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セシルマクビー全店閉店。アパレルの生き残りはアラフォー世代と一緒に年を取ることが鍵

セシルマクビーがECを含めた全店舗を閉店へ。近所のショッピングモールにもひっそりと入っていたセシルですが、お客さんで賑わっている様子はなかったように思います。コロナがなくとも遅かれ早かれ閉鎖していたのでは。

ギャル服の代表的ブランドだったはずのセシル。ショッピングモールで見かけたセシルは、ギャルっぽくありませんでした。それもそのはず、セシルは2017年にキーカラーを白×黒から白×ピンクに変更、コンセプトを「モテ服No.1」に刷新していたのです。2017年に「モテ」?

1990年代後半、ギャルの時代。Roxyなどのサーフブランドが流行した流れを受けてか、日焼けした肌によく合うアルバローザやココルルなどのロコなイメージのブランドが人気を博しました。私はココルルのショッパーが可愛くて好きでした(鳥の絵が描いてあるやつ)。街中でもパレオやらレイやらを身に纏った女のコ達が歩いている光景を普通に見られたのですから、コロナのいまとなっては随分と浮かれた時代だと感じます。この時、主役はコギャルと呼ばれる高校生でした。高校生でもハイブランドの財布やバッグを持っていました。雑誌『egg』『Popteen』『東京ストリートニュース』などでカリスマ的に人気のある読者モデルは、スーパー高校生なんて言われていました。

2000年、セシルマクビーが109で売上ナンバーワンになります。浜崎あゆみさんが愛用しているとかで、その少し前くらいから人気が出ます。2000年以降、13年間109での売上トップだったそうです。セシルマクビーは、ギャル服の中でも、少しお姉さんな感じのセクシーでクールなテイストでした。「ギャル」の概念も、ガン黒ではなく、「セクシーでクールなファッションを取り入れている人」に変わり始めます。この動きを、黒ギャルから白ギャルへ、安室奈美恵から浜崎あゆみへ、と捉えることもできるのでしょう。

しかし、高校生だったギャルが少し大人になって、単純に嗜好がマイルドになっただけ、なのではないかと思うのです。

その証拠に、セシルマクビーのアイテムは、いわゆる赤文字系の雑誌『CanCam』や『ViVi』でも取り上げられていました。赤文字系はフェミニンでかわいいファッションが好きなモテ系女子大生向け雑誌。かつての高校生が大学生になり、少しずつギャルを捨て、主語を「うちら」から「わたしたち」へ変え始めたのです。『egg』や『Popteen』の読モだった高校生が、高校を卒業して赤文字系の雑誌モデルになった例なんていくらでもあります。

『Vivi』は若干、『Cancam』『JJ』『Ray』などと比較するとギャル色が強いイメージ。浜崎あゆみさんも長く連載を持っていました。そういう意味ではセシルが『Vivi』で紹介されるのはむしろドストライクですが、『Cancam』の読者はもはやギャルではないのです。ところで、リトルニューヨークの膝丈タイトスカートが流行したのを覚えている方はいますか?あの、スパンコールが斜めについているやつ。あのスカートとミュールのスタイルが流行りました。この時、厚底サンダルは絶滅したように思います。これが、2000年の春夏でした。

2005年、ついにエビちゃんOLなる言葉が流行します。かつての高校生たちは、すでに社会に出て働いています。ゆるふわに巻いた髪とビジューやパールのついたツインニット、ひらひらふんわりな膝丈スカートで。いくら流行っているからと言って、さすがにそんなブリブリした格好は好きじゃない人もいます。そういう層を支えたのは、『Cancam』でエビちゃんと人気を二分していた押切もえさんです。

押切もえさんと言えば、それこそ『egg』の読者モデルから始まり、『Popteen』や『東京ストリートニュース』などでも誌面を飾る、コギャルの代表格でした。その後、『Cancam』の専属モデルとなり、フェミニンなエビちゃんに対して、タイトスカートやパンツスタイルなどのクール系で色気のあるファッションを担当します。セシルマクビーと押切さんのコラボアイテムもあったようです。

蛯原ユリさん(当時はカタカナ表記でユリ)や押切もえさんが年を重ねると同時に『Cancam』の読者もまた年を重ねる。2007年、小学館は『Cancam』よりお姉さん向けの『Anecan』を創刊し、蛯原さんも押切さんもそのまま『Anecan』の専属モデルとなるのです。

そして2016年、『Anecan』は休刊となります。この頃には、「モテ」や「フェミニン」よりも「カジュアル」で気負わないファッションが流行り始めます。「抜け感」や「こなれ感」といった新たなワードが登場するのです。これには、「モテ」を牽引していた世代は30代も半ばとなり、会社では中堅どころ、家庭を持って子育てをしだしたことも影響しているのではないでしょうか。もはやモテOLなどとは言っていられないのです。

さて、セシルマクビーに話は戻りますが、ギャルがいなくなったからコンセプトを変えようとしたのは分かります。しかし、厳密にはギャルの多くがモテOLスタイルへと変わり身を遂げ、そのモテOLもファッションより気張らなければならないことができた事情で、とっくに終焉したのです。その2017年に、「モテ服No.1」を掲げたことは、迷走を極めているように思えます。

2000年にセシルの購買層だった世代は、2020年のいま、すでにアラフォー。セシルのターゲットは20代前半でしょうから、アラフォーのトレンドを汲む必要などないかも知れません。けれど、SNSネイティブな若者にとって、ファッションは多様な自己表現の手段のうちのほんの一部に過ぎず、彼らの様式にファッショントレンドを見出すことは困難です。そもそも「ブランド」に興味がないのでは。

テレビや雑誌に翻弄され、流行に踊らされてきた、私たちアラフォー世代。SNSは見る専門、もしかしたら情弱で、「限定品」とか「最後の1枚」に弱い。やっぱり「ブランド」にも弱い。そしてファッションが大好き。流行に合わせて、変幻自在にギャルからモテを経てこなれ始めた今日この頃。服は買ってなんぼ。捨ててなんぼ。同じ服を大事に着続けることって、言うほど善い行いでしょうか。これからも服を買い続けるのは、そんなマインドを持つこの世代なのではないかと思うのです。

今後、アパレルブランドが生き残り続ける最も手っ取り早い方法は、いまのアラフォー世代と一緒に年を取ることではないでしょうか。だって、間違いなく、20年後には、いまでは考えられないくらいの数のアラ還向けオシャレブランドができていると思うのですよ。20代向けブランドより、絶対儲かるって。


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