一枚の紙が緯糸(よこいと)になるとき
こちこちと数種類の和紙をちぎっては貼り、ちぎっては貼りを繰り返していた45センチ×60センチ幅の和紙が、裁断から返ってまいりました。
このように、45cmの幅に平行にして、1本1本ごとに細くスライスされています。
今回裁断屋さんへお願いした切幅は、約3mm。このような細くスライスした状態にした和紙などのことを西陣織業界では、『引箔-ひきばく』と呼んでいます。
今回創作したこちらの、緯糸(よこいと)になる引き箔は、当工房で織り込む緯糸の中でも、もっとも太い部類に入るものです。
一番細いものになると、約1mm幅のものもあり、1~3mm幅のあいだで、その時々の表現に必要な切幅を選びます。
約3mmの和紙を緯糸として織り込むと、切幅が細いものに比べて、和紙の「面」が強調されてきます。
なので、緯糸そのものを見せ場として使いたい時などに、太い切幅のモノを使用します。
他の切幅のものは、その見せたい表現に沿って選ばれるので、随時ご紹介していきたいと思います。
こちらの引箔は、和紙に二種類の漆を頒布して裁断したものです。
漆は、樹液を集めて精錬して、古くから紙や木製品を保護したり、接着材などの目的で使用されてきました。
塗料としての漆をぬり、磨き上げる作業を繰り返すことで、鏡面のような美しい光沢を出して装飾をほどこしたり、頒布した繊維の強度を増す目的のためなどに使用されてきました。
西陣織の緯糸にも、漆の糸が登場してきますが、そちらに関しては改めてご紹介いたします。
さて、ここからは、どのような取り方に緯糸をはめていくかなのですが、
上にご紹介した漆の引箔も、今回創作した和紙の引箔とともに、帯の一部に加えようと考えています。
下の写真の他にも、いくつかのパターン(紋の型)があるので、そのパターンにくりぬいた型の下に引箔を当てはめてどのような見え方や、配置になるのかを確認します。
ちなみに写真に配置しているのは、古事記をちぎって貼った「古事記ちらし」とともに、
奄美大島・鹿児島市などで製織されている『大島紬』をこれまた、独自の工夫で緯糸に加工した引箔をそれぞれ配置しています。
これらの引箔以外の緯糸も、紋の型にそって配色します。メインにはお絹の色糸で、きき色に金銀糸などを用います。
それらの、製織に必要な原材料や指図書などをすべて準備して、機場に送ります。
主な機場は、京都府北部にある丹後半島の与謝野町にあります。丹後は、父の生まれ故郷でもあり、わたしも昔から馴染みのある土地です。
小さいころは、父が帰郷するたびにカニをおなか一杯食べさせてもらい、
汐のかおりを吸い込みながら夕日を眺めて散歩したりしていると、近くの民家から「カシャン、カシャン、カシャン、カシャン」と織機がうごく機音が聞こえてきたりしていました。
さてさて、機場へ送られた原材料たちがどのような姿で返ってくるのか。
経糸のあいだにはさみこまれて、織りあがっていく引箔たち。細く裁断された和紙が緯糸になるのが『製織』という工程です。
織れ上がった反物が戻り次第、随時ご紹介させてもらおうと思います。