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エッセイ 雨とわたし
雨って、わたしにとっては希望で、だって魚になれるみたいだから。
水の中でしっとり息をして、魚みたいに海の中をすいすいと泳ぐように生きているみたいだから。
だから雨の日は、傘をさしたくないの。
雨に打たれても打たれ続けるのならそれを当たり前としてしまえば、私はいつでも雨の中で生きれるんだもん。
家に着くと私は人間の世界に戻るの。
雨の降らない、静かで優しい乾いた世界。
いくつになってもびしょ濡れで玄関に入ってくる私を見て、母親はよく怒っていた気がする。あんまり覚えてないけど。
だけどあの日のことはずっと覚えている。
まだ小さかった、小学校1年生くらいの時。
雨を含んだ服を着てることがすごい嬉しくて、うきうきな気持ちで私は家に帰った。
あの時の母親は多分怒ると言うよりは心配してたんだと思う。
風邪を引くからと濡れた服を脱がそうとする母親に、せっかく雨を着ているのにやだや脱ぎたくない、と必死に伝えた。でも、何を言っているのと笑われて自分の気持ちが伝わらないことが悲しくて悔しくて泣いた。
びしょびしょのTシャツを母親は容赦なく絞った。
びたびたと流れてくる雨を見て、
待って、行かないで、流れないでと泣いたなぁ。
姉も母親もきっと、どうしてあの時私がそんなに泣いているのか分からなかっただろうなぁ。
いつまで泣いてるのと怒られて、そのままお風呂に連れていかれて湯船に突っ込まれた。
温かいお湯に浸かりながら、どうしてみんな私の気持ちを分からないんだろう?わたしっておかしいの?と考えて、また伝わらないのかな、と思うと悲しくて、お風呂の中でしくしくと泣いていた。
姉はそんな私を気にも留めず、空になったシャンプーケースをきれいに洗って中にお湯を入れて、それを私の顔にかけて遊んでいた。それで私が何かしらの仕返しをしてそれで喧嘩になって母親にものすごい怒られた。
多分それくらいからだ。私って変なのかなって思い始めたのは。
雨が降っているからお散歩に行こう。
雨に濡れるのが好きなの。
19歳の時、恋人にそう言った。
めんどくせっ。相変わらず変わってるよなぁ。
と言われた。
もうこの時、"変わってる"という言葉は私にとって褒め言葉になっていた。だけど、何故か分からないけどあまりにもショックで、後日彼にお別れを告げた。
彼は泣きながら理由を聞いてきたけど、教えなかった。
雨の中にいるとなんだか、魚の気持ちになれるみたい。
そう言うと決まってみんな、変なやつ、と言ってくる。
わたしはどうやら、変なやつらしい。
いつか、君は変わってるなぁ、あぁそんな君が好きだよって言ってくれる人と結婚したいなぁ。
いるのかなぁ。とほほ。
と、思う雨の日でした。
さて、お仕事に戻ります。
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