのフジテレビは「アバランチ」「スーパーリッチ」
二作品もオリジナル脚本があって意欲的だと期待したのだが
やや期待外れだった。
「アバランチ」は超法規的な世直し組織というありがちな設定はまあいいとしても、田中要次 が爆死する回が矛盾だらけでなんだかなぁな着地は否めなかった。
これ死ななくてもすんだよね?
みたいな主要メンバーの生死にかかわる設定の手落ちは流せない。
渡部篤郎他のキャストはよかっただけに残念だ。

「スーパーリッチ」の方は論外中の論外。
各種設定が稚拙すぎた。
新人作家募集の特設サイトがぜんぜんバズらず
「アクセスゼロです!」
とかいいながら、ラップトップの画面を掲げピンチを訴えるシーン、
いやいやいや
表示してる時点でアクセスカウンター「00000」はありえないから。
なんなら検索エンジンのクロウラーがやってきても10くらいはあがる。
電子書籍専門出版社なのに応募原稿はなぜか手書きばかり。

企業買収の描写も「ホワイトナイト」とか「ゴールデンパラシュート」とか
あんた昨日ググっておぼえた単語をただならべただけだろ?
みたいな雑な使い方。
だいたい、のっとりを阻止したくだりまでの雑さは受け流すとしても
やられた松嶋菜々子社長が
「やるわね負けたわ」ですますはずがなかろう。
あんな100対0で勝てる裁判、ノータイムでやらなきゃ株主から訴えられる。

こうした企業事案は「雲の上」の出来事なので
テキトーに描いてもイッパン視聴者にはカンケーなかろうとたかをくくってるのかもしらんが、こうした経済事案にからんで痛い目に遭ってる方々はいまやそこら中にいるのだ。

テレビマンこそ浮世離れした「雲の上」で優雅にくらしてやがると思われるのがオチだ。
でも、このドラマで決定的に許せなかったのは
マンガ界を舞台にしていながら紙文化に対するリスペクトまるでなかったこと。
ファンド会社の社長が江口のり子率いる会社を救ってやるかわりに娘をデビューさせろと、娘を伴い企画書も数本携えてくるのだが、
江口のり子社長は企画書の中身を一切見ずに
破り捨ててしまう。
「取引」を断るのは勝手だが企画書という「作品」を破くのは
見てて胸糞悪かった。

たちが悪いのは、娘のヘタクソな原稿を社員たちと見ながら
「地獄絵図やな」と言ってたくせに、他の資金繰りがつくまでキープするべく、すぐには断らず返事をのばしていた点だ。
それで「企画書破き」とは紙文化どころか人としてどうなのかと。
ギョーカイを舞台にしてるかぎり、これは「悪役・敵役」の所業としてもあり得ない。

また同人誌で活躍する「メジャー嫌いの伝説の漫画家」にどうしても書いてほしいと頼み込み、最後は熱意に負けコミケ出品用の冊子の印刷を手伝うことを交換条件にOKをもらうのだが、結局、本作のもうひとりの主人公、赤楚衛二くんの実家の印刷屋がポカをしてコミケ当日、欠品という大損害を与えてしまう。
 これはてっきりなんらかの方法で伝説の同人漫画家との関係修復という「回収作業」があるのかと思いきや、そっちは放置で、逆に加害者である実家の印刷会社を営む両親をあまり責めたらアカンみたいな着地になっていた。
 「熱意に負けた」くだりも誠意が通じたというよりストーカー的なしつこさに負けたという流れで、これは一見、現実的な展開のようにも見えるが単に作家の心を溶かすようなセリフのやりとりを考えるのが面倒くさかっただけだろう。
 伝説の同人漫画家がザコキャラ扱いなのだ。

紙文化というかクリエイティブそのものがすみからすみまで軽視された設定だ。
しかも主体が企業社会に染まり切れないピュアなひとたちという設定のもとでこの展開は脚本家自体の倫理観すら疑われる。

江口紀子の高評価もよく分からない。きっと近い過去に何かいい役をやったのだろうが、ほぼ初見の私には彼女の何がいいのかわからなかった。ここらへんがある意味「神の視点」たるギョーカイ高評価の落とし穴だ。はまり役にあたれば存在感も出てくるだろうが、それはその作品内限定のものかもしれないし、主役レベルの存在感かどうかは疑わしい。

さて、『天国と地獄 ~サイコな2人~』がよかったのは、シンプルに主人公をピンチに陥れ、それを解決するというストーリーテリングのキホンをおさえていて、その手数も最近のドラマの中では多めだったことだ。

登場人物がが時折眩しそうに天を仰ぐ、金環日食をからめたくだりは米ドラマシリーズ『HEROES』からの引用だと思われるがこの地味な演出が奄美の神話というファンタジーを少しだけSF寄りにすることに成功していた。
 SFとファンタジーの明確な区別はないが、SFは相対的に「辻褄」の要求がファンタジーとくらべ高めになるので制約が増える分、主人公にピンチを与えやすくなるし、解決した時の視聴者の納得感も大きくなる。

ファンタジーは「何でもありかよ」とつっこまれやすく、韓国ドラマのリメイク「知ってるワイフ」は実際、エンディングも含めそういう展開だった。
 
 ただ2次元のセカイでは魔界からとつぜんおちてきた謎の美少女と同棲生活がはじまるなどという使い古された設定がいまだに生き残ってるところをみるとある層にに向けてファンタジーなご都合主義は未だ需要はある。
 先述の「HEROES」も実はSFというよりはファンタジー。MCUやDCなどのアメコミものもファンタジーだが、あちらはSFX&CGドッカンドッカンという圧倒的な視覚的得力とセットなので同じ土俵では語れない。

『天国と地獄 ~サイコな2人~』では考察用のタネも過剰なまでにバラまかれていた。
わかりやすく登場人物の名前が

望月彩子(綾瀬はるか)
日高陽斗(高橋一生)

太陽と月がそれぞれ2回づつ出てくるという
マンガのキャラのようなネーミング。

東朔也(迫田孝也)の漢字の説明をするときもわざわざ
新月の朔」などといっていたが
「朔」の説明で「新月」などと言う人はフツーいない。

「なぞとき」「考察」というおもちゃもまたファンタジーの作り物臭さを消すのに役立つ。

さてここまでは正攻法のハナシ。
イッキ見放送は通常の再放送とはちがい、場合によっては本放送並みにSNSがバズる。
『逃げるは恥だが役に立つ』の一挙放送のときは、放送がなかった関西地方の方々の不満コメントまでがバズった。

で今回の『天国と地獄 ~サイコな2人~』でも本筋とは少しズレた部分への反応がtwitter上を席捲した。
ドラマは、序盤で、綾瀬はるか扮する女刑事と高橋一生扮するサイコな容疑者のココロが入れ替わってしまうのだが、当然のように画面上では綾瀬はるか化した高橋一生高橋一生化した綾瀬はるかの演技が展開されるわけで、そこに女性ファンが激しく反応する。
特に高橋一生には「イセコ」という呼称までついていて、

「一挙放送、またかわいいイセコが見れるのね」

と、もう、ワーキャー状態。
「ごちそうさま」
などというコトバまで飛び出し、ほとんどオタク女子向けのポルノ状態

こういう「本筋そっちの系バズり」の極みは、藤原竜也主演の「青のSP」の初回に。
いきなり序盤で「#うちわくりゅ」なるワードがトレンドに。
 これはジャニーズの22人組、少年忍者のメンバー内村颯太・元木湧・深田竜生の3人のこと。
なぜバズったかというとドラマの序盤の暴行シーンで加害者であるいじめっ子三人組の役で彼らが登場したから。
「ちゃんと演技ができてる」などと
ある意味、ストーリーに感情移入しすぎず正当に演技を評価してるクロウトな感想(笑)
物語の序盤も序盤だったというのが功を奏したのかもしれない。

コント番組の「新しいカギ」ジャニーズwestがゲスト出演したときは、出演前、出演中、出演後もジャニオタtweetがバズりやまず、どこか違う内容の放送をしてる地方があるのか?と思ったほどだw
 その昔、漫才ブームの時に会場の黄色い声援(←死語?)が鳴りやまず、
なかなかネタが始められなかったというエピソードを思い出した。

とはいうものの、こうしたバズりはある程度予測はできても皮算用するほどの確実性はない。
ところがこれをあきらかに「もらいに」言った演出があった。しかも脚本レベルで。

それは有村架純、林遣都主演の「姉ちゃんの恋人」(2020年カンテレ)
これは有村架純扮する安達桃子が若くして両親を亡くしたあと
三人の弟たちの面倒を見ているという肝っ玉姉ちゃんドラマ。
タイトル通り、桃子と重い過去をもつ吉岡真人(林遣都)との恋愛がメインなはずだが、一応「群像劇」という体らしく登場人物それぞれのドラマも描かれるのだが、なんかつぎはぎ感というかバランスが怪しい。
桃子の親友みゆき(奈緒)が安達家の3人の弟のひとりである和輝(高橋海人)にカフェでコクられるシーン。
これがあきらかにバズり狙いだった。

カズキ「みゆきさん俺の顔どお?きらい」
みゆき「え?…あ、いや、えっと…はい…世界中が好きだと思うけど」
カズキ「じゃ、よかった、嫌いだったら無理だもんね、付き合おうよ。ね?」
みゆき「は?え?あ、いやいやいや、本気で言ってんの?カズキ」
カズキ「本気、顔見てわかんない?」
みゆき「いやいや…あのね、その大変なんていうか、身に余るっていうか、有りがたい話なんだけど、なんていうのかなぁ、女にはね、そりゃ幸せでサイッコーだけど、受け入れちゃいけないしあわせみたいなものがあるのよ、うん、だってさぁ、うん、うーん、だってさ、なんていうのかな、うん、神様に申し訳がたたないっていうか、ひとりじめしちゃいけないっていうか、うん、バチがあたるっていうかぁ、うん、そういう、そんな気がするしあわせ?がね、あるのよ」
カズキ「わかんない」
みゆき「そーだよね、わかんないよね、わかんない、わたしも。すごい年上の男の人がさぁ、若くてカワイイ女の子とつきあってると、なんか自慢げっていうか、どうだ?みたいな感じになってさ、まわりもさ、なかなかやるな、みたいな感じになるけど、なんで年上の女が若いカズキみたいのとつきあうと、んー、みんなに嫌われるっていうか、なんか、イヤラシーみたいな感じになるのはなんでですか?」
(みゆき、ここでカメラ目線)
みゆき「私は誰に質問しているんでしょう?」
カズキ「気にすんなよそんなの」
みゆき「え?」
カズキ「じゃさ、恋人を前提とした仲良しからはじめよう、ね」
みゆき「は?」
カズキ「ね」(笑顔)
みゆき「なんだ、その顔…あ神様、どうかお許しを」
カズキ「ん?」
みゆき「よろしくおねがいします ふふふ」
カズキ「やったー」

いくら群像劇だと言い張ったところで
カズキとみゆきのパートだけが明らかに浮いている。
特にこの回はメタフィクション状態
「世界中が好きだと思うけど」
というセリフはみゆきからカズキではなく
ジャニーズアイドル、King & Princeのメンバー高橋海人に向けられたものだ。
ふつーの男女の会話で世界なんて出てこない。
そしてこれは編集点ならぬバズり点の設定でもある。
バズりパターンとしてセリフの復唱というのがある。
これがまんまと成功。

#姉ちゃんの恋人 世界中が好き

で検索するとウヨウヨ出てくる。

今度は
「ひとりじめしちゃいけないっていうか」
と、ここでジャニオタに対してのエクスキューズというか
お伺いを立てている。
たとえ、架空のハナシでも共感が得られなければファンは荒れるものだ。
この保険がきいたのか
みゆきは毎回ジャニオタの気持ちを代弁してくれているなどと共感する声も。
きわめつけはカメラ目線。
「デッドプール」で有名になった「第4の壁」というやつだ。
この用語は知らなくても昔からメタフィクションは日本のポップカルチャーの中に当たり前のようにあった。
「古畑任三郎」堂本剛が33分の放送時間を持たせる「33分探偵」とか。
この慣習のそもそものルーツはマンガかもしれない。赤塚不二夫のマンガなんてそんなのだらけだった。
向こうでは「第4の壁」は禁じ手扱いらしいが
日本ではオシャレですらあったりするからむしろやりやすかろう。

かくして海人くんのあざとカワイイぶりはネットではバズったが
吉田潮さんが「ゴールデンで朝ドラをまた見せられても」と評したように
ドラマの作りは少々、地味すぎたようで視聴率のほうはいまひとつだった。
ただ、「あなたの番です」のサイコ女子役でブレークした奈緒の次なる「着地点」としてはよかったとはいえる。

そんなわけで「使えるコマ」が多いほうが演出はコントロールはしやすい。
それが成功するかどうかは別として。
でもひとりでコントロールしようとするよりも
「分業」でケミストリーを起こしたほうが爆発は期待できる。
大抵のディレクターズカット版の評判がいまいちなのからもわかるように。

「本筋そっちの系バズり」にしても
「知ってるワイフ」大倉くんは同じジャニーズで
しかも関ジャニ∞の中でも男前担当であるはずなのに
役通りの「クズ夫」としてコメントを浴びせられていたので
何がどう転ぶのかわからないものだ。

結局は「運」だという身もふたもない結論(笑)


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