トッキョー ⑥


6話


「ぐっ…うぅぐ…」
少年は苦しそうに、悔しい表情を浮かべてその大きな手の持ち主を睨みつけた。
主は、少年の前に立っていた大きな男だった。
「うるさいぞ、少年。」
無機質な瞳が、少年に覆いかぶさる。
男のその、目に見えない、得体の知れない大きさに少年は恐怖を感じた。
少年は精一杯の意地と足掻きで遠のく意識の中、喉元の大きな手をパタパタと叩いた。
男は、ゆっくりと力を緩めた。
げほげほと少年が咳き込む。
男は、まだ息の整わない少年の頭掴み、キスするのではないかというほど近くまで引き寄せた。
そして、ボソッと言った。
「暴力は何も生まない。」

少年はその静かな威力に、息を飲んだ。
それはさっきまでの咳き込むほどの苦しさを忘れるほどのものだった。
男は少年から目を離さずにじっと見つめていた。少年も負けじとありったけの負けん気で男を睨み続けていた。
「いいか、お前はトッキョーに行かなくていい。」
男は、目に力を込めて言った。
その迫力に吹き飛ばされぬように少年は顔を押さえた。
「なんでたよ。」
少年は負けない。
「トッキョーには、行くな。」
その、深くて重たい声と、ぬらぬらと光る鋭い瞳と、威厳と、不安と、悔しさと、何故そんなことを言うんだという困惑に、少年は鼻の奥を噛みしめた。
必死に、涙をこらえた。

いいなと思ったら応援しよう!

あらたまき
見つけてくれてありがとうございます。 文章の他に絵を描いております。 おやつでもつまみながら覗いてみてください😌 https://www.instagram.com/jewelry_rain_karashi/?hl=ja