きものリアルクローズ 2
受け継ぐ楽しみ
私のきものの多くは、新たに自分用に誂えたものです。最初の頃はずいぶん頂き物があったのですが、染めのきものがほとんどだったこともあり、若い人に譲りました。でも何枚かは、今も大切に着ています。
寸法を直したり、染め替えたり、八掛を直したりと、カスタマイズすることは、洋服とは違うきものならではの喜びです。手直しすることで、生まれ変わったように新鮮な表情を取り戻すきものは、なんと優れた衣類なのでしょう。もちろん、すべてのきもの素材に当てはまるわけではありません。保存状態にもよります。上質な絹地は染め替えでリフレッシュします。また麻や木綿、紬は水を通すことで、味わいが深まります。
最近、祖母の喪服を手直ししていただきました。母が亡くなり、その遺品を整理していた時に、箪笥の中から出てきたものでした。
広げてみると、袖口と裾のフキに綿が入っていました。フキ綿と呼ばれるもので、裾や袖口に重みを出すため真綿を入れた古式ゆかしい仕立てです。付属する帯締めはやはり真綿を入れた丸ぐけで、戦前の匂いがしました。素材は羽二重。つるりとした生地です。ググってみたところ、かつての喪服は、関東は羽二重、関西は一越縮緬だったとか。祖母は伊豆の人ですから、関東圏。なるほど、と思いました。
結婚した時に、私は喪服の用意を断りました。きものさえほとんど着たことがないのです。訪問着、色無地、小紋、コートなどは、母の意向もあり用意することになりましたが、それさえ、しつけ糸そのままの箪笥の肥やしでした。
ところが、30歳を過ぎてきものを着るようになれば、冠婚葬祭の場も増えて、礼装の必要が生まれます。当時、出版社勤務だった私は、洋服はカジュアルで動きやすいもの、打ち合わせはジャケット、というゆるいワードローブ構成ゆえ、コンサバやフォーマルがどうも苦手。その部分をきものがフォローしてくれるようになりました。ただ、喪服をどうするかが課題でした。黒い喪服は親族の立場の時だけですし、喪のアイテムは、時期を見計らって仕立てないといけない、とのこと。誰かの死を待っているようだからという理由です。そんなこともあって、なんだかグズグズと先延ばししていたのですが、思いがけず喪服が出てきて考えました。手直しできれば祖母や母への供養にもなるし、受け継ぐという心持ちをジワリと味わえます。着丈を継いでもらって(悉皆先がよく似た生地を見つけてくださったのです!)、改めて色掛けもして、と手間はかかりましたが、今、私の手元に、ようやく喪服一式が揃いました。
もしかしたら、羽二重の喪服を着る人、今はそういないかもしれません。ちょっと古式ゆかしいですが、祖母の遺品を母がそっと持ち続けていたのは、いつか私が生かしてくれるのではと思っていたように感じます。