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間違いだらけのコンプラ批判

わが国ではドラマなどで逃走犯がシートベルトを締めるのはおかしいとつっこまれて久しいですが、でも、それってほんとうか?

数々の賞に輝いた 「本場米国」のハードボイルド小説にこんなくだりがあります。(元々はネーミングと語学学習をテーマにやってきたんでその要素は多少受け継いでたりします)

“Now put on your seat belt Last thing we need right now is to get pulled over just for having a kid with no seat belt..
(さあ、いい子はシートベルトを締めな。おまわりにとめられたくはないからな。)

She Rides Shotgun (A Lesson in Violence) by Harper Jordan

脱獄犯である主人公は警察からはもちろん逃げつつ、報復のため家族を殺そうとする暗殺者からは愛娘を守るべく連れまわしているというシチュエーションです。小沢仁志さんもびっくりな最強、最凶なこの男は日本の2時間サスペンスに出てくるようなヤワな悪党ではございません。

He liked being a bad guy more than he’d liked being a husband or a father.(夫や父親であることよりも悪党であることを選んだオトコ)

She Rides Shotgun (A Lesson in Violence) by Harper Jordan

でその外見はといえば

He had a face carved out of pebbled rock and tattoos all over, the kind of stuff the boys in her class drew on the backs of their notebooks, dragons and eagles and men with axes. His muscles seemed so big and sharply drawn it was like he was missing his skin, His hair, which in pictures was the same dirty blond as her own, had been shaved clean away.
(まるで岩から彫りだしたようなゴツい面構えにスキンヘッド。男の子がノートに落書きするような竜やタカや斧を持った男といった図柄の刺青が体中に入っていて、その筋肉ときたらまるで大会前のボディビルダーのような仕上がり。)(意訳です)

She Rides Shotgun (A Lesson in Violence) by Harper Jordan

「シートベルト批判」は今年に入っても続いているようで、「聞く力」でおなじみの阿川佐和子さんもフジテレビ『アウト×デラックス2024鳥肌が辰!?最強アウト集結SP』(1月11日放送)の中でふれていましたが、奇しくもその翌日に放送されたテレビ東京午後のロードショー、通称午後ロー、「SWAT」(2003)の中にこんなくだりがありました。

We've been lookin' for this guy a long time. Busted tail light brings him down? That's amazing.
(我々が長年追っていた男が、まさかテールランプの故障がきっかけでパクられるとはね)

S.W.A.T (2003)

10ヶ国以上で国際使命手配をされていてインターポールからも追われているその男は、食事会の席で裏切者をひとり殺しあとの運転中に
「テールランプ切れてますよ」
と女性白バイ警官に停められ職質を受けます。車の持ち主を聞かれ「叔父のです」というと、その叔父さんには逮捕状が出てていますということで、あなたが何者なのかもふくめ詳しくは署のほうで聞きますという展開に。

要するに「風邪は万病のもと」、職質は犯罪者の天敵、悪党なら絶対に避けなければならないのです。

かつて日本テレビ放送されていた「ネプ&イモトの世界番付」という番組の中の「日本のあるあるは世界でもあるあるか?」というコーナーで「学校では不良はやっぱりもてモテるのか?」というお題があったのですが、「わたしたちの国では不良はそのままギャングになってしまうようなヤバすぎるやつらなのでそれはない」というのが答えで、このシートベルトの件はそれを思い起こしてしまいました。 
 不良が安全求めるなんてダサいぜ…なんていうのは日本のヤンキー中高生の発想です。(もしくはスギちゃんのネタ) 
 シートベルトは装着の手間よりもあきらかにメリットが上回ります。

さて、こう書くともうひとつっこみくるかもしれません。
こないだ見たハリウッド映画ではシートベルト締めてなかったぞ?
というつっこみ。
はい、逆にそのつっこみに答えることでこの文は完結できるというものです。

ここでネットの記事を紹介しようと思います


7 scenes showing tough guys with or without seatbelts


ざっくり言うと、シートベルトの装着が法令化されても、最初はなかなか普及しなかったのはアメリカ人の根底には「個人の自由」が侵害されるという抵抗感があったということです。それが「ワイルドスピード」のような映画のワルたちにも共通しているというのは興味深い事実ですが、これは血を流して自分たちの手で民主主義、自由主義を勝ち取った歴史を考えるとなるほどそういうことかと理解できますし、その哲学的な根拠には銃規制が進まないことに通じるものをも見て取れます。

 映画を通してその変遷を説明していますが、とくにシリーズ中3本フィーチャーしているジェームズボンド映画をみると現実と映画との距離感の変遷がよくわかるといっています。
 「カジノロワイヤル」のボンドはどんなに急いでいてもシートベルトを着用しているといいますが、そのことが過去のボンドにくらべて能力の低下を招いているかというとむしろ逆で脳震盪などの不必要なリスクを回避することで任務が中断することを防げていると。
 つまり日本の逃亡犯もシートベルトを着用すれば職質の危険性を回避できるし、万が一ハリウッドばりのカーチェイスになったときもリスクを最小限にします。そして日本人には米国人のような「建国にまつわる哲学」はないので、むしろなぜ着用のひと手間を全否定するのか?
 さらにいうと「TOMORROW NEVER DIES」ではBMW750による
「Adjust the seatbelt and follow all the instructions」
というシートベルトの着用を促すような音声ガイダンスが登場しますが、これはそもそも暗にBMW社の要請だったのではないかと示唆しています。
 日本のドラマにおけるそのヤクザのシートベルトも(そんなことが本当にあったとしたら)スポンサーである自動車会社の要請である可能性があります。戸田恵梨香さんはフジテレビ「ボクらの時代」でヤクザががシートベルトを締めるようなコンプラの下では役者は続けられないなどと言っていましたが、CM出まくっていて、それ故に政権には絶対服従のような立場のわが国のスーパースターさんたちにはそんなこと言う資格があるでしょうか?

ここ数カ月、ギャンブル依存症というワードがあれほどフィーチャーされても錚々たる顔ぶれが競艇のCM画面を飾っています。コロナ禍ではネットカジノに次いで競艇の伸び率がナンバーワンだったそうです。実害のないシートベルトのコンプラに噛みつく前に再考すべきはまずはこっちだろう。
 100歩譲って、シートベルトの着用はリアリティを著しく欠くというのが正しかったとして、社会的影響という意味では実害はないし、むしろシートベルトは締めるものだと子供をふくむ世間に刷りこむ効果があるかもしれません。

かつて過度な平等主義のなれの果てとして騒がれた
「運動会の徒競走で全員手をつないでゴール」
というのはTBSラジオの番組の調査では実際にはそんな事実はなかったという結論でしたが、ヤクザのシートベルトもその類の都市伝説ぢゃあないでしょうね?

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