トッキョー ②


2話


少年は、少年を引っ張った1人と怒鳴った1人に挟まれながら、まだ乗り込んでくる人々にぎゅうぎゅうと列車に詰め込まれていった。
『扉が閉まります。ご注意ください。』
ピーッと駅員の笛の音が響いた、その時。


「待ってー!お、降りまーす!」


高い声が響いた。少女の声だった。
皆、彼女の方を見た。
「る、るりこ!」
太い声の女性が叫んだ。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!ダメよ!るりこ!」
少女は人を掻き分け、扉の方へと進んで行った。人と人がぶつかり、それは波となり少年の所までやってきた。怒鳴った1人がチッと大きな舌打ちをした。
その唾が少年の額に飛んだが、少年は少女の事が気になって、全く気づいていなかった。少年は精一杯背伸びをして、彼女を見ようとした。そして前に立つ男達の肩と肩の間のほんの隙間、閉じる扉の間をすり抜け、ホームへ降り立った少女が見えた。彼女はバランスを崩し少しよろめいたがパッと両手でバランスを取りすぐさま真っ直ぐに両足をついた。

彼女は列車の方へ振り返った。短い黒い髪に真っ赤なリボン。少女は何か自信に溢れた表情でをしていて、それはとてもキラキラと輝いて見えた。
扉が閉まり列車は動き出した。
その瞬間、少年はバランスを崩し前にいた男にぶつかった。
「ごめんなさ…」
少年は男を見上げる。男は振り返り少年を見ると、無表情のまま何事もなかったかのようにまた前を向いた。少年は呆然とそのまま固まってしまった。
すると隣にいた1人がまた少年の腕を引っ張っり、立たせてくれた。
「あ、ありがとう」
「さぁ、もう大丈夫だ」
1人はそういうと、男のように真っ直ぐと前を見た。
少年も真似をするように、ぎゅうぎゅうの列車の中で前を眺めた。
目の前に立つ男の背中に、さっきの赤いリボンの少女を思い浮かべていた。

-------------------続く

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あらたまき
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